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2020.04.15

第17回「CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会」を開催【犯罪学研究センター】

犯罪学を専攻する海外の大学院生が「ドローン」や「性暴力」をテーマに研究報告


2020年3月、犯罪学研究センターは、第17回「CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会」を本学深草キャンパス 至心館1階で開催し、約10名が参加しました。

今回の研究会では、「エラスムス・プラス(Erasmus+)」*1を利用して2020年2月〜3月に龍谷大学へ短期留学したマイケル・コリアンドリス(Michael Coliandris)氏(カーディフ大学 社会科学部 博士課程)、2019年から龍谷大学犯罪研究センターで研究活動を行っているシャンタル・ピヨーク(Chantal PIOCH)氏(本学犯罪研究センター嘱託研究員/ケベック・ア・トロワリヴィエール大学博士課程)の2名による研究報告が行われました。


マイケル・コリアンドリス氏(カーディフ大学 社会科学部 博士課程)

マイケル・コリアンドリス氏(カーディフ大学 社会科学部 博士課程)

はじめに、マイケル・コリアンドリス氏(カーディフ大学 社会科学部 博士課程)による「イングランドとウェールズでのドローンテクノロジーと警察活動」”Drone Technology and Policing in England & Wales”の報告が行われました。コリアンドリス氏はまず、イギリスのイングランドとウェールズ地方を中心に警察組織がどのようにドローンを活用しようとしているのか、そのプロセスについて紹介しました。

イギリスでのドローンの使用は、民間航空局(Civil Aviation Authority: CAA)によって規制されています。しかし、ドローンによる犯罪が新たな脅威として認識されるなかで、立法の整備が行われています。ドローンは経済的・社会的利益をもたらす一方で、新たな脅威やリスクをもたらします。コリアンドリス氏の研究対象は、以下の2つです。
 1.警察によるドローン利用の文脈についての分析
 2.警察組織のなかでイノベーションが起こる方法と理由の分析
コリアンドリス氏は、「警察は、犯罪への対応、円滑な資源の投入、それらが公にアピールできているかなどの諸問題解決のために、常にイノベーションを求めている」と述べます。ドローンはデータ収集技術が優れており、パトロールや捜査、救助などの場面で活用されています。しかし課題点として、パイロットの育成に時間がかかる点や多額の費用がかかる点、技術的にまだ発展途上である点など、本格的に警察活動機能を担うには難しい側面が多いと説明します。


イギリス国内で警察が運用しているドローンの数

イギリス国内で警察が運用しているドローンの数


そのため、コリアンドリス氏は「即時的にドローンなどの新しい手法が全土に導入されるわけではない」として、イノベーションが社会システムの構成員の間で伝達される過程に着目します。コリアンドリス氏は「Innovation Curve(イノベーションS字曲線)」*2を用いながら「アーリーアダプター(初期採用層)がどのように警察組織の内部で生まれ、周囲に働きかけるのかという点に関心を寄せている」と述べます。
コリアンドリス氏は、これまで1年かけてさまざまな場所に赴き、関係者にインタビューを重ね①警察は何を達成したいのか?、②新しい試みがうまく行かないときにはどのようにするのか?、③従来の方法よりも新しい試みを採用しようとするのはなぜなのか?について調査しました。しかし、イギリスにおいて警察研究は伝統的に困難が伴うことに言及。警察組織の「閉鎖された階級」と「部外者を疑うという体質」によって、情報を得るにはいろいろな制約があるからです。また、警察研究をする上で「私は警察のために研究をしているのか?それとも警察について研究をしているのか?」といった研究者としての姿勢が常に問われる、と言います。
さいごに、コリアンドリス氏は、「①イギリスの警察が“学習”と“安全”という文化を重視し、絶え間ないスキルアップのプロセスをもっていること、②そのスキルアッププログラムの成功は、プログラムを成功させるための資源とそれに対応できる個人(アーリーアダプター)に依存する可能性があること、そして③イノベーションは単に“発生する”のではなく、関係機関や世論、政治、等さまざまな外部との“交渉”によって成し遂げられる」と述べ、報告を終えました。


シャンタル・ピヨーク氏(本学犯罪研究センター嘱託研究員/ケベック・ア・トロワリヴィエール大学博士課程)

