Need Help?

News

ニュース

2022.03.10

大津市産の材料にこだわった究極の地産地消クラフトビール「THE LOCAL」を大津市の4者が共同開発【研究部・農学部】

 2021年3月10日(木)、龍谷大学発酵醸造微生物リソース研究センター(センター長:田邊公一農学部食品栄養学科教授、2021年度、地域の発酵醸造産業への貢献を目的に設置)の研究成果及び、農学部卒業研究の成果として、島純教授(同センター・副センター長/農学部植物生命科学科教授)と島教授が主宰する微生物科学研究室所属の喜田美月さん(同学科4年生)が作製(発酵食品や自然界から分離、選抜、育種)した酵母「MK82」を使用したクラフトビール「THE LOCAL」を販売することとなり、滋賀県庁にて、記者会見を行いました。
 クラフトビールの製造は、近江麦酒が主となり、近江麦酒のホップと、近江おごとハーブガーデンの麦芽・コリアンダー、大津市企業局の水を使用しており、大津市産の原料にこだわっています。


■作製した酵母「MK82」について
 ビールは、麦芽に含まれるマルトース(※1)が酵母によって発酵することで作製されます。マルトースが発酵することで炭酸が発生するため、酵母はビール作製において非常に重要な役割を担っています。
 通常のビール酵母は、麦芽内のグルコースを発酵させてから、マルトースを発酵させる性質を有しています。アルコールとなるのは発酵させたマルトースですので、いかにグルコース発酵後マルトース発酵に繋げるかが重要です。すべてのマルトースを発酵させることが難しいのですが、今回作製した酵母「MK82」は、グルコースではなく、マルトースを好んで発酵させる性質があり、通常のビール酵母より、短い時間でたくさんのマルトースを発酵させることができます。これによりビール作製にかかる時間を短縮し、製造の効率化を図れる可能性があります。
「MK82」は、試験管内進化(※2)という手法で作製しました。酵母「N5」(以下、「喜田美月さんコメント」に詳細記載あり)を、グルコースを除いた生育が厳しい環境下におくことで、マルトースを優先して発酵することができる酵母に変化させます。こうして生まれた酵母「MK82」は、マルトース発酵力が強く、炭酸ガスの発生や保持に優れた特徴を持ちました。

種 類:MK82
特 徴:マルトース発酵力、炭酸ガス発生までの速度に非常に優れている(下記図参照)。
手 法:⑴    Saccharomyces cerevisiae株に分類される酵母の中から数個選択し、もともと持つ発酵力を調べる。
⑵    あえて酵母が育ちにくい環境(マルトースしかない培地。酵母が好むグルコースがない環境。)で育成する試験管内進化という手法を行う。
⑶ 酵母が育ちにくい環境下でも育ち抜いた酵母を選抜し、炭酸ガスが発生することを確認する。
⑷ 実際にビールを作り、アルコール度数を測定する。
(※1)麦芽糖。発芽した大麦(麦芽)内の糖の約8割はマルトースで、約1割弱がグルコース
(※2)複数の試験管で、微生物が育ちにくい環境を作り、その中でも生き抜く微生物を観察し、より優れた特性を持つ微生物を選抜する栽培方法


一般的なビール酵母とMK82のガス発生量と時間の比較図


試験管内進化の様子


固体培地での親株のマルトース発酵力

■島純教授コメント
 地域で収穫された農作物を原料にした製品は、農業への波及効果が大きく、さらに酒類は、地域に密着した製品として、地域産業活性化において重要だと言われています。また、清酒産業は伝統的に地域に根付いており、強いブランド力を持ちますが、一方ビールは現在でも大手のビール醸造メーカーが生産の大部分を占めています。近年は、全国的にクラフトビールの醸造が広がり、新しいブランドが生まれ続けています。
新しく生まれた、大津市地産地消のクラフトビール 「THE LOCAL」が、滋賀県・大津市を活性化させ、滋賀県・大津の農業を盛り上げていくことを期待しています。

■喜田美月さんコメント
 今回、クラフトビールに使用した酵母の親株は、微生物科学研究室の卒業生 中野さんが野生(龍谷大学瀬田キャンパス敷地内「龍谷の森」)から採取した酵母「N5」です。先輩が野生酵母を採取し顕微鏡をのぞく姿を見て、ビール酵母の研究に興味を持ちました。
もともとビールが好きなこともあり、先輩の研究を引き継ぐことを決め、指導教員の島先生や研究室の仲間と議論する中で得た、グルコース抑制(※)を外した酵母の作製に取り組みました。この酵母が新しいビールに貢献できればうれしいです。
(※)培養環境中にグルコースが存在すると他の糖を利用する代謝系の発現が抑制されること。


 本学農学部では発酵醸造学や微生物学を学ぶことができます。微生物科学研究室では、人間にとって有用な機能を持つ微生物を探索・育種し、発酵食品製造や酒類醸造に役立てることを目指して活動しています。
 同研究室には、発酵醸造に対して興味を持つ学生が多くおり、喜田さんは、本研究内容を卒業研究の成果として取りまとめました。本成果は、農学部植物生命科学科卒業研究発表会でも報告がなされました。このような取組は、研究活動の延長線上にある地域貢献活動に学生が参画することで、単なるアクティブラーニングにとどまらず、専門的な知識を用いて地域課題解決に向けて取り組む人材育成も担います。


<参考>
本件に関するプレスリリース
島 純 教授
微生物科学研究室
龍谷大学の付置研究所・センター/研究センター
教員ブログより