2016年度 9月卒業式 式辞

2016.09.16

本日、ここにご卒業およびご修了を迎えられた皆さん、そして学位を取得された皆さん、おめでとうございます。龍谷大学を代表して、心からお祝いを申しあげます。また、これまで勉学・研究を温かく見守り、愛情深く支え続けてこられたご家族をはじめとする関係の皆さま方にも、深く祝意と敬意を表します。

今日は、皆さんが未来に向けての確かな、そして大きな一歩を刻(きざ)む記念すべき日です。本学で学び、研究した成果を跳(ちょう)躍(やく)板(ばん)として、新たな世界へ飛び立つ輝かしい日です。しかし、皆さんが踏み出そうとしているのは、必ずしも穏やかで快適な世界ではなく、むしろ多くの困難や不安が伴い、行き先を見通すのも難しい視界不良の荒(あら)海(うみ)かもしれません。

皆さんは、広井良典さんをご存知でしょうか。現在、京都大学こころの未来研究センター教授ですが、広井さんは、「経済成長」ないし「物質的な富の拡大」という目標がもはや目標として機能しなくなった今という時代において、それに変わる新たな目標や価値を日本社会がなお見出しえないでいる、というところに今日の閉塞感の基本的な理由があると、語っています。経済成長ということを絶対的な目標としなくても十分な豊かさが実現されていく社会を「定常型社会」というコンセプトで、今から15年前の2001年に発刊された、岩波新書『定常型社会 新しい「豊かさ」の構想』で提起しています。広井さんは、「成長」や「拡大」などとのドグマや混乱から解放され、「成長し続けなければならない」という大前提にとらわれているために、いかに多くのものを失い、また無用の落胆をし犠牲を出し、無駄としか思えないことを、ツケとして将来世代へ先送っているのか。定常型社会を社会のコンセンサスとすることで、意味のない政策から自由になることができるし、まったく新しいこれからの社会像や価値がそこに開けてくると述べ、「豊かさ」の再定義を提起して、変化しないものにも価値が置かれていく時代であると、述べています。

現代は、政治的にも経済的にも軍事的にも文化的にも、さらに自然環境的にも混迷と危機が深まっています。日本国内を見ると、4月14、16日の九州熊本地方の最大震度7の地震は、大きな被害をもたらし、今なお余震が起こっています。また、先ほどの東北地方から北海道にかけての豪雨は、各地の堤防の決壊をもたらし、広大な地域での水害被害をもたらしました。

振り返れば、2011年3月11日の東日本大震災から、5年6カ月が過ぎました。今なお避難生活を余儀なくされ、その中には東京電力福島原子力発電所の放射能物質による地域汚染により、長年住み慣れた地域から追いやられ、立ち入りが困難になった皆さんも沢山います。私たちは、同時代を生きる者として、被災地に出かけ、被災者の現場に一時的であっても身を運び、立ち止まってその現実に向きあい、考え、想像力を働かせることが大切ではないでしょうか。

立ち入り禁止地域の一分解除が進んでいますが、帰還困難区域、居住制限区域、避難指示解除準備区域などの避難指示区域があり、大地を放射性物質で汚染し、何世代も後の日本人を近づけなくし、人間の生活を拒む深刻さをもたらしています。さらに高濃度の放射線を出し続ける溶解した核燃料の取り出しや、何万年も毒性を失わない大量の廃棄物、あるいは廃炉に向かう困難な作業が、新たな技術研究開発を必要としながらも、不確定ながら40年以上かかるといわれています。このような深刻な事態から学ぶことなく、地震列島である日本各地での原発の再稼働が進みつつあります。経済成長至上主義が資源の浪費や環境破壊で地球の危機を招来していたことを、再認識する必要があります。私たちは、広井さんが提起しているように、新しい社会のあり方を見出すべき時がすでに来ていると考えなければなりません。

