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2019.02.12

中根 真 × 石塚 伸一 対談「犯罪学と子育ての関連性から、日本社会の課題・展望を語る」【犯罪学研究センター】

犯罪学研究センターにおける保育学との関わり

犯罪学研究が子育てに活かせることとは? 犯罪学研究センターで「保育と非行予防」の研究ユニット長を務める中根 真教授と、今の時代にこそ必要な考え方について意見を交わしていただきました。


中根 真(Makoto Nakane)
本学短期大学部長、短期大学部 こども教育学科教授、犯罪学研究センター「保育と非行予防」ユニット長

中根 真(Makoto Nakane) 本学短期大学部長、短期大学部 こども教育学科教授、犯罪学研究センター「保育と非行予防」ユニット長


中根 真(Makoto Nakane)
本学短期大学部長、短期大学部 こども教育学科教授、犯罪学研究センター「保育と非行予防」ユニット

専門は社会福祉学、保育学。「子どもの貧困」の現状をふまえ、保育事業が担ってきた貧困予防の機能・役割について歴史研究を展開。近視眼的になりがちな時代状況を相対化するため、やはり「温故知新」が重要と考えている。現在、保育と非行予防の関係性について歴史研究を進めている。
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石塚 伸一(Shinichi Ishizuka)
本学法学部教授、犯罪学研究センター センター長・「治療法学」「法教育・法情報」ユニット長

犯罪学研究センターのセンター長を務めるほか、物質依存、暴力依存からの回復を望む人がゆるやかに繋がるネットワーク「“えんたく”(アディクション円卓会議)プロジェクト」のリーダーも務める。犯罪研究や支援・立ち直りに関するプロジェクトに日々奔走。専門は刑事学。


石塚 伸一(Shinichi Ishizuka)
本学法学部教授、犯罪学研究センター センター長

石塚 伸一(Shinichi Ishizuka) 本学法学部教授、犯罪学研究センター センター長



――中根先生の最近の研究活動と絡めて、現代の日本社会における保育の課題を教えてください。

中根:
現在、非行や犯罪に至る前の予防について保育の観点から研究しています。保育という用語から非行や犯罪を直接的に連想する人は少ないと思いますが、私は以前に発表した論文の中で、明治時代に昼間保育事業の先駆者と呼ばれる生江孝之が不良少年を「境遇の罪」、「社会の罪」ととらえ、幼児にとっての境遇の重要性を認識していたことに言及しました(「昼間保育事業の先駆者・生江孝之の再評価」日本保育学会『保育学研究』第54巻2号、2016年)。いまの言葉で言えば、乳幼児期のネグレクトが後々の非行や犯罪につながる可能性があるため、「境遇を選択することの出来ぬ幼児」が「不良の境遇」を1日数時間であっても離れて、心身ともに健やかに育つ場所として保育所が構想されていたことです。このように非行予防の観点から保育をとらえると、非行少年や犯罪者と呼ばれる人びとの乳幼児期が重要な問題になってきます。例えば、戦後の一例として、有名な永山則夫連続射殺事件(1968年)を思い起こすと、永山氏の幼少期が想像を絶する劣悪な環境だったことは着目すべき点です(堀川惠子『永山則夫』岩波書店、2013年を参照)。私は、彼らの乳幼児期における養育環境や保育環境を再検討することが、非行や犯罪の予防のヒントにつながるのではないかと考え、研究を進めているところです。

石塚:
永山氏の事件では、後の精神鑑定で、母親からのひどいネグレクト、兄弟からの壮絶な暴力など生育環境に問題があったことが分かりました。世間では「永山事件」といえば死刑との印象が強いようですが、実は二審で無期懲役の判決が出ています。判決文によると、「赤貧洗うがごとき環境の中で育った被告人」にこの凶悪な犯罪の責任を全て背負わせることはできない。戦後の貧しい社会や福祉、教育の貧困がこの犯罪の一因であることを正面から認めていました。永山則夫氏だけでなく、重大事件を起こした人たちの多くが「この状況なら、あるいは自分も」と思わずにはいられない半生を送った人たちです。

中根:
確かにそうですね。近年は少子化が進み、教育への熱意が暴走する親がいる一方で、自分のことだけで精一杯な親もいます。つまり、子どもの人生が生れ落ちた家庭次第という家庭間の格差が顕著な時代です。だからこそ、子どもの育ちをサポートするには、家庭の「外」で子どもの存在を受けとめる、親とは異なる価値観を持った多様な大人の存在との関わりが、親や家庭と同等ではないにしても必要不可欠な状況にあります。保育所や幼稚園、認定こども園の保育者や、小中学校の教職員はそのような意味で重要な大人であるわけです。
また、地域コミュニティでは近年、子どもの貧困の深刻化を受けて、「子ども食堂」や学習支援などが急速に増えてきていますが、小学校低学年の児童や未就学児童など、まだ単独行動できない年齢層に対しては関わりや支援の裾野が広がっていない現状があり、今後の課題だと考えます。就学後も大切なのですが、保護者に養育が一任されている就学前こそ、より一層重要であるという社会の認識を拡げていく必要があります。

石塚:
私も乳幼児のお母さん方から、保育所に関する相談を受けることがあります。今の保育事情だと、フルタイムで働くならともかく、パートタイム勤務では所得的に損をしてしまうと悩む保護者が多い。保育料がネックになってしまうという制度には問題がありますね。



