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2019.10.17

シンポジウム「日本の刑務所における治療共同体の可能性」を共催【犯罪学研究センター】

あなたは、安心して本音で喋ることができる場所を持っていますか?

森久智江教授(立命館大学法学部・本学犯罪学研究センター 嘱託研究員)

森久智江教授(立命館大学法学部・本学犯罪学研究センター 嘱託研究員)

2019年9月28日(土)、立命館大学大阪いばらきキャンパスにて、「日本の刑務所における治療共同体の可能性」と題し、ドキュメンタリー映画『プリズン・サークル*1の特別試写とパネル・トークが行われました(犯罪学研究センター共催)*2。今回の催しは、120人限定の事前申込制で行われましたが、募集早々に定員に達し、当日は活発な議論が交わされる実りの多いものとなりました。
【イベント概要>>】http://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-3787.html

主催者を代表して、森久智江教授(立命館大学法学部・本学犯罪学研究センター 嘱託研究員)より開会挨拶がなされたのち、本邦初の刑務所内TC*3 における受刑者たちの回復の過程を追ったドキュメンタリー映画『プリズン・サークル』が上映されました。受刑者に対するプライヴァシーの配慮や、矯正職員の業務の都合など、様々な理由により、刑務所の中にカメラを持ち込んで撮影することは、日本では非常に難しい現状があります。監督である坂上香氏がこの映画を製作するために要した時間はおよそ10年。法務省から取材の許可が下りるまでに6年、撮影期間が2年、編集に2年というものです。
映画の舞台は、日本で4番目に開設された、官民協働の刑務所(PFI刑務所)である「島根あさひ社会復帰促進センター*4です。ここでは教育プログラムの一環として2009年よりTCが導入されています。このプログラムには、「支援員」として臨床心理士やソーシャルワーカーが関わり、共同体の活動のサポートをします。TCのカリキュラムは週3日、午前・午後のどちらかの3時間を2つのグループ(計58名)に分けて行われます。プログラム中は、メンバーは番号ではなく、名前で呼び合い、ミーティングを中心に自由な発言が許されています。映画では3人の人物に焦点があてられ、刑務所での活動の様子やインタビューを通して、彼らがどのような経緯で刑務所に入ることになったのか、今までの人生を振り返って何を考えるのか、を克明に記録し、TCプログラムの活動の理解を大きく進めてくれるものとなっています。この映画を鑑賞した人は、「犯罪者」や「刑務所」のイメージが大きく変わることでしょう。


パネル・トークのようす

パネル・トークのようす


休憩を挟んだのち、壇上に、アメリカにおいてTCプログラムを行なっているNPO団体Amity Foundation*5 の創設者ナヤ・アービター氏とロッド・ムレン氏、坂上香氏(out of frame代表/映画監督)、藤岡淳子教授(大阪大学大学院・人間科学研究科)、森久智江教授(立命館大学・法学部)、司会進行に毛利真弓准教授(同志社大学・心理学部)、通訳として水藤昌彦教授(山口県立大学・社会福祉学部)を迎え、パネル・トークが行われました。

アービター氏とムレン氏は、刑務所の内外に共通する問題として「人が様々な苦難によって悪循環に陥っている状況をいかに解決するのか」という点を挙げました。つづけて「犯罪をおかした人々は拘禁され、人間扱いされないような状況に陥りやすい。しかし、単に罰を与えるだけでは、人はどのように行動すれば良いのか学習することができない。悪循環からの回復過程において必要なのは、支援の枠組みと安全な空間の提供である」と主張し、TCプログラムの実際の状況を紹介しました。両氏は、「参加者は、はじめて他人と一緒に自分を取り巻く問題について考え、学びを共有するという機会を与えられることによって“より善き人に変わりたい”と実感するようになり、人間性の変化や成長を促される。そのため、出所後に家族や親しい人々(恋人や隣人)に対して、より良い影響を波及させることにつながっていく。今回の『プリズン・サークル』のようにTCの様子がドキュメンタリー映画として一般に公開されることで、“受刑者に必要なものは何か”を社会全体で課題を共有することには、大きな意義があるのでしょう」と述べました。

両氏のコメントを受けて坂上氏は、「日本の刑務所の現状からも“沈黙を強いる文化”が日本の文化・社会の特徴として挙げられるのではないか。いまの日本社会で、どれだけ本音で語れる場があるのか」と指摘しました。藤岡教授や森久教授は、それぞれの専門の立場からTCについての意義、課題について述べました。この他にも、TCを受講した元受刑者や会場の参加者を交えて活発な意見交換が行われました。


映画『プリズン・サークル』の今後の上映予定については、公式サイトにてご確認ください。

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【補注】
*1 映画『プリズン・サークル』
製作:out of frame 監督・プロデューサー:坂上香 配給:東風
https://prison-circle.com/
>>その他参考記事(クラウンド・ファンディングの呼びかけ/募集終了):https://motion-gallery.net/projects/prisoncircle

*2 本イベントの主催関係
主催:平成30年度科研費(基盤B)助成事業「危険社会における終身刑拘禁者の社会復帰についての総合的研究」(研究代表:石塚伸一、科研番号:17H02466)
共催:立命館大学人間科学研究所、龍谷大学犯罪学研究センター、社会技術研究開発(RISTEX)研究開発領域・戦略的想像研究推進事業「多様化する嗜癖・嗜虐行動をめぐるトランス・アドヴォカシー・ネットワークの構築とその理論化」(代表:石塚伸一)
協力:NPO out of frame

*3 治療共同体(Therapeutic Community : TC)
TCプログラムとは、薬物依存や精神疾患等の生きづらさ抱えた人たちがともに暮らし、平等で対話のある共同体を自分たちで創りあげ、グループ内における各自の役割・責任の遂行を重ねることによって、人間性の発達・回復を促すことを目的とする。

*4島根あさひ社会復帰促進センター
公共施設等の設計、建設、維持管理及び運営に、民間の資金とノウハウを活用し、公共サービスの提供を民間主導で行うことで、効率的かつ効果的な公共サービスの提供を図る政策PFI(Private Finance Initiative)方式の官民協働刑務所として2008年10月に開所された。職員は刑務官(国家公務員)約200人、民間社員約350人で構成され、犯罪傾向の進行していない(A指標)男子の受刑者2000名(収容定員。この中には、軽度の身体・知的・精神障害のある受刑者も含む)を収容している。
http://www.shimaneasahi-rpc.go.jp/

*5 Amity Foundation(アミティ)
アメリカ・アリゾナ州を拠点に、ナヤ・アービター氏、ロッド・マレン氏と共同で創設し、1980年代より活動。
https://www.amityfdn.org/