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2019.05.23

第9回「CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会」を開催【犯罪学研究センター】

多様な視点からアプローチする「龍谷・犯罪学」

2019年5月17日、龍谷大学 犯罪学研究センターは第9回「CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会」を、本学深草キャンパス 至心館1階で開催し、約10名が参加しました。
【イベント概要>>】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-3442.html

今回の研究会では、ディビッド・ブルースター氏(犯罪学研究センター 博士研究員)、牧野雅子氏(犯罪学研究センター 博士研究員)の2名による発表が行われました。



研究会前半では、ブルースター氏が「日本における違法薬物統制政策:私の研究の進捗状況と計画」について発表しました。
ブルースター氏は、これまでイギリスと日本の薬物政策の比較研究、そして日本における違法薬物使用者の治療と依存からの回復について、様々な観点から調査・研究を進めてきました。
今回は、違法薬物統制に関わる実務家や当事者の価値観を分析するための試みについて報告しました。

ブルースター氏は「たとえば、実務家たちは政策を実行する上でどのような価値観を共有しているのか、価値観の相違が政策の実行にどのような影響を及ぼしているのか。一方で、当事者はどのような考えや姿勢で問題に向き合っているのか。これらを研究し理解することは、違法薬物に関する政策や実務の改善を行う上で極めて重要である」と研究の意図を説明しました。

はたして実務家や当事者はどのような価値観を共有しているのか。ブルースター氏は、日本でこれまで実施してきたインタビュー調査に加えて、Qソート法*1を用いた調査を計画しています。ブルースター氏は「これまでのインタビュー調査では、実務家や当事者の価値観の相違が浮き彫りとなった。今後の調査では、価値観の類似点を見出すことが目的である」と述べました。
さいごに、「実務家が同じ価値観を共有し、当事者が回復のために何を望んでいるかを理解することで、有効な違法薬物統制政策を実現できる。論文や本を執筆し、本研究の成果を学会で発表することが目標だ」と抱負を語りました。


ディビッド・ブルースター氏(犯罪学研究センター 博士研究員)

ディビッド・ブルースター氏(犯罪学研究センター 博士研究員)

つづいて研究会後半では、牧野氏が『近代日本における「性犯罪」抑止政策と法の批判的検討—迷惑防止条例を中心に』について発表しました。

現在、痴漢事件として検挙されたものの9割以上が、迷惑防止条例によって処理されています。この迷惑防止条例とは、1962年に東京都で最初に制定され、2002年の「栃木県公衆に著しく迷惑をかける行為等の防止に関する条例」によって、全国すべての都道府県に整備されました。痴漢行為の禁止は、東京都の条例第5条「粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止」で定められており、これは他府県も同様とされています。しかし、条例施行時は、電車内の痴漢行為は、取締まりの対象ではなく、身体触れる行為よりも、からかいといった非接触行為を取締りの対象としていました。
また、条例の卑わい条項の保護法益を巡り、個人法益であるか社会法益であるかが、これまで議論されてきました。牧野氏は、「個人法益であるか社会法益であるかの議論が今も続いている条項によって性的自由、性的自己決定権を侵害する性暴力行為である『痴漢』が取締まられていることに問題がある」と指摘しました。
条例制定当時から、痴漢をはじめとする卑わい行為を、「条例」で規定することの意味が疑われる状態であることについて、牧野氏は、「電車内の痴漢行為が、いまだ法律では禁止されておらず、地方条例によるものであることを考えると、『国』は痴漢行為を禁止しようとは考えていないということを明確に示しているのではないか」と述べ、発表を終えました。


牧野雅子氏(犯罪学研究センター 博士研究員)

牧野雅子氏(犯罪学研究センター 博士研究員)


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【補注】
*1「Qソート法」
個人や組織の価値観を体系的かつ定量的に把握する手法。主に心理学や経営学の研究で用いられている。

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「CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会」は、犯罪学研究センターに関わる研究者間の情報共有はもとより、その最新の研究活動について、学内の研究員・学生などさまざまな方に知っていただく機会として、公開スタイルで開催しています。
今後もおおよそ月1回のペースで開催し、「龍谷・犯罪学」に関する活発な情報交換の場を設けていきます。
次回は6/20(木)に開催予定です。ぜひふるってご参加ください。

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【犯罪学研究センター】第10回CrimRC公開研究会(月例)