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2022.05.28

公開研究会・シリーズ「戦争と犯罪」第1回レポート【犯罪学研究センター共催】

国際社会は“戦争犯罪”を処罰できるのか?

2022年5月16日、龍谷大学犯罪学研究センターは、「公開研究会・シリーズ「戦争と犯罪」第1回 国際社会は“戦争犯罪を処罰できるのか?”」をZoomを利用したオンライン形式で共催しました。本研究会には、約90名が参加しました。
【イベント情報:https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-10373.html
【プレスリリース:https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-10467.html

講師に前田朗氏(朝鮮大学校講師、東京造形大学名誉教授)をお招きし、司会を石塚伸一教授(本学法学部)、コーディネーターを舟越美夏氏(ジャーナリスト、龍谷大学犯罪学研究センター嘱託研究員)が務めました。

 はじめに、石塚教授より「戦争という人類最大の『犯罪』とそれに関連する問題は、犯罪学の観点からも見過ごすことのできない大きな問題だ。ウクライナへのロシア侵攻のみならず、世界各地では、現在進行形で戦争が起こっている。この研究会シリーズは、これまで各地を取材してきたジャーナリストの舟越氏の問題提起に応える形で、 『戦争と犯罪』について考える機会を設けることを目的に企画した」と開会にあたって挨拶がありました。


石塚伸一教授(本学法学部)

石塚伸一教授(本学法学部)


舟越美夏氏(ジャーナリスト、龍谷大学犯罪学研究センター嘱託研究員)

舟越美夏氏(ジャーナリスト、龍谷大学犯罪学研究センター嘱託研究員)

 つづいて、本企画のコーディネーターである舟越氏は、「これまで世界が平和だったことなどないのに、日本で暮らす人の中には(今回のウクライナ侵攻が大きく報道されるまで)世界が平和だと思っている人がいることを目の当たりにした。これまでに、アフガニスタンや、パレスチナ、近年ではミャンマーで紛争が起こっているのに…。私たちは、これまで2回の世界大戦を経て、戦争を抑止、予防するよう努めてきたはずであるのに、21世紀の現在、戦争を阻止できていないのはなぜなのか。このシリーズでは、理論だけではなく、現地でのリアルな体験を伝えていくことを目的としている」と趣旨説明を行いました。

 シリーズ第1回は、戦争犯罪とジェノサイド問題を長年研究してきた前田氏より、「国際社会は“戦争犯罪”を処罰できるのか?」というテーマのもと、ハーグ(オランダ)の国際刑事裁判所(ICC)における戦時下の犯罪を処罰する制度とその現状課題についてご報告をいただきました。


前田朗氏(朝鮮大学校講師、東京造形大学名誉教授)

前田朗氏(朝鮮大学校講師、東京造形大学名誉教授)

■報告要旨
 今回のテーマは、2パターンに分けて理解することができる。まず「(ウクライナの事態を見て)ひどいことをしている国は処罰されるべきではないか」ということ。そしてもう一つは、「国際社会は戦争犯罪を処罰する資格があるのか」ということ。この2つの解釈を念頭において講演をする旨説明がありました。
 主に、「ウクライナ侵略をどう見るか」において、現状は明らかでないこと、ロシア・ウクライナの双方がプロパガンダ合戦の最中であるので、何が真実であるかが見えないため、真実の判断を留保する必要があると指摘。「戦争犯罪を裁く思想の展開」において、戦争犯罪法廷の歴史を振り返った上で、国際刑事裁判所の役割などについてご報告をいただきました。また、「ロシア・ウクライナ戦争の犯罪論」において、「ジェノサイド」についてご報告をいただきました。
 ロシアのウクライナ侵攻に始まる一連の戦争報道において、軍隊や兵士の残虐行為が「戦争犯罪」「ジェノサイド」などと呼ばれ、「ジェノサイド」という言葉をよく耳にするようになりました。これに関して、前田氏は、「ジェノサイドを単に大量虐殺と理解することは問題である。ジェノサイドとは国民的、民族的、人種的又は宗教的な集団の全部または一部に対し、その集団自体を破壊する意図をもって行う行為と定義されるものだ」と解説しました。

■ディスカッション:
 オーディエンスからは「国際刑事裁判所がなぜ機能しないのか」「なぜ国際刑事裁判所が権力を持つと弊害が生じるのか」などといった質問が投げかけられました。これらの質問に対して前田氏から、国際刑事裁判所の機能については、主権国家の壁に阻まれ、国際協調体制が欠如していることに起因して正しく機能していない。国際刑事裁判所が強い権限を持つことの弊害については、同所に権限を持たそうとしてアメリカが引き回すことになると困る。その意味においての弊害が生じないように要注意である。同所が権限を持つこと自体に弊害があるわけではない旨解説をいただきました。

 最後に、前田氏は、「現地取材は必須だが、現地に行っても、わかることは限られている。全体を語ることはほとんどできない。メディアは貴重な情報を伝えてくれてはいるので、それらと私たちの持っている情報とを照らし合わせて理解していく他ない」とコメントしました。


ディスカッションのようす

ディスカッションのようす

 舟越氏は、「(前田氏のコメントの通り)現場に行ってもわかることは少ない。取材の際にはたくさんの声を聞くよう、さまざまな意見を聞けるよう、話す人の表情など、現場でしかわからないことを察知するように注意している。人の記憶は変わるものなので、取材の際には多角的な質問をするように心がけている」とコメントし締めくくりました。

当日の記録映像をYouTubeにて公開しています。ぜひレポートとあわせてご覧ください。
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