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大学紹介

2019(平成31)年 新年法要及び新年互礼会 挨拶

学長 入澤 崇

皆さま、新年明けましておめでとうございます。新年の始まりにあたり、一言ご挨拶申し上げます。

 

この年末年始、NHKの新番組「いだてん」の番組宣伝が盛んに放映されていました。そこに映し出されるのが、わが大宮学舎でありました。卒業生を始めとして何人かの知人からメールや電話をもらいました。大河ドラマで龍谷大学のキャンパスが映し出される、これほど誇りに思うことはない、そういう人もいました。そしてまた、もう一度学び直したいといった卒業生もいました。本日からその大河ドラマが始まるようでありますが、主人公が通う高等師範学校として本学の大宮キャンパスが本格的に映るのは、第4週目からだそうです。ご期待ください。

 

ただ今、能仁宗教部長を導師として、新年の法要、「修正会(しゅしょうえ)」の法要を勤修させていただきました。正月に行われる法要を「修正会」と申します。どうやら平安時代中期あたりに、「修正会」というのが始まったようです。それ以前には「仁王会(にんのうえ)」と呼ばれておりまして、各国分寺で行われていた「仁王会」を引き継いだのが修正会の法要のようです。その中身は、「懺悔(さんげ)」、キリスト教では「懺悔(ざんげ)」と申しますが、「我が身を省みる」ということが中心であります。「懺悔(さんげ)」ないしは「悔過(けか)」とも仏教では申します。自らを省みる、「自省」というのがこうした法要の原点にあります。
 本学では、毎朝勤行が行われています。この顕真館におきましても、8時45分から勤行が行われているわけですが、どうか皆さん、朝の15分ここに座っていただき、昨日のこと、これまでのことを省みて、今日一日自分が何をすべきか、どういう風に仕事を為していくか、そういうことを考えるひと時にしていただけたらと思います。
 今、働き方改革ということが盛んに言われておりますけれども、働き方改革、その原点にあるのは、各人の意識の持ち方であろうと私は思っています。どこに意識を向けるか、朝のひとときをどうか、この礼拝堂に出向かれて、しばし心を清らかにしていただけたらと思います。

 

さて、わが国にとりまして今年は特別な年にあたります。平成が終わり、新たな時代がスタートします。今年は本学におきましても、創立380周年の記念すべき年です。心してかからねばなりません。また第5次長期計画の最終年度を迎えます。各部署での取り組みがどれだけ達成されたか、克服すべき課題に対しどれだけ具体的な対応策がとられたか、組織として自らを省みることとなります。

 

少子化が進みゆく今、大学は個性化が求められています。龍谷大学は果たして個性化を成し遂げているでしょうか。社会から評価される大学になっているでしょうか。高校生たちから選ばれる大学になっているでしょうか。
 社会が大きく変動している今、龍谷大学の進みゆく道を改めて問い直したいと思います。

 

私立大学の宝、それは言うまでもなく建学の精神です。龍谷大学は仏教系の大学、なかでも浄土真宗の教えを建学の精神とする大学です。人間としてどう生きるかを問うのが仏教です。どう生きるか、それを問うことは自分自身を見つめ直すことです。
 自分自身をみつめ、あるべき自分自身を問い、あるべき人間存在の姿を問い、あるべき社会のありようを問う。それらを問うには「考える力」が必要です。本学で学ぶ学生は習得した知識を考えるバネとして、考える力を養い、さらにはそれを生きる力へと転換していく、それが理想です。
 周知の通り、本学は一回生の必修科目に「仏教の思想」を置いています。人間はいかに自己中心的であるか、人間はいかに真実を見誤る存在か、というようなことを徹底的に学んでいきます。固定的な自己というものなどなく、数限りない「縁」から自己は形成されていくことを学んでいくのです。「自己中心性」から「関係性」へと大きく意識の持ち方を変えていくのです。新たなる関係を築くことで新しい生き方ができる。そのことに考えが及んだ学生は本学において創造的人生の土台が築けます。
 仏教の特徴である「慈悲」についても一回生で習得します。慈悲とは他者に幸せを与え、他者から苦しみを取り除くということです。各学部で専門性を身につけるうえでも、社会で仕事をするうえでも、「慈悲」の教えはその基盤となるものです。社会に貢献するということに意識をフォーカスさせるのも、本学で行われる必修科目「仏教の思想」の大きな特徴です。

