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2023.03.24

発酵醸造微生物リソース研究センターシンポジウム「環境微生物学の新展開」 レポート【発酵醸造微生物リソース研究センター】

 2023年3月10日(金)、Zoomによるオンライン上にて、2022年度龍谷大学発酵醸造微生物リソース研究センターシンポジウム「環境微生物学の新展開」が開催されました。

 まず、田邊センター長より開催の挨拶があり、今回のシンポジウムでは、環境微生物学のこれまでの研究例と、今後さらに研究の新展開が望まれる、分子生物学的手法を用いた研究例等について発表いただくなどの説明がありました。

「フナズシ乳酸発酵における優占種について」
発表者:田邊公一・発酵醸造微生物リソース研究センター長

 滋賀県の伝統的発酵食品である鮒寿司は、塩漬けにしたフナと飯を漬け込み、漬け込む過程で乳酸発酵することが知られています。本研究では、滋賀県の複数の鮒寿司から乳酸発酵に関わる乳酸菌を分離し、その菌を同定しました。その結果、いずれの鮒寿司から分離された乳酸菌種もLentilactobacillus buchneriであり、さらに特定領域の遺伝子型配列を調べ、分離された鮒寿司のL. buchneriに複数の系統が存在することが示唆されました。
またL. buchneriは、漬け始めて3週間目以降に、発酵途中の鮒寿司の中から検出され、2ヶ月目に優占種となることが明らかになりました。そこで鮒寿司の発酵過程でL. buchneriが優占種になるモデルを調べるため、鮒寿司に含まれる乳酸、酢酸、NaClに対するストレス耐性を調べた結果、乳酸に耐性を示しました。さらにL. buchneri自身は、ほかの細菌類の増殖を抑制する物質を産生しないことも確認され、ほかの乳酸菌が作った乳酸への耐性によって、L. buchneriが鮒寿司の発酵過程の終盤に優占種になるという可能性が示唆されました。

「緑肥圃場で線虫群のふるまいを捉える試み」
発表者:浅水恵理香・龍谷大学農学部植物生命科学科教授

 緑肥とは、生の植物を土壌にすき込むことで微生物による分解を促し、肥料として利用するものです。またその植物の代謝物を生物燻蒸剤として利用することもあります。一方、線虫は地球上のあらゆる場所に分布し、その中でもネコブセンチュウなどの植物寄生種が、農作物に甚大な被害をもたらしています。近年、この緑肥植物の有機物補給によって、有害線虫や病原菌が抑制され、土壌環境健全化が促進される知見が報告されるようになりました。
 そこで私たちは、緑肥の施用によって土壌中の食物網はどのように変化するのか、またその結果、有害線虫が減るのはなぜかという問いを持ちました。現在、龍谷大学牧圃場にて緑肥施用とナス科植物の栽培を行い、土壌の化学的組成や細菌叢、線虫叢の変化を調査しています。その圃場試験の過程で、細菌叢や線虫叢の量および、遺伝子解析を用いた細菌叢の種組成を調べることで、それらが土壌健全化の指標となりうる可能性が示唆されました。

「環境DNAから探る菌類多様性」
発表者:松岡俊将・京都大学フィールド科学教育研究センター助教

 自然界における菌類の多様性や生息域の空間的パターンの詳細は、ほとんど知られていません。その理由として、野外では菌類を肉眼で認識することが難しいことと、生息場所の多様性が高いことがあげられます。しかし2000年代に入り、DNA解析、特に超並列シーケンサーを利用したDNAメタバーコーディングが、菌類の多様性解析に広く利用されるようになりました。そこでこの手法を用いて、樹木の共生菌類である外生菌根菌を対象として、菌類の多様性のパターンや要因を明らかにする研究を行いました。
 しかし、樹木の菌根からサンプリングするような、個別に基質を調査するアプローチでは、大きな調査や解析コストが必要になります。こうした問題への新たな取り組みとして、水中の環境DNAに着目した研究アプローチが注目されています。そこで、京都市梅小路にある都市型緑化公園内のビオトープ「いのちの森」にて、公園内に流れる小川の、水中の環境DNAを調べると、河川が周囲の森林に生息する菌類DNAを集める「トラップ」として機能している可能性があることが示されました。今後、このようなDNAメタバーコーディングを用いた環境DNAの研究は、さらなる菌類の多様性と生態系調査を可能にするものと期待されます。