本学では、2号館屋上、和歌山県印南町、三重県鈴鹿市に「龍谷ソーラーパーク」を開設して、太陽光発電による再生可能エネルギーを活用する「社会貢献型メガソーラ発電事業」モデルを作っています。深草キャンパスの電力使用の67%分を供給しています。全国の大学のなかで随一の事業です。この事業は、本学の教員の研究によって、生み出されたスキームであり、本学の独自性を示す建学の精神の具現化の一つであります。

政治的にも経済的にも、「異常」とも指摘される状況が続いています。「異常」という言葉の意味が変わったのかと錯覚するほど、さまざま「異常」が日常化・平常化しているように思われます。まさに危機的です。危機的、ということで言えば、対話や議論の大切さを口にしながら、実のところ一方的な意見を言いつのるばかりで、自分の主張に固執して、異なる意見については聞く耳を持たず、決して自説を変えない、という人も多くなってはいないでしょうか。それは、政治指導者に留まることなく、情報ツールを媒介に広く社会に蔓延し始めていると思えます。そこにかいま見えるのは、お互いに違いを理解し、認め、受け入れた上で共に考え、共に行動し、共に生きていこうという姿勢の欠如です。あるいは、他者に対する敬意と寛容と感謝の心のなさです。あるいは、複雑な課題を単純化し、善悪二元論的なメッセージで確信的で一方的に発する政治の劣化、知性の劣化です。柔軟な知性をもち、学術の振興、知の創造、対話、交流、発信の拠点である大学という環境でさえも、そのような傾向を散見します。

私たちが、危機を乗り切り、生き延びていくためには、他者との協力と連携がどうしても必要です。特にグローバル化が急速に進展し、出会ったことのない遠くの人たちとも無関係ではいられない現代社会にあっては、他者といかに共に生き抜くかが切実な課題です。そのためには、まず何よりも真の意味での対話を実現しなければなりません。そして、私たちは未来の世代に一体何を、どのように送り届けることができるのかを、真剣に考え抜いてみなければなりません。それには、本学が掲げる建学の精神、浄土真宗の精神を主体的に学ぶことを欠かすことができないと考えます。

皆さんは、浄土真宗の精神を建学の精神とする龍谷大学で学び、研究する中で、自己中心的な考えや既成概念に囚われることなく本質を見出し、みずから未来を切り開いていくことのできる、豊かな教養、しなやかな知性と確かな意志とを培ってこられました。皆さんが身につけられた、建学の精神、阿弥陀仏の誓願、浄土真宗の教えを大切にする心をもってすれば、「自分に与えられたものは何か」を自覚すること自体は、決して難しいことではないはずです。直接出会った人、親しい家族や友人、恩師などだけではなく、遠い過去も含めた、記憶に留まっていない人たちを含めた多くの人びとからのおかげで、いまの私、そしてこれからの私があるのだということを、まずは改めてしっかりと見つめ直していただきたいと思います。その上で、そのお返しをどのような形で実現していくかを主体的に考え、たゆまず努力してみてください。

さて、本学では現在、2010年から2019年の10年間にわたる第5次長期計画の諸施策を実行して諸改革を行なっています。本学はこれまで以上に高等教育機関としての使命を果たし、品格漂う誇るべき学風を守りつつ、地域や社会に貢献し、世界の平和と持続的発展に寄与しうる、魅力ある大学になるべく、今後も諸施策を実行してまいります。皆さんが本学を卒業・修了し、本学で学位を取得されたことを一層誇りに思ってくださるよう、歴史と伝統を大切にしながら、大学全体の質、教育の質を高め、知性と活気に溢(あふ)れ、世界に躍動する大学づくりに傾注いたします。

皆さんはこれからも龍谷大学の一員です。今後とも、校友として篤い期待とご支援をお寄せくださいますよう、お願い申しあげるとともに、皆さんのご活躍を心から念じ申しあげます。

本日はまことにおめでとうございます。

   

2016年9月16日
龍谷大学・龍谷大学短期大学部
学長  赤松 徹眞

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