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2023.10.19

幾田桃子氏特別講演会「美しい未来のために「生きる」をデザインする」を開催【ジェンダーと宗教研究センター/グローバル・アフェアーズ研究センター】

個々の行動一つひとつが、社会課題を解決していく輪を作っていく

ジェンダーと宗教研究センター(GRRC)グローバル・アフェアーズ研究センター(GARC)は、2023年10月4日(水)13:30~15:00、深草学舎 顕真館 講堂において、社会活動家 幾田 桃子氏をお招きし「美しい未来のために『生きる』をデザインする」と題した特別講演会を開催しました。
SDGsという言葉がまだなかった2001年、大学在学中に、古着から子ども服を作るブランドをアメリカで立ち上げた幾田氏。以来、ファッションやアートを通じて命の大切さを訴え、性暴力をなくすための活動を展開されています。
本講演会は幾田氏の活動に賛同し、本学が推進する仏教SDGsとの共通点に注目した、ジェンダーと宗教研究センター研究員の水尾文子教授(本学文学部)が同センター長の岩田真美准教授(本学文学部)に相談したことがきっかけで実現。当日は会場(本学関係者限定)とオンライン(一般の方も視聴可能)のハイブリッド形式で開催し、172名が参加しました。(会場参加:81名・配信視聴:91名)
→イベント概要】【→プレスリリース

理念を体現した衣装で登場
前半の部では講演と聴講者向けの質疑応答が、後半の部では入澤崇学長との対談が行われました。

進行役を務める水尾教授の紹介で登場した幾田氏。身にまとう物はすべて自らのブランドの信念と同じ「持続可能な」手法で製作された物を選ぶという幾田氏は、今回もご自身でデザインした黒いドレスと、トレードマークであるヘッドドレスを身に着けていました。壇上に上がると、幾田氏はスクリーンに数々の写真を投影しながら、これまでの半生をご紹介くださいました。


幾田桃子氏

幾田桃子氏

世にあふれる不条理を知った幼少期
「私は3月8日、国際女性デーに生まれました」という語りから講演をスタートさせた幾田氏。ご自身の幼少期を「いつも社会の不条理を考える子どもだった」と振り返りました。
差別やいじめ、戦争があること。うつろな目をして働く大人のこと。「男の子だから、女の子だから」という言葉に募る理不尽な思い。「どう行動すれば社会の不条理を変えていけるのかが関心事でした」と話し、中学時代には不登校になった同級生を教員と共にサポートしたエピソードを披露しました。


高校留学での衝撃から大学進学、起業まで
つづいて、話題は高校生時代へ。
「アメリカに留学してひどく驚いた」と幾田氏は言います。理由は、人種・性別・性的指向などによる差別が当然のごとく存在したこと。カフェが白人エリアと黒人エリアに分かれていたり、ドイツ人生徒のロッカーにナチスマークが落書きされたり、同性愛者の教員を生徒がバカにしたり。自身も “アジア人女性”として差別を受けた経験を語り、「差別に憤りを感じ、社会活動に参加するようになりました」と活動の原点が鮮明に語られました。

さらに話題は、社会活動を本格化させた時代の話へ移ります。
アメリカの大学で国際関係学と女性学を学んでいた幾田氏は、授業を通じ、愛するファッション業界が“環境汚染産業ランキング”の上位だと知りました。さらに汚染原因が「洋服の作りすぎ」「作る過程での環境汚染」だと分かると、「大好きなファッションを起点に社会問題に取り組みたい」と考えたそうです。


幾田桃子氏の講演風景

幾田桃子氏の講演風景

そして大学在学中の2001年、社会問題をデザインで解決することを目指すべく起業。「古着や廃棄予定の素材を新品よりも美しく魅力的なドレスに生まれ変わらせ、ファッション産業の新たなスタイルを示したい」と、子ども服を作る会社をスタートさせました。

「SDGs」がなかった時代から持続可能性を追求
起業から20年以上、ずっと持続可能な美しい社会の実現を目指し行動してきた幾田氏ですが、その道のりは平坦ではありませんでした。
特にブランド設立は、SDGsという言葉が生まれるよりずっと前のこと。持続可能性が社会課題として浸透しておらず、「会社の理念を理解してもらうこと自体が難しかった」と当時の苦労を語ります。
ですが、活動を続ける中で幾田氏が掲げるコンセプトに注目・賛同する人々は着実に増えたそう。フランスを代表するハイジュエリーブランドとのコラボレーションや、アメリカの老舗高級百貨店で商品が取り扱われたエピソードなどが披露されました。
そして帰国して2003年に立ち上げたブランド『ル・シャルム・ドゥ・フィーフィー・エ・ファーファー』では、「セールをしない/在庫消化率99%/ゴミを増やさない/職人を守る/美を育む/知的交流の場を作る」という5つの理念を掲げていると紹介。
トレンドサイクルの早いファッション産業にあって、幾田氏のお店では20年間一度もセールをしておらず、売れ残った在庫はデザインを改めて販売する努力を継続。また職人の地位向上への尽力や、美意識を育むための“値札のない販売手法”にもふれられました。