中根:
いま政府は都市部を中心に保育所待機児童を解消するため、保育所の増設などハード面の量的な整備を優先して急ぎ進めていますが、逆に保育士の質や待遇条件、保育内容などソフト面の質的な問題や課題が顕在化しており、これらを「保育格差」と明言する論者もいます(小林美希『ルポ保育格差』岩波書店、2018年)。他方、親子の関係や関わりの質への影響に留意する必要もあります。保育所が量的にも質的にも整備されることで、逆に失われるものはないかという懸念です。例えば、保護者の労働時間が増加すれば、必然的に子どもとふれ合う時間が減ります。世帯所得の増加や親の職業的な自己実現も重要ですが、誰にとっても1回限りの子ども時代であることをふまえれば、子どもが保護者と過ごす時間、「子育てする時間」の価値はかけがえのないものであり、保護者の立場だけでなく、子どもの立場からも総合的に保育制度や税制を考え直す必要があるかもしれません。

石塚:
子育てには、普遍的な理想像が存在しないんですよね。社会自体が不完全で、常に変化していくものですから。各時代においての理想があり、それを追求していくべきなのでしょう。

――犯罪学研究センターにおける保育学との関わりについて、どういった展望をお持ちですか。

石塚:
犯罪学には原因を解明する役割と、犯罪を予防する役割があります。これまでの司法では、罪をおかした人の背景を個々で見て対応してきました。しかし、犯罪学が答えを返す先は、罪をおかした人、本人だけではないんです。今、家庭で育っている子どもが、成長プロセスの中で犯罪という傷を負わないで済むように予防策を考え、社会全体で「次の犯罪」が起きないようにしていくことこそ大切です。

中根:
石塚先生がおっしゃったことを、私はまさに保育学、社会福祉学の側面から見ています。先ほどの永山氏もそうですが、非行や犯罪をおかしてしまう人達は「子ども時代を子どもらしく生きられなかった人びと」という見方ができるのではないかと思います。言いかえれば、子どもの権利を奪われていた人達という見方です。彼らが乳幼児期をふくめ子ども時代をどのように過ごしたか、どんなふうに育てられたかを改めて問い直してみることが重要です。そして、彼らの子どもとしての育ちのなかで何が足りており、何が不足していたのか、もし不足していたならば、社会はその不足部分をどのように制度・政策的に補うことができるのか否かを考えていくのです。その答えが、今後必要な保育政策や社会福祉政策の課題を明らかにするのではないかと考えます。

石塚:
アメリカの社会学者、トラビス・ハーシ(Travis Hirschi)は「なぜ大多数の人は逸脱行動をおかさないのか」について「4つのソーシャルボンド(社会的絆)」と表現しました。“①他者への愛(attachment)、②目標達成のために個人が積み重ねてきた投資(commitment)、③慣習的活動に巻き込まれていること(involvement)、④規範や道徳への信念(belief)”が逸脱行動をとりにくくするというものです。
彼の共著者マイケル・R・ゴットフレッドソン(Michael R.Gottfredson)に会った時、「4つの絆は子育てや教育に還元されていくべきもの」と聞き、中根先生のことを思い出しました。保育の場に犯罪学理論が貢献できるのではないかと。(マイケル・R・ゴットフレッドソン/,トラビス・ハーシー〔著〕大渕憲一〔訳〕『犯罪の一般理論―低自己統制シンドローム』丸善出版、2018年を参照)



中根:
保育や子ども家庭福祉は子どもたちの将来を見つめつつ、この子どもの育ちや発達にとって、いまここで必要なケアを日々考え、実践していくプロセスです。一方で非行や犯罪は結果ですよね。犯罪学と保育学、社会福祉学がお互いに歩み寄り、非行や犯罪という最悪の結果から逆算して子ども時代のよりよい育ちとそのあり方を考えていく。学際的にクロスさせながら、非行や犯罪に至るビフォー&アフターの循環を明らかにしていくことが必要ですね。これまで保育学や社会福祉学は、最悪の結果から逆算して子どもの育ちを考えるという発想は乏しかったように思いますが、子どもが子どもらしく生きられることがなぜ重要不可欠であるかを実証していく、もう1つの道筋であると考えています。

――中根先生ご自身の学生時代を振り返りつつ、龍谷大学の学生に応援メッセージを。


中根:
20歳前後の時間は、後の人生でとても重要な位置を占めます。こうあるべき、と決まった型こそありませんが、自分にとっての有益性を意識して日々を過ごしてください。アルバイトに励むのもいいのですが、社会に出れば否が応でも働かなくてはならない日々が待っています。学生の今しかできないことに取り組んでほしいですね。

石塚:
私たち大人から見ると、経済的な理由をのぞけば、貴重な学生時代をアルバイトで潰すのはもったいないと感じますよね。

中根:
そうですね。熱中できることを見つければ、より充実した日々になると思いますよ。それでは、自分がいったい何に熱中できるのかと、頭のなかだけであれこれ考える人もいますが、おもしろそうと思ったことを、WANIMAのヒット曲ではありませんが、「やってみよう」ということが大切だと思います。やってみる、始めてみるなかで、自分に合う/合わない、向き/不向きもわかるわけで、自分というセンサーをたよりに試行錯誤を繰り返してほしいですね。学生時代はいろいろな自分を試し、探っていくための自己実験の時間なのだと思います。

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