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380th Anniversary

創立380周年記念事業
龍谷大学創立 380周年記念事業 【世界宗教フォーラム】

龍谷大学創立 380周年記念事業

世界宗教フォーラム

─自省利他の社会を求めて─

2019年11月16日(土)龍谷大学深草キャンパスにて、龍谷大学創立380周年を記念し、「自省利他」をテーマにしたフォーラムが開催された。06年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏が来学。「ソーシャルビジネスと利他の行い」と題した基調講演を行った。龍谷大学が発信する「自省利他」のメッセージは、ユヌス氏が行なってきた世界的ソーシャルビジネスと相通ずる。

「ユヌス ソーシャルビジネス リサーチセンター」開所式
ムハマド・ユヌス氏と龍谷大学 入澤崇学長

持続可能な社会の為に龍谷大学が重視する
「自省利他」

19年に創立380周年を迎えた龍谷大学が発信する新たな哲学「自省利他」。「自省」とは、自身に自己中心性や利己心が宿っていることを自覚し、払拭に努めること。「利他」とは、思いやりを持ち他者の幸福を願うこと。この二つを掛け合わせた「自省利他」は、人間の自己中心性から発生しているさまざまな社会問題を解決し得るための行動哲学だ。「自省利他」の考えは、自己利益の追求ではなく社会問題の解決を目的とするソーシャルビジネスと親和性が高い。龍谷大学ではソーシャルビジネスの活動を評価されノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏と共同で、19年6月に「ユヌス ソーシャルビジネス リサーチセンター」を設立。本基調講演では、ユヌス氏自身の活動を通して、ソーシャルビジネスの重要性を語った。

全くの未経験からバングラデシュで立ち上げた
グラミン銀行

ユヌス氏は、1940年にバングラデシュで生まれ、アメリカの大学で経済学の博士号を取得した。アメリカの大学で教鞭をとっていたが、71年にバングラデシュがパキスタンから独立するのをきっかけに祖国に戻る。バングラデシュの大学でも教育に携わったが、感じたのは経済学の無力さだったという。

「当時、パキスタンとの血なまぐさい紛争が終わり、独立したバングラデシュは新しい国を作ろうという希望に満ちていました。しかし74年に飢饉が起こり、夢は悪夢に変わってしまったんです。私はアメリカにいた時と同様に、大学で経済学を教えていました。それまで経済学はとても魅力ある学問だと思っていたんですが、大学の中と外の世界とのギャップに、だんだんと魅力を感じなくなっていってしまいました。飢えが原因で人々が死んでいく様子を間近で見て、大学で教えている経済理論は実際の社会では何の役にも立たない、なんて無意味なものだろうかと感じてしまったのです」

そこでユヌス氏は現実の社会で起こっていることを肌で感じるため、大学のキャンパスから村に飛び出す。そこで見たのは”ローンシャーク “と呼ばれる高利貸しの存在だった。少額の貸付から、高金利によって全ての財産を奪い取るローンシャークからどうにか貧しい村人たちを守らなければと思ったという。

「ローンシャークは決して経済学の教科書には登場しないんです。どうやって止めたらいいか考えましたが、私が学んできた知識は全く役に立ちませんでした。そこで、私自身がローンシャークの代わりにお金を貸せばいいのではないかと思ったのです。これで、ひとまずローンシャークから貧しい村人たちを守れる。何よりそれがうれしかったんです」

その後、彼の私財はあっという間に底をついた。それでも村人たちを守れているという事実が幸せだったと語る。私財はなくなったが、活動をどうにか持続していきたい。これが世界中に広がる、グラミン銀行誕生のきっかけだ。

自分と社会の利益両方を組み合わせた
ソーシャルビジネスの可能性

銀行業の知識と経験がなかったユヌス氏は、政府の規制や許可の取得など、数々の困難を乗り越えグラミン銀行を設立。施しではなく、ビジネスとして村人たちを支援する機関を成立させた。グラミン銀行の融資の考え方は、既存の銀行とは全く違うものだ。既存の銀行がすでにお金を持っている人、信用価値がある人に融資をしていたのに対し、グラミン銀行が融資したのは貧しい女性たちがほとんどだった。

「今日、世界の富はいくつかの限られた手によって握られています。これは経済制度そのものに問題があるのではないかと私は考えます。世界の富はごく一部の人々に集まるようにできている。そのシステムを変える必要があると思います。誰かが搾取をしているのではなく、現行のシステムがお金を上へ上へと押し上げているわけです」

ユヌス氏が銀行の次に始めたのは病院だ。国全体の医療制度に問題を感じたからだという。社会で何か問題を発見し、その問題を解決するビジネスをつくる。彼は結果的に50もの会社を立ち上げることになる。

「問題を解決するためのビジネスを立ち上げていくうちに、論争が起こりました。なぜ、もうからないビジネスをやっているんだ、と。私のビジネスは人々の問題を解決する手助けをするためのもので、収益をあげていなかった。私は個人的にお金もうけがしたいわけではないですから。周囲からは利益の最大化こそがビジネスだと言われ、効率をあげるべきだと何度も言われました。でも私がやりたいことは違った。他の人の利益を全部無視して自分の利益だけを追求するのは違うと思うんです。自分と社会の利益両方を組み合わせてこそ経済だと考え、そういったソーシャルビジネスを今も行なっているんです」

すべての人間は生まれながらにして起業家

ユヌス氏は「すべての人間は生まれながらにして起業家」だと提唱する。自身が知識と経験のなかった銀行業を既存の方法とは全く違う独自の発想で成功させたことがその何よりの裏付けだろう。

「もし、自分が望む仕事がなかったのなら、自分でつくり出すことも考えてみてください。人間はだれしも内なる素晴らしい創造力を持っています。それが失われるような、誰かに指示された人生を生きるのではなく、自分が選んだ行動をしてください。就職するか、起業するかは自由です。

元来人間は、狩猟や農業をして暮らしていました。誰も就職先を探してはいなかったはずです。社会を良くする選択肢のある場に、意識して身を置くようにしてください」

どうしたら社会の問題を解決することができるのか、それがソーシャルビジネスの起点になる。ソーシャルビジネスを行う企業は多く存在するが、実は個人でもできることがたくさんあるとユヌス氏は語る。

「普段生活をしていると、ふとした瞬間に、社会に対して疑問を感じることがあると思います。でも少し時間がたてば、その違和感は根本から消えてしまうでしょう。ソーシャルビジネスにとって大切なのは、疑問をそのままにせず、他者に対して自分には何ができるのかを考え、一つずつ応えていくことです」

ユヌス氏が唱えるソーシャルビジネスは、まさに龍谷大学が提唱する「自省利他」の精神に通ずる。ユヌス ソーシャルビジネス リサーチセンターを設立し、ますますソーシャルビジネスに注力する龍谷大学の発展に今後も注目したい。

Muhammad Yunusムハマド・ユヌス

バングラデシュの経済学者・実業家。
1983年に、貧困層に向けた無担保の少額融資(マイクロファイナンス)を行うグラミン銀行を設立。融資によって、農村部の貧しい人々の自立を支援したことが評価され、ノーベル平和賞を受賞。