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380th Anniversary

創立380周年記念事業
龍谷大学瀬田学舎 開学30周年記念事業 【対談会・シンポジウム】

龍谷大学瀬田学舎 開学30周年記念対談

仏教SDGs

〜近江商人の「三方よし」に学ぶ〜

今年で創立380年を迎えた龍谷大学は、国際開発目標SDGsに「仏教SDGs」という浄土真宗の精神を取り入れた独自の切り口で取り組んでいる。その活動の一環として、「仏教SDGs〜近江商人の『三方よし』に学ぶ〜」と題し、三日月大造氏(滋賀県知事、龍谷大学客員教授)と入澤崇(龍谷大学学長)の対談会を開催した。「仏教SDGs」の思想、現状の地域との連携などを通して、今後の展望を語りあった。

仏教の教えに通ずるSDGs

2015年9月の国連サミットで採択された2030年までの国際開発目標・通称SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)。「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載され、貧困や教育、ジェンダー、環境問題、平和などを含む17のゴール(目標)、169のターゲットから構成されるものだ。

2019年10月26日(土)、「仏教SDGs〜近江商人の『三方よし』に学ぶ〜」対談会にて、龍谷大学が様々なSDGs実現への取り組みを進めている中、同大学が発信したのは、SDGsに浄土真宗の精神を取り入れた「仏教SDGs」。この独自の取り組みについて入澤学長と、地方自治体で最初にSDGsに乗り出した三日月滋賀県知事はこう語る。

「今世界中で貧困や環境の悪化が問題になっており、まさに地球が悲鳴を上げている状態。国連でSDGsが採択され『誰一人取り残さない』という呼びかけを聞いた時、この考えは仏教の発想に近いものがあると感じました。とりわけ阿弥陀仏のはたらきを示す『摂取不捨』(全ての者をおさめとって見捨てない)の考えがSDGsに通じる発想だと思ったのです。本学ならではの仏教とSDGsを結びつけたアプローチで、持続可能な社会の実現に何か貢献できるのではないかと考えました」(入澤)

「SDGsの考えが極めて東洋的で仏教の教えを色濃く反映しているのではないか、したがって龍谷大学が仏教SDGsという取り組みをけん引していこうという考えに強く賛同します。私自身知事になって6年目。今だけ、モノだけ、自分だけの豊かさではなく、全ての人が実感できる新しい豊かさを滋賀から作っていこうと、誰一人取り残さない共生社会の実現に向けた具体的な政策に落とし込んでいこうとチャレンジしているところです」(三日月)

近江商人「三方よし」と「仏教SDGs」の共通点

滋賀県で江戸時代から明治時代に活躍した近江商人は「三方よし」という商いの考えを大切にしていた。「売り手よし、買い手よし、世間よし」 売り手と買い手が満足し、さらに社会にも貢献できるのが良い商売であるというものだ。「この『三方よし』の考えこそが『仏教SDGs』の先駆け」と入澤学長は提唱している。

「SDGsのロールモデルとして近江商人の『三方よし』を捉え、今一度見直すべきではないでしょうか。近江商人と言われた人々の圧倒的多数が浄土真宗だったことを見ても、仏教とSDGsは親和性が極めて高いと言えるでしょう。『売り手よし、買い手よし、世間よし』のうち、とりわけ『世間よし』の発想が仏教的で、SDGsに重なり合うと考えています」(入澤)

これに対して三日月知事は、近江商人は多様な価値観に対して寛容だったのではないか、と推察する。

「私たちの先祖である近江商人が大切にしてきた『三方よし』の思想は、社会や未来も大切にしているもの。かつ、多様性も尊重し、多様な価値観に対して寛容だったのではないかと思います。近江八幡には宣教師のウィリアム・メレル・ヴォーリズ先生が来て、キリスト教の布教活動をしました。近江の人々は仏教徒であるにもかかわらず、拒絶や衝突はしなかった。近江商人は他の価値観を持つ人とも共存し、それも含めて『世間よし』としていた。こうして『三方よし』を実践してきたことが着目すべき点なのではないかと考えています」(三日月)

行政、地域と連携したソーシャルビジネス

SDGs17番目の目標「パートナーシップで目標を達成しよう」に対しても龍谷大学と滋賀県は積極的だ。両者ともに、地域を含めた連携を行い、世界とのつながりをも常に視野に入れている。滋賀県は琵琶湖の水の扱いや研究に精を出し、龍谷大学ではソーシャルビジネス(ビジネスの手法を用いて社会問題を解決すること)を重視し、その諸活動に取り組んでいる。大学と行政、世界とのつながりについて入澤学長と三日月知事はこう語る。

「ノーベル平和賞を受賞したユヌス博士のユヌスソーシャルビジネスリサーチセンターを今年本学に設置しました。学生には地域や社会への貢献に挑戦していってほしいと思っています。学生の中には、食品ロスやフェアトレードの問題に取り組むグループもあります。滋賀県の有機農法で育てた食材を使用したベビーフードのメーカーを起業した学生がすでに現れています。龍谷大学と建学の精神を同じくする龍谷総合学園(教育機関70校からなるグループ)に加盟する高校も、自分たちに今できることを掲げ、『仏教SDGs』を開始しました。滋賀県への貢献ということで今構想しているのは、学校教育の現場で都市部と山間部との間に厳然としてある情報格差、その格差解消に向けた取り組みです。その手法を近く公表する予定でいます。『仏教SDGs』として世界に広がり得るプロジェクトになると思います」(入澤)

「滋賀県としても世界との関わりは常に意識しています。滋賀県が有する琵琶湖の水は高度処理されていますが、世界を見ると安全な水の恩恵にあずかっている人はまだまだ少ない。琵琶湖の知見も生かしていきたいし、世界各国の淡水湖の課題も吸収していきたい」(三日月)

長期的なアジェンダであるSDGsの推進に向けて主役となるのは次代を担う若い世代。龍谷大学が仏教の思想「慈悲」や「利他」を通して考える「仏教SDGs」は今後社会にどのような影響を与えていくのか。滋賀県との連携と合わせて期待していきたい。

三日月みかづき 大造たいぞう

昭和46年生まれ。滋賀県知事、龍谷大学農学部客員教授。平成6年に一橋大学経済学部卒業後、西日本旅客鉄道株式会社に入社。平成15年に衆議院議員初当選を果たす。国土交通大臣政務官を経て、平成22年に国土交通副大臣に。平成26年から滋賀県知事に就任し、現在は2期目を務める。