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2022.12.06

2022年度 びわ湖の日滋賀県提携 龍谷講座に山中裕樹センター長が登壇【生物多様性科学研究センター】

「びわ湖100地点環境DNA調査」で明らかになったびわ湖の今

「びわ湖の日」*1にちなみ、滋賀県と龍谷大学の提携によるオンライン講座(主催:龍谷エクステンションセンター(REC)滋賀)が、10月〜12月にわたって計3回行われました。全体のテーマは「びわ湖の楽しみ方」。12月3日(土)に行われた第3回には、山中裕樹 准教授(先端理工学部・龍谷大学生物多様性科学研究センター長)が登壇しました。
【>>EVENT概要】
【>>プロジェクトに関するリリース】


山中センター長による報告の様子

山中センター長による報告の様子


報告テーマ:「びわ湖の日チャレンジ!みんなで水を汲んでどんな魚がいるか調べよう!」
報告では、昨年から開始した「びわ湖100地点環境DNA調査」の結果紹介が行われました。今年は、8月6日〜9月10日に及ぶ期間でのべ8調査を実施。調査には、環境保護に関わるNPOや企業など多くの市民や団体が参加し、びわ湖100地点の水を採取しました。採取した水を冷蔵便でセンターに提出いただき、10月から11月にかけて「環境DNA分析」を実施し、今回の講座で初めて結果が公表されました。

当センターが進める研究手法「環境DNA分析」とは、生き物が糞や粘液として放出して水中に漂っているDNAを、回収・分析して生息している種を推定するものです。魚類等の大型生物を対象として、ここ10年ほどで急激に技術的発展を遂げています。従来型の生態調査では専門家が現地に赴いて観察・同定する必要がありましたが、この調査手法では「水を汲むだけ」です。生物を捕獲することなく「水から」検出できる簡便さから、生物多様性の観測や水産資源の管理に革命をもたらすとされます。
【>>環境DNA分析の紹介】

山中センター長の講義では、冒頭に今年度の調査関係者への謝辞を述べ、実際にどのようなフローで調査が行われたのか、また環境DNA調査のあらましを説明。結果として、下記スライドの通り、合計38種(分類群)が検出されたことを発表しました。下図の通り、びわ湖には実にさまざまな魚がいることが見て取れます。


報告資料より(サンプリングから分析までのフロー)

報告資料より(サンプリングから分析までのフロー)


報告資料より(今年度の検出内容)※画像は滋賀県立琵琶湖博物館提供

報告資料より(今年度の検出内容)※画像は滋賀県立琵琶湖博物館提供

つづいて、なぜこのような種の網羅的な分析が可能なのかについて、魚の種によってDNAの配列が異なること、現在はデータベースが充実していることから、検出したDNA配列から生物を同定できると解説。DNAをバーコードのように使って種を網羅的に判別・検出する技術を「メタバーコーディング」と言い、「生物種間で共通しつつ、少しずつ異なる配列」をターゲットにしてDNA配列解読を行うそうです。
そして、今年度の調査で検出された38種(分類群)について、外来種・普通種・希少種・絶滅危惧種などに大別し、また地点を北湖と南湖、北湖東岸と北湖西岸に分けて、前年度との比較を紹介しました。
山中センター長は「2022で非検出になった分類群もあるが、分析感度の揺らぎに起因することも考えられるため、中長期的に調査を継続することで、より信頼性の高いデータが蓄積されていくはずだ。加えて、外来種3種(ヌマチチブ・オオクチバス・ブルーギル)は今年も多くの地点で検出され、絶滅危惧種に分類されている種ではやはり検出地点数が少なく、検出地点が年の間で変化している種もあり、より確かな状況把握をするため今後もモニタリングが必要だ」と述べました。


報告資料より(メタバーコーディングについて)

報告資料より(メタバーコーディングについて)


報告資料より(外来種の分布地点の変化)

報告資料より(外来種の分布地点の変化)

こうした調査結果を踏まえ、びわ湖100地点調査がいかに広範囲かつ緻密に行われてきたかが明らかになりました。山中センター長は「今後さらにデータが蓄積されることで、多様な景観との関係、種の組み合わせの影響などについて示唆が得られるようになる」と述べ、現在、周辺地域での活動や教育、行政判断に役立つように、調査結果のデータベース公開に向けて準備を進めていることを紹介しました。

最後に「環境DNAの未来」について、採水から分析までのフローすべてを自動化したESP(Enviromental Sample Processor)の研究開発がアメリカで進んでいることを紹介しました。環境DNA分析の最大の特徴は「水を汲むだけ、土を取ってくるだけで、様々な場所で適用可能」であることです。近い将来、ドローン船体に搭載したシステムが自動的に採水・分析・データ送信するような完全自動観測システムの開発・実装が進む可能性もあるそうです。

今回の講義を通して、私たちが普段目にしている景観の中に存在する多様な生物への興味が喚起され、環境DNA分析による中長期的なモニタリングの必要性を実感する機会となりました。

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【補注】
*1 「びわ湖の日」:
1981年、1980年7月1日の「滋賀県琵琶湖の富栄養化の防止に関する条例(琵琶湖条例)」制定から1周年となることを記念し、滋賀県は7月1日を「びわ湖の日」と定めた。
7月1日前後には県内全域で湖岸や河川、道路などの清掃活動が行われるなど、琵琶湖への思いをみんなで共有して、環境を守る取組を行う象徴的な日となっている。
参照:滋賀県 > びわ活ガイド > 「びわ湖の日」とは?