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2020.04.16

【新型コロナ現象について語る犯罪学者のフォーラム】COVID-19現象をめぐるフェイクニュース

経済至上主義の危うさ

犯罪学は、あらゆる社会現象を研究の対象としています。今回の「新型コロナ現象」は、個人と国家の関係やわたしたちの社会の在り方自体に、大きな問いを投げかけています。そこで、「新型コロナ現象について語る犯罪学者のフォーラム」を通じて多くの方と「いのちの大切さ」について共に考えたいと思います。

今回は、金 尚均教授(本学法学部・犯罪学研究センター「ヘイト・クライム」ユニット長)のコラムを紹介します。

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COVID-19現象をめぐるフェイクニュース
~ 経済至上主義の危うさ ~


社会においてリスクが極度に高まり、それが現実化すると、―コロナウイルス問題であれば―その終結がいつなのかを見通しがたたないがために極端に社会的な不安が高まる時があります。先が見えない怖さです。このような状況に社会が置かれた時、人々は「安全・治安」対「人権」という対立構図を無批判的に受け入れてしまう恐れがあります。その際、前者が至上の価値であるかのように喧伝されるのです。本来、人間の尊厳を人権の中核としながら個人の生命や自由は国家からの不当な干渉を受けず、かつ同時に国家はこれらを保障することこそが近代立憲主義国家の根本的理念であるはずです。ここでは、国家の下に市民がいるのではありません。市民がいてこその国家なのです。しかし、緊急状況の中では、「国家からの自由」ではなく、「国家による安全そして自由」という、国家への求心が生じることがあります。しかも安全が自由に優越するのです。同時に国家への従順も生じます。そこで政府は危機の克服と称して、行政権力を行使して様々な制限を設けます。このような制限が必要性や相当性など、合理性について(国会などでの)議論を経ることなく「緊急事態」の名のもとに矢継ぎ早に行われてしまうと、安全の名のもとに社会の決定システムとしての民主主義が無意識のうちに瓦解してしまいます。

民主主義制度は、自由で対等かつ平等な市民の参加を前提とします。しかし民主主義が瓦解ないし骨抜きにされてしまうと、自由で対等な立場で発言する人や行動する人はむしろ社会の「敵」と見なされてしまいます。緊急事態における政府による例外的とされる措置や立法こそに権力の本質が表れるのではないでしょうか。この敵探しにより事態の本質は見えなくなります。その敵とはウイルスではなく、特定の人や場所へとすり替わっていきます。感染者、感染者が出た店、感染者の多い地域というように。私たちは無意識のうちに権利とは市民が享受するもので、敵は排除の対象と考えています。そうすると、無批判的に、はたまた善意から官民協力でリスト化とマッピングが行われ、その情報を提供するためのアプリなどを登場するのではないでしょうか。このリスク・コロナウイルス問題は個人ではどうしようもない、簡単に言えば私たちの自然環境資源搾取型の生活・スタイルに起源があり、これを解決しないと本来的に問題はなくなりません。しかし、これに市民が気づいてしまうと企業やこれに支えられた政権にとっては都合が悪い。彼らの基盤が危うくなるからです。つまり、今自分たちの意向通りにお金が、経済が、社会が動いている人たちにとっては、自然環境などは自分たちの生産道具に過ぎないのです。だから自然改造などと平気で言ってしまいます。

このような認識では、そもそもウイルスの発生がジャングルの伐採などに根本的に端を発するなどとは考えず、いま目に見える発生源、中国の海鮮市場や感染者とその周辺の人という形でターゲットがずらされ、リスクなのは「お金」ではなく特定の「危険な人」と認識転換が生じる恐れがあります。コロナウイルス問題では生命が関わりますから、いのちの名のもとに良心から差別が生じる恐れがあります。庇うべきはコロナウイルスに感染した人・被害者なのに、彼らが社会の危険分子・敵に変わってしまいます。

オリンピックはお金の塊のようなイベントです。東京での開催延期が発表されるまでは、日本における感染者数も死亡者数も極端に少なかった。しかし、延期が発表された直後に増えてくる。日本人って真面目ですね。「病気になりません、勝つまでは」。これはフェイクニュースです。政権や東京都が自分たちに都合よくウイルス蔓延の原因を日本社会の中で隠しているのが現状です。


金 尚均教授(本学法学部・犯罪学研究センター「ヘイト・クライム」ユニット長)

金 尚均教授(本学法学部・犯罪学研究センター「ヘイト・クライム」ユニット長)


金 尚均(きむ さんぎゅん)
本学法学部教授、犯罪学研究センター「ヘイト・クライム」ユニット
<プロフィール>
差別問題を研究し、著書に『差別表現の法的規制:排除社会へのプレリュードとしてのヘイト・スピーチ』(法律文化社)などがあるほか、講演会や勉強会、シンポジウムでも精力的に発表を行っている。

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【特集ページ】新型コロナ現象について語る犯罪学者のフォーラム
https://sites.google.com/view/crimrc-covid19/