 

問題行動を起こす学生がときにいますが、本学において障がいをもっている学生や日常生活に困っている留学生に手を差し伸べる学生が増えているのは喜ばしいことです。そうした学生の行動が社会的評価へと繋がっていくのです。
 先月末、社会貢献活動を行なっている学生グループから私に講演依頼がありました。卒業を控えた学生から、「4年間龍谷大学で学んだ証を確認したい」との要請を受けました。多忙な身ではありますが、学生たちに「人でありつつ人を超える いま呼び覚ませ まごころを」とのメッセージを贈るつもりです。
 最近の学生には驚いています。昨年、インターンシップに参加した学生で、「社会の現実を知り、自分はもっと勉強しなければならないと気づきました」と語った学生がいました。嬉しいことでした。今後もいろいろと、学生の能力を引き出す仕掛けを講じていかねばなりません。学生自身がステップアップを実感できる大学にしていくことが極めて重要です。

 

意識を社会に向けることで、自らの学びを深めていく。これは学生に対してのみ要求されることではありません。学生を導く教職員も学んでいくことが必要です。狭い世界に閉じこもっているのは教職員の方かもしれません。
 教育の世界というのはとかく惰性に流されやすいものです。危機的状況を察知するセンサーが作動しないと、外の世界の変化を意に介することなく、これまでと同じあり方を守ろうとします。惰性に流れると、研究力も教育力も低下していきます。
 さらに怖いのは、自分の属する大学が秘める価値に気づかなくなることです。
 先日新幹線に乗ったら、こういう場面に出くわしました。小さな女の子が「新幹線に乗りたいよう、乗りたいよう」と泣き叫んでお母さんを困らせていたのです。その女の子にとっては、新幹線の中にいるにもかかわらず新幹線に乗っていることが実感できていないのでした。
 笑ってすますことはできませんでした。私たちも同じ状況に陥ってはいないかと自問しました。
 崇高な建学の精神に包まれながらも、その価値をなおざりにして、いたずらに理想を外に求めていやしないかと。
 大きな社会変動が起きている今こそ、建学の精神を具現化する新たな方法を言葉や行動にしていかねばなりません。それこそが他大学にはない本学の個性となるはずです。広く認知された個性、それをブランドと言います。本学のブランディングはこれからがいよいよ本番です。

   

ただし現実は厳しいものです。大学内部の取り組みはなかなか外には伝わりません。どれだけ優れた活動であっても、社会から見れば大学での活動は「閉じられた世界」の小さな出来事に過ぎません。
 外部からの働きかけに意識を向けることが大切です。社会との信頼関係をより強化して社会からの働きかけにコミットして龍谷大学の諸活動を社会に浸透させていく。皆さんとともに実践していきたいと思います。

 

いま地球の悲鳴に耳をすませる活動が活発化してきています。2015年に国連で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals)。貧困・飢餓・不平等など、17の諸課題を解決するための目標です。世界中でその実現に向けた動きが活発化してきています。わが国においても産業界を中心として動き始めています。いくつかの大学も本格始動しています。これは龍谷大学が率先しておこなうべきと私は判断しています。SDGsの理念は、「No one will be left behind」、つまり「誰ひとり取り残さない」というものです。浄土真宗では「摂取不捨」という言葉が大切にされています。4月からの学生手帳に冒頭の言葉として私は「不捨」(捨てない)を掲げることとしました。誰一人捨てないという「仏のこころ」、誰一人取り残さないという「SDGsの理念」を重ね合わせたい気持ちからです。
 産業界や行政と力を合わせ、龍谷大学ならではの切り口で、仏教SDGsに取り組んでいきたいと思っています。

 

高校生のみならずあらゆる世代から「龍谷大学で学ぶのが夢でした」と言ってもらえる大学を目指しましょう。卒業生から「龍谷大学で学んで本当によかった」と言ってもらえる大学作りをしていきましょう。
 2019年が皆さまにとって、そして龍谷大学にとって、大きく発展を遂げる佳き一年となるよう心から願い、私からの年頭の挨拶といたします。