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2023.12.08

公開研究会「よみがえる明治初期の山村の土地利用」実施レポート【里山学研究センター】

―永源寺地区の地券取調絵図(地引絵図)が語るもの―

 2023年11月25日(土)から12月24日(日)まで滋賀県東近江市能登川博物館展示室・ギャラリーにおいて,「よみがえる明治初期の山村の土地利用 ―永源寺地区の地券取調絵図(地引絵図)が語るもの―」という旧永源寺町の地券取調絵図を撮影し,新たにプリントアウトしたものが展示されている.この展示は東近江市と龍谷大学の共催であり,牛尾洋也教授(龍谷大学法学部・里山学研究センター)を代表とする研究チームが進めてきたものの成果である.それに伴い,11月25日(土)の15時から展示会と同タイトルの研究会が同博物館の集会ホールにて開催された.本研究会での登壇者は,西村和恭氏(東近江市市議会議員),牛尾洋也教授(龍谷大学法学部・里山学研究センター),笠井賢紀准教授(慶応義塾大学法学部・里山学研究センター)であった.


東近江市能登川博物館での展示風景

東近江市能登川博物館での展示風景


11月25日(土)研究会の様子

11月25日(土)研究会の様子

 今回の研究会のテーマであり,能登川博物館で展示をしている地券取調絵図に牛尾教授が初めて関わったのは,2009年に里山学研究センターからでた『里山学のまなざし』(丸山・宮浦偏,昭和堂)での「里山の所有と管理の歴史的編成過程 ―官山払下嘆願の実相―」であった.その後,「東近江市100年の森づくり構想」の委員となり,各集落で行われたワークショップに参加している際に,君ヶ畑の地券取調絵図の存在を知る.研究会では約20年前に地券取調絵図を収集し撮影を行っていた当時役場職員であった西村氏が,初めに当時の東近江市旧永源寺町における絵図の撮影と収集について話された.地券取調絵図などの古地図は,市町村合併により無くなったり,処分されたりしたため,後世に残すことを目的に収集し撮影を行っていた.23集落中21集落の地図を最終的に集めることが出来,能登川博物館にて保管をしていた.質疑応答では,絵図が失われる理由として合併以外にも,ダムの建設による移転が挙げられた.土地所有の税などが絡む絵図であるため移転をした場合,利用価値がなくなり処分されてしまうとのことであった.そんな中でも残しておくべきという意識がある集落もあり,役場で保管し毎年虫干しを行っている.現在の利用方法として山林方面の村間の堺などを確認する際に利用することもあるとのことであった.


西村和恭氏(東近江市市議会議員)

西村和恭氏(東近江市市議会議員)


牛尾洋也教授(龍谷大学法学部・里山学研究センター)

牛尾洋也教授(龍谷大学法学部・里山学研究センター)

 その後,二人目の発表者として牛尾教授が「よみがえる明治初期の山村の土地利用 ―永源寺地区の地券取調絵図(地引絵図)が語るもの―」と研究会のタイトルにもなっている演題で,これまでの研究の経緯や方法について説明があった.博物館に展示されている地券取調絵図は主に土地利用の記されたものであり,収集・撮影した物の中には他のものもあった.つまり,絵図にはこれまでの地域の歴史や文化,生活,生業,景観などが記されており,今後の土地利用や法的関係,変遷,現代の「地域」の将来像把握が可能だと考えられる.これは,国も進めている「国土の管理構想」にもつながり,地域住民自らが地域の現状の把握・将来予測を前提に未来像を描き,土地の管理を考える「地域管理構想図」として「地図化」し,行動計画などを示す要請として利用が可能となる.また集落ごとの絵図をパズルのように組合すことによって「流域単位」での地域環境共生圏などの把握が可能となる.そして明治時代の物流などが記載されている『滋賀県物産誌』などと突合することによって,より詳細な流域での生業や物流の変遷について把握することが可能となる.これらは今後の研究により推進していく予定であると述べていた.


永源寺地区の地券取調絵図(地引絵図)の一例

永源寺地区の地券取調絵図(地引絵図)の一例


笠井賢紀准教授(慶応義塾大学法学部・里山学研究センター)

笠井賢紀准教授(慶応義塾大学法学部・里山学研究センター)

 三人目は里山学研究センターの研究員でもある笠井准教授から「地券取調総絵図の史料特性と可能性 ―栗東市域を事例に―」の発表があった.笠井准教授はこれまで滋賀県栗東市の左義長などについて研究を行ってきて,その後GIS(地理情報システム)を用いて地理的空間を取り入れた研究をされてきた.本発表ではこれまでの研究フィールドとされていた栗東市域の地券取調総絵図と現在の緯度経度を照らし合わすことで絵図の歪みを求め,その理由について解析をされた.その結果,歪みが発生していた場所の代表例として墓地や山間地,湖沼のあたりでみられた.これらは当時の測量技術や作図技術,また測量の優先順位によるものが大きいとみられるが,笠井准教授は歪みの要因には,絵図を描写する紙のスペースの限界などが実は大きいのではないかとした.よって栗東の地券取調総絵図の特性として全体的に目的(地券付図)に適合した史料である.ただし局所的に歪みが一定数見られたとした.今後の可能性として,公的な絵図だけでなく家庭などに残されている絵図や家系図などのファミリーヒストリーなどを取り入れることによって,より地域の歴史や文化,特性などを知ることが出来るのではないかとした.その後,質疑応答にて様々な意見を交換した.

文責:龍谷大学里山学研究センター博士研究員
太田 真人