Need Help?

News

ニュース

2023.02.02

光泉カトリック高等学校において環境DNA実験教室を実施。山中裕樹センター長が登壇【生物多様性科学研究センター/先端理工学部】

コップ1杯の水から考える 〜琵琶湖の環境調査〜

1月28日(土)午前、光泉カトリック高等学校(滋賀県草津市)において「琵琶湖を中心とした水圏環境と環境DNA分析」をテーマに、約2時間半におよぶ環境DNA実験教室が行われました。同実験教室は同高校2年生(生物クラスの約30名)を対象に、先端科学を題材にした講義と実験、グループワークなどを通じて主体的に考えながら学ぶスタイルの授業です。
今回は、株式会社フォーカスシステムズ(本社:東京都品川区 | 独立系IT企業)と本学・生物多様性科学研究センターの共催で、企画・運営は株式会社リバネス(東京本社:東京都新宿区 | 教育・人材育成事業)が担当しました。
【>>プレス・リリース】


写真左:光泉カトリック高等学校外観|写真中央:実験イメージ|写真右:配布資料

写真左:光泉カトリック高等学校外観|写真中央:実験イメージ|写真右:配布資料

生物多様性科学研究センターでは、環境DNA分析技術の社会実装を目指して、琵琶湖の水質調査プロジェクトを進めています。当日は、琵琶湖の環境問題や課題の提示や、環境DNAに関する講義部分に山中裕樹 准教授(先端理工学部・生物多様性科学研究センター長)が登壇しました。


山中裕樹 准教授(先端理工学部・生物多様性科学研究センター長)

山中裕樹 准教授(先端理工学部・生物多様性科学研究センター長)


環境DNA実験教室の実施風景

環境DNA実験教室の実施風景

授業の冒頭、主催関係者による趣旨説明や講師紹介が行われた後、講師の吉川綾乃氏(株式会社リバネス)と山中准教授より、イントロダクションとして「琵琶湖の現状課題(外来種の移入・湖岸の変化・水位の変化)の共有と水質調査の意義」、今回の実験教室のミッション提示が行われました。

つづいて、講義①では「水質調査に挑戦」をテーマに実験の手順説明が行われ、グループごとに水質調査実験(採取した3サンプルの調査・パックテスト・微生物観察)と考察した内容の発表が行われました。サンプルは、琵琶湖と草津川から採取された水、ミネラルウォーターでした。各水に含まれるリンやアンモニア、酸素の量、プランクトンなどの生き物はすべて異なることから、水質と環境と生物とが密接に繋がっていることが明らかになりました。

小休憩を挟み、講義②では「生物の遺伝情報・DNA」をテーマにした講義の後、グループごとにDNA抽出実験が行われました。DNAとは、アデニン・グアニン・シトシン・チミンの4つの塩基の配列で暗号化された遺伝情報を記録する設計図で、生物の種類によって情報が異なります。




実験風景

実験風景


写真中央:吉川綾乃講師(株式会社リバネス)

写真中央:吉川綾乃講師(株式会社リバネス)

そして、講義③では「環境DNA分析ってどんな技術?」をテーマに、山中准教授による講義と、「びわ湖100地点調査」の結果を用いたグループ・ディスカッション、全体発表・共有が行われました。
環境DNA分析とは、生物を直接サンプリングせずに、水や土などの環境媒体に含まれているDNAの情報(生き物が糞や粘液として放出したもの)を基に、そこに生息する種の分布や多様性、量を推定する分析手法です。従来型の生態調査では専門家が現地に赴いて観察・同定する必要がありましたが、この調査手法では「水を汲むだけ」です。生物を捕獲することなく「水から」検出できる簡便さから、生物多様性の観測や水産資源の管理に革命をもたらすとされます。
【>>環境DNA分析の紹介】


山中准教授の講義スライドより

山中准教授の講義スライドより1


山中准教授の講義スライドより

山中准教授の講義スライドより2

山中准教授は、「採取した水には色々な生物のDNAが含まれているが、見つけたい生物のDNAが希薄な場合がある。環境DNA分析では、特定の遺伝子領域をPCR(Polymerase Chain Reaction)でしっかり増幅できる、適切なプライマーの設計(特異的にある遺伝子を増幅したいときに設計する、人工的に作ったDNA断片)が肝心だ。」と述べました。また、環境DNA分析の2つの方法として、①種ごとの検出と②全種の網羅的な検出(メタバーコーディング)があることを紹介しました。

2022年8月6日〜9月10日に実施した「びわ湖100地点調査」では、環境保護に関わるNPOや企業など多くの市民や団体が水の採取に参加。各地点で採取した水を冷蔵便で生物多様性科学センターに提出いただき、10月から11月にかけて環境DNA分析を行ったところ、合計38種(分類群)が検出されました。山中准教授は、「環境DNA試料を様々な地点で長く採り続けることで、希少種の分布の縮小や移入種の侵入・分布の拡大を知ることができる」と述べ、調査結果の一部として、外来種の分布地点数の経年変化、絶滅危惧種の分布地点数の経年変化、北湖と南湖における種別の出現地点数などの概況を紹介しました。
【>>関連ニュース】

つづくグループ・ディスカッションでは、2022年「びわ湖100地点環境DNA調査」の結果から、①20種の分布地図と②外来種と希少種の出現地点数一覧に関する配布資料をもとに、琵琶湖のどこにどのような魚がどれほどいるのか?を知り、その理由を各グループで検討しました。
その後の発表では、次のような意見が生徒から挙がりました。

-    将来の琵琶湖は水質汚染がますます進んでくると予想する。その理由は家庭から湖へと流れる下水やゴミにあるだろう。資料によると湖南ほど固有種の出現数が減少していることから、生物が棲みにくい環境になりつつあるのかもしれない。これを改善するためには私たちの生活を見直していく必要があると考える。
-    外来種を減らすためのアイディアの1つとして、外来種だけを認識して捕獲する機械の開発を提案する。また捕獲した個体は、他の生物のエサとして利活用してはどうか。
-    固有種を守るために、外来種を捕獲するような行動が重要ではないか。
-    外来種を減らし固有種を増やすために、外来種を捕獲しておいしい料理の食材として活用するようなアイディアが必要だと思う。(例:ブラックバスバーガー等)


グループ・ディスカッション後の発表風景

グループ・ディスカッション後の発表風景


今回の環境DNA実験教室の総括として、吉川講師は「環境課題の解決には、過去と今をしっかりと見つめ、未来を考えていくことが大切だ。今日このことを皆で一緒に体験・共有できたと思う。今後は自分が興味を抱いたものを様々な角度から見つめ、考えを深めていって欲しい。」と述べ、授業を締めくくりました。


光泉カトリック高等学校2年生(生物クラス)の皆さんとの集合写真

光泉カトリック高等学校2年生(生物クラス)の皆さんとの集合写真