シャンタル・ピヨーク氏(本学犯罪研究センター嘱託研究員/ケベック・ア・トロワリヴィエール大学博士課程)

つづいて、シャンタル・ピヨーク氏(本学犯罪研究センター嘱託研究員/ケベック・ア・トロワリヴィエール大学博士課程)による「日本における特有な2つの現象の学際的研究」”TRANSDISCIPLINARY STUDY OF A DOUBLE PHENOMENON UNIQUE IN JAPAN”の報告が行われました。ピヨーク氏は、日本では性的暴力による犯罪が少なく、カナダと比べて11倍もの差があった(1つ目の日本特有の現象)ことを知ったことがきっかけで、日本に興味を覚え、カナダとの比較研究をするために来日しました。

ピヨーク氏は「カナダとの比較調査を経てわかったことは、データ上は相違点よりも類似点の方が多いということ。この観察データだけでは日本の性暴力率の低さを説明するのに十分ではないと考えるに至った」と述べます。つづいて、日本では男性向けの性的な素材が公共空間の中で突出していること(2つ目の日本特有の現象)に言及。ピヨーク氏は「この実態は、性暴力がポルノの影響を受けていることは自明的であるとする仮説と矛盾しているのではないか」とカナダの実態と比較して指摘します。そこで研究対象を少し修正して、「男性の性事情および公共空間についての調査を行っている」とピヨーク氏自身の研究について説明しました。
研究手法は、グラウンデッド・セオリー*3を用いての調査です。ピヨーク氏は「この手法は出発点である仮説を設けず、価値判断や偏見や先入観を持たず、可能な限りオープンに共感を持って観察し、積極的に聞くことが推奨される継続的で反復的な分析プロセスである」と説明。公共空間の掲示物、マスメディア、ソーシャルメディア、雑誌等いろいろな媒体やデータを収集・分析中であるとし、実際報告の中で紹介された資料の内容は多岐にわたるものでした。そして、「現在は、日本人男性を対象にビデオ形式やテキスト形式でのインタビュー調査中で、引き続き日本人男性および日本文化、公共空間について研究を続行する」と報告を締め括りました。

さいごに、石塚伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)より、コリアンドリス氏へ記念品の贈呈がなされました。コリアンドリス氏は、「エラスムス・プラス(Erasmus+)」*1を利用してカーディフ大学から本学へ約1ヵ月留学されていました。この度、本研究会をもって帰国されることとなりました。今後のコリアンドリス氏のさらなるご活躍をお祈りしています。



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【補注】
*1「エラスムス・プラス(Erasmus+)」
欧州連合代表部が主宰するEUの教育助成プログラム。欧州とそれ以外の地域との学生・研究者の交流を通して、大学間の連携を強化し、欧州の高等教育の質と競争力を改善することを目的としたプログラム。
留学を支援する「国際単位移動制度(International Credit Mobility-ICM)」において、欧州外の学生は、欧州内の大学と欧州外の大学との間の協定に基づいた3カ月〜12カ月までの単位認定留学プログラムに参加可能。留学先の大学(ホスト校)で取得した単位が在籍校で認定される。教員・職員の場合、欧州のパートナー大学で5日〜2カ月まで教えたり研修に参加したりすることが可能。なお、2015〜2018年の間にこの制度を利用して日本と欧州間で約2,000人の学生とスタッフが留学、研修、教育に参加している。

*2 「Innovation Curve(イノベーションS字曲線)」
1962年、社会学者のエヴェリット・ロジャースが著書“Diffusion of Innovations”(邦題『イノベーション普及学』)で提唱した普及学(Diffusion of innovations)で使用されるグラフ。新しいアイデアや技術が社会にどのように普及するかを、普及率(縦)と時間(横)の軸を用いてグラフ化すると、S字型の曲線を描くため「イノベーションS字曲線」と呼ばれる。派生した領域にイノベーター理論がある。

*3グラウンデッド・セオリー(GTA)
グラウンデッド・セオリーとは、1996年に社会学者のバーニー・グレイザーとアンセルム・ストラウスによって提唱された、質的な社会調査の一つの手法である。具体的には、データを文章化し、その文章を基にカテゴリーをつけ、客観的にそれぞれの事象から理論又は仮説を組み立てる。
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