Need Help?

News

ニュース

2022.01.06

法学部講演会「元受刑者として生きる ~これまでの~10年、これからの10年~」【犯罪学研究センター協力】

登壇者:五十嵐弘志氏(特定非営利活動法人マザーハウス理事長)

12月17日(金)3講時(13:30-15:00)、NPO法人「マザーハウス」理事長として、元受刑者の社会復帰のサポートなどをされている、五十嵐弘志氏*1を講師としてお招きし、深草キャンパスにおいて法学部講演会を行いました。司会は、石塚伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)が担当し、石塚ゼミ3回生や浜井浩一ゼミ3回生など、約40名の法学部生が参加しました。

今回のテーマは『元受刑者として生きる ~これまでの~10年、これからの10年~』であり、元受刑者として生きることの困難と、これから目指したい社会の在り方についてお話を伺いしました。


講師:五十嵐弘志氏(NPO法人「マザーハウス」理事長)

講師:五十嵐弘志氏(NPO法人「マザーハウス」理事長)


講演会の前半では、五十嵐さんから、元受刑者として生きるなかで様々な差別や偏見などを経験したことや、現在の社会は元受刑者に反省を強く求め、回復をさせない状況にあることの説明がなされました。また、そのような問題に対する、本当の更生とは人との交わりのなかで自分の罪を顧みることにあるのではないかという考えや、マザーハウスを『人をはじくことをしない場所』にしたいという、人とのつながりに対する思いも伝えられました。さらに、五十嵐さんはこれまで出所者支援の一環として、国や地方自治体などの公的機関との間で様々な調整活動をされてきましたが、2016年12月公布・施行された「再犯の防止等の推進に関する法律」*2などの社会の変化に伴って、これからは争いではなく対話によって問題改善に努めていきたいという今後の姿勢についても示されました。

今回の講演会にはマザーハウスのメンバーも参加しており、現在力を注いでいることや、五十嵐さんとの交流の経験などの話がありました。例えば、受刑者の回復にも効果があるコーチングを始めたという方や、マザーハウスの事業部で清掃の仕事をされている方、さらに、矯正管区で受刑者の支援活動をされている方など、様々な仕事をされている方がいました。また、五十嵐さんとのかかわりについては、「よく話を聞いてもらった」「出所後に保護施設に入ることができなかったとき、五十嵐さんに迎えに来てもらった」というメンバーだけでなく、なかには「五十嵐さんへの反抗を通して自らの意見を主張する力を得た」という声もありました。

講演会の後半においては質疑応答も行われ、そこで参加者と五十嵐さんを含むマザーハウスメンバーが感じる犯罪と社会復帰に関する課題がより明らかになりました。刑務所での生活を経験し、元受刑者として生きるマザーハウスのメンバーからは、職場に元受刑者であることを知られ、会社の世間体のために退職を余儀なくされたことや、刑務所で罪を償っても、社会に出れば何をするにしても手詰まりになってしまったことなど、社会において元受刑者という存在を受け入れる土台がまだまだできていないと感じられる様々なエピソードが出てきました。参加者からも、社会が元受刑者という存在を受け入れた方が良いという意見については理解を示しつつも、罪には(社会的な攻撃などを含む)罰がくだるという公平の感覚を、人間は共通認識として持っており、この2つが対立しているように感じるといった、元受刑者という存在を受け入れることの難しさを感じる意見が出ました。その他、「現在友人が刑務所にいて、自分はどう支援すればよいか」「更生するために何が一番大切だと思うか」といった様々な質問が出ましたが、それらに対し、「信じて見捨てないこと、ずっと関わり続けること」「自分が罪をおかした理由を考えて知ること」という答えが出るなど、すべての質問に対し、マザーハウスメンバーたちの、実際の経験を踏まえた真摯な回答がなされました。



最後に五十嵐さんは、参加者に対し、刑務所というものを知って、元受刑者とともに社会で生きるためにどうすればよいかということを考えてほしいこと、受刑者や出所者に関わることがあるのならば決して見捨てないでほしいことを訴えました。その後、五十嵐さん自身が、何度も困難に遭遇しても、諦めなかったことによって成し遂げたことがあるという経験を踏まえて、学生の皆にも諦めずにいろいろなことにチャレンジしてほしいという期待が伝えられ、今回の講演会は終了しました。

──────────────────────────
【補注】
*1 五十嵐 弘志 氏プロフィール
1964年2月10日生、栃木県生まれ。前科3犯、受刑歴約20年、獄中で主イエス・キリストと出会い、回心。受刑中に、国際弁護士佐々木満男先生が身元引受人となったことを契機に、司祭、修道女、牧師との交流を深め、文通、面会、本の差し入れなどをとおしてキリスト教を学ぶ。出所後にカトリックの洗礼を受け、祈りと真の愛の実践をめざして受刑中の人や刑務所から出所した人々のケアに奔走。2014年5月にNPO法人「マザーハウス」を正式に立ち上げ、現在、全国の受刑者との文通プロジェクト、出所者の生活、就労サポート及び、大学や更生保護団体などの講演活動において犯罪被害者支援、出所者の再犯防止に向けての提言を続けている。
https://motherhouse-jp.org/

*2 「再犯の防止等の推進に関する法律」
犯罪や非行をした人の再犯防止を国と地方自治体の責務と明記した法律。仕事や住居がないため社会復帰がむずかしい、刑務所や少年院を出た人への支援策を充実させ、再犯を防止するねらいがある。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=428AC1000000104_20161214_000000000000000