社会活動と信念について
続いて、自身のファッションブランド以外での活動が紹介されました。
三菱電機製の携帯電話のデザイン・監修を担当した際には、女性向けの生理周期管理アプリ、性犯罪防止機能を世界で初めて搭載し海外からも注目を集めたこと。また東京都の女子校の制服をデザインした際には「そのままが可愛い」と学生が着崩すことなく着用し、制服の着こなし指導に頭を悩ませていた教員から感激されたことなどが示され「デザインの重要性を再認識した」と語られました。
さらに、幾田氏の社会活動は児童への性教育にも及びます。2013年には、命の大切さを伝え性被害をなくしたいと、性教育絵本Doctor Peach Sex Educationを出版。
公私ともにパートナーである千々松由貴(ちぢまつ ゆたか)氏の存在にふれ、「私たち夫婦は子どもに恵まれなかったが、その分、世界中の子どもを愛し、正しいことを楽しく学べる環境をつくっていきたい」と信念を語りました。その思いがかたちになった一例として紹介されたのが、2022年にトヨタ自動車と協働制作した、命の大切さと性を学ぶためのトレーラー「りぼん号」。
誰もが平等の立場になる茶室をイメージした入口には廃棄予定だった木材が活用されており、地球の誕生をイメージした全体デザインは、中に入ると絵本の中にいるような体験ができる空間になっているそう。幾田氏は、スクリーンに浮かぶりぼん号を示しながら「本当に大切なものを心に留めてもらうには、美しい視覚情報と内容をリンクさせることが効果的だ」と自身の考えを披露しました。


「人間とは、自分とは?」講演は最終章へ
講演も終盤にさしかかった頃、幾田氏は会場に問いかけました。「私たち人間は、地球や他の生き物にとって優しく美しい存在でしょうか?」。
続けて、今あふれている社会問題――戦争や環境破壊、差別など――は、すべて人間の欲望に端を発していると指摘。「これまで地球に優しくなかった私たち人間は、地球上で最も脳が発達した生き物だからこそ、頭を使って問題を解決していかなくてはいけない。美しい未来をデザインしていくのは私たちです」と声に力を込めました。

そして最後に、命の尊さを訴えました。「自分」とは先祖からの血の繋がりだけでなく、その時々に生きた人々の繋がり、コミュニケーションがあったからこそ生まれた“奇跡の存在”であると話し、「嬉しいときは命に感謝し、つらいときには自分が奇跡の存在であると思い出してほしい。そして困っている人がいたら、勇気を出して行動してください」。その行動一つが、社会課題を解決していく輪を作っていくのだと会場に向けて語りかけ、講演を締めくくりました。

質疑応答は熱のこもった質問が続出
大きな拍手が鳴り止んだ後は、聴講者を対象とした質疑応答に移りました。


質疑応答は幾田氏が自らフロアに降りて実施

質疑応答は幾田氏が自らフロアに降りて実施

参加した学生からの「子どもの不登校や自殺増加に接し、私たちは何ができるでしょうか」との問いかけには、「皆が心のエネルギーを取り戻せる場所があるといいですね」と居場所づくりの大切さを説き、質問者から「自分もそんな居場所づくりに貢献したい」と意欲的な言葉を引き出した幾田氏。
また「SDGsは話題の規模が大きすぎて実感が湧かない。個人はどのように取り組むべきか?」という相談には、「興味を持ち、考えている時点で素晴らしい取り組みである」と学生を称え「SDGsは、身近な一歩を踏み出すことが社会の大きな力になる」と語りました。
はじめこそ緊張の面持ちだった学生たちですが、幾田氏の優しく力強い語りから自然と会話のキャッチボールが生まれ、有意義な質疑応答の時間になりました。


参加学生との質疑応答の様子1

参加学生との質疑応答の様子1


参加学生との質疑応答の様子2

参加学生との質疑応答の様子2

「幾田さんと仏教SDGsは相通じる」入澤学長との対談
休憩を挟んでスタートした後半の部は、SDGsを推進する入澤 崇学長との対談が実施されました。


幾田桃子氏×入澤崇学長による対談風景

幾田桃子氏×入澤崇学長による対談風景

入澤学長は幾田氏への謝辞を述べた後、氏の活動が社会における“さまざまな繋がり”を重んじる点にふれ、「幾田さんのお考えは、本学の推進する“仏教SDGs”と非常に響き合うものがあり大変嬉しく感じる」と述べました。
そして、入澤学長は「関係性を重んじる考え方は日本文化の中心でもある」と続け、「抽象的になりがちな社会課題も、ファッションのように身近なことから考えると具体性が増す。それがとても重要だ」と見解を述べたところ、幾田氏も「小さな点を結んでいくことが、より良い社会を作っていくと考えます」と応え、さらに、自らに自然と積み重なってきた“日本人ならではの感覚”の存在を示し、「皆が自国の素晴らしさを持ち寄ることができれば、文化を学び合うことで世界が円満に繋がれるのではないか」と語りました。

この話を受け、入澤学長はSDGsで誓われる「誰一人取り残さない」の理念に仏教の考えが含まれることを示し、SDGsと仏教SDGsとの繋がりを指摘。これに幾田氏が強く同意し、「新しい社会を築いていくには、西洋の良いところも引き継ぎつつ、東洋の思想が大切になるだろう」と応え、時間いっぱいまで盛り上がった対談は終了しました。


入澤崇学長

入澤崇学長

前後編のプログラム終了後、最後に水尾教授が挨拶を行い、幾田氏に改めて大きな拍手が送られ講演会は閉会に。
舞台を降りた幾田氏に感想を伺ったところ、「私のメッセージに皆さんが熱心に耳を傾けてくださり、とても嬉しい。話の折々で、気付きを得たような反応がうかがえて感動しました」と笑顔で語ってくださいました。
また進行役を務めた水尾教授は、「特に学生に、自身と社会の繋がり、大学で学ぶ意味を考えるきっかけが提供できたのではと手応えを感じている」と講演会を総括しました。


幾田桃子氏と入澤崇学長

幾田桃子氏と入澤崇学長


会場:深草キャンパス・顕真館

会場:深草キャンパス・顕真館

ジェンダーと宗教研究センター(GRRC)では、今後も国連が目指すSDGsおよび本学が推奨する仏教SDGsの実現の一端を担うべく、社会課題とその解決法について皆さんと考える機会を設けていきます。