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2019.04.26

【龍谷大学&カーディフ大学】犯罪学学術交流シンポジウム2019 第一部【犯罪学研究センター】

イギリスの犯罪学教育とEUの教育助成プログラム「エラスムス・プラス」

2019年4月12日、本学深草キャンパス 至心館1Fにおいて、「犯罪学学術交流シンポジウム2019」を開催、約20名が参加しました。

本シンポジウムは、龍谷大学とカーディフ大学の学術交流協定締結を記念し、カーディフ大学より、トレバー・ジョーンズ教授とアダム・エドワーズ博士をお招きし、第一部では同大学における犯罪学教育と、EUの教育助成プログラム「エラスムス・プラス」の概要、第二部では犯罪学の新動向について、ご報告をしていただきました。
【イベント概要>>】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-3328.html
【シンポジウム第一部レポート>>】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-3480.html


【龍谷大学&カーディフ大学】犯罪学学術交流シンポジウムのようす

【龍谷大学&カーディフ大学】犯罪学学術交流シンポジウムのようす


石塚伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)

石塚伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)

はじめに、石塚伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)より「このたびの学術交流協定締結は、当センターのディビッド・ブルースター博士研究員(イギリス・カーディフ大学出身)が大いに貢献した。この協定締結により、本学の学生や若手研究者のカーディフ大学への留学、およびカーディフ大学からの研究者の本学への受け入れが実現することになる。今後一層交流を深めていきたい」と開会の挨拶をしました。

つぎに、トレバー・ジョーンズ教授(カーディフ大学・犯罪学)より、カーディフ大学社会学部・犯罪学科の紹介が行われました。カーディフ大学社会学部・犯罪学科は、1975年に開設された社会学部から発展した学科です。現在は、学部生1000人、大学院生500人、博士研究員140人が在学しており、犯罪および司法関係だけでなく教育、心理、福祉に関わる研究も盛んです。2014年には、社会学の分野において、ワールドユニバーシティランキングTOP100(QS World University Rankings)にも選ばれました。


トレバー・ジョーンズ教授(カーディフ大学・犯罪学)

トレバー・ジョーンズ教授(カーディフ大学・犯罪学)

カーディフ大学犯罪学科には2つのタイプの研究者が在籍しています。
1. Teaching and Research Contracts
学部生や大学院生を指導する傍ら、研究活動を行う研究者です。講師が最新の研究知見を授業に反映させることにより、学部生や大学院生は、いち早くそれらに触れることができます。
2. Specialist research institutes
学部生や大学院生の指導は行わず、研究活動のみを行う研究者です。このタイプの研究者は大型の外部資金を獲得し、大規模な研究プロジェクトを管理・運営しています。


つづいて、アダム・エドワーズ博士(カーディフ大学・犯罪学)は「犯罪学の学びと教え」をテーマに、カーディフ大学における犯罪学教育の実践について講演しました。
かつて、カーディフ大学には、大学院に「MSc Criminology & Criminal Justice」コースが設けられていましたが、2014年以降、「MSc Crime, Safety & Justice」コースと改変されました。エドワーズ博士は、その意図について「これからの時代、単に処罰のありかたを考えるだけではなく、安心・安全の観点から、どのように犯罪を防いでいくかが重要。国も大学も犯罪の予防に関わっていくことが必要と考え、新たなコースを開設した」と述べました。


アダム・エドワーズ博士(カーディフ大学・犯罪学)

アダム・エドワーズ博士(カーディフ大学・犯罪学)

「MSc Crime, Safety & Justice」コースではどのような教育を実践しているか、エドワーズ博士は、「Progression Map」と呼ばれるチャート図を用い説明しました。
はじめに、院生は犯罪学の基本的な理論について学習します。ここでは学問の歴史や成り立ちではなく、実際に社会で起きている犯罪現象や具体的な問題に則した学習を企図しています。

そして、基本的な理論を学んだあと、「SARA」(Scanning=精査、Analysis=分析、Respond=対応、Assessment=評価 の頭文字)と呼ばれる手法を用いて研究を進めます。この手法は、「Problem-Oriented Policing(POP・問題指向型警察活動)」*1に基づいた研究手法です。

エドワーズ博士は「SARA」を①(Scanning=精査、Analysis=分析)、②(Respond=対応、Assessment=評価)に大別し、それぞれの研究手法を解説しました。
① Scanning=精査、Analysis=分析
まず、行政機関のデータ、そして裁判所や捜査機関の記録・情報を収集します。それに加えて犯罪予防の観点から、教育機関、医療機関の記録・情報も扱います。
教育機関、医療機関でどういったデータが使われ、そのようなデータが捜査活動や司法活動とどう関わりを持ち、利用されているのかについて学びます。よりデータに対する理解を深めるために、捜査機関や教育機関などから講師を招くこともあります。

② Respond=対応、Assessment=評価
前半で集めたデータを一旦整理して、理論的にどのような対策が考えられるのかということを解析します。学生はどのようにすれば犯罪を予防できるのか、自らの定義を作り上げていきます。そして、自身の犯罪予防がどれほどの効果があるのかを評価する手法として、無作為抽出法やケース・スタディ(事例研究)を用いて検討します。

エドワーズ博士は「このコースの院生は問題を精査・分析する能力を身に付け、どうすれば犯罪を予防することができるのか考察する。そして、最後にその予防策が、本当に効果があるのかということを評価する。この一連のプロセスを通して、世界各国のあらゆる社会問題に対応する力を身に付けることができる。修了後は、公共機関、ボランティア団体、NGO、社会復帰を促す組織、被害者支援組織などに就職し、イギリスのみならず世界中で活躍している」と同コースの教育効果を挙げました。



小休憩の後、ジョーンズ教授が、今回の龍谷大学とカーディフ大学との間で協定が交わされることになった国際単位移動制度「エラスムス・プラス(Erasmus+)」*2の概要について説明しました。

この制度では、双方の大学から学生2名と研究者2名の留学・交流を予定しています。
学生は博士課程在籍者が対象で、留学期間は3カ月です。
ジョーンズ教授は、学生側から見た留学制度の魅力をアピールしました。
① 幅広い国際交流・文化体験ができる
② 小規模な研究プロジェクトに参加できる
自身の専攻研究を行いたければ、そのサポートを受けられる
カーディフ大学には専門のメンター、アドバイザーがいるのでサポート体制は万全
③ 英語や研究手法について学ぶ学習プログラムが準備されている

研究者がプログラムを利用する場合、期間は5日〜2カ月が想定されています。
ジョーンズ教授は、研究者に求められる役割を述べました。
① シンポジウムへの参加
② 講演ないしコメントをし、日本でどのような研究を行っているのかを学生に講義
③ 院生との専門的な意見交換、または研究会の開催
④ ホスト校の教員・職員と共に、授業カリキュラムやプロジェクトについて検討する会議への出席(必要な場合)

さいごに、ジョーンズ教授は「龍谷大学の学生と研究者には、是非、『エラスムス・プラス(Erasmus+)』を利用して、この1年の間にカーディフ大学へ留学していただきたい」と述べ、第一部を締めくくりました。
なお「犯罪学学術交流シンポジウム 第二部レポートはこちらでレポートしています。

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【補注】
*1 「Problem-Oriented Policing(POP・問題指向型警察活動)」
1979年、アメリカの社会学者、H・Goldstein(ハーマン・ゴールドスタイン)によって考案された。
従来の警察活動が犯罪の減少という「結果」に着目していたのに対し、POPは、根本的な問題と原因の究明、いわゆる犯罪の「過程」に着目した警察活動である。1987年、John E. Eck(ジョン E.エック)とWilliam Spelman(ウィリアム・スペルメン)が、問題解決型アプローチ「SARA」に発展させ、現在、警察活動のみならず研究手法として大きな注目を浴びている。

*2 「エラスムス・プラス(Erasmus+)」
欧州連合代表部が主宰するEUの教育助成プログラム。欧州とそれ以外の地域との学生・研究者の交流を通して、大学間の連携を強化し、欧州の高等教育の質と競争力を改善することを目的としたプログラム。
留学を支援する「国際単位移動制度(International Credit Mobility-ICM)」において、欧州外の学生は、欧州内の大学と欧州外の大学との間の協定に基づいた3カ月〜12カ月までの単位認定留学プログラムに参加可能。留学先の大学(ホスト校)で取得した単位が在籍校で認定される。教員・職員の場合、欧州のパートナー大学で5日〜2カ月まで教えたり研修に参加したりすることが可能。なお、2015〜2018年の間にこの制度を利用して日本と欧州間で約2,000人の学生とスタッフが留学、研修、教育に参加している。

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