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2024.02.20

フナの日に江戸時代のふなずしの再現に挑む実験を実施【発酵醸造微生物リソース研究センター/農学部】

冬に漬け込むふなずしはどんな味わい?

数字の語呂合わせから2月7日は「フナの日」です。本学・発酵醸造微生物リソース研究センターの田邊 公一教授(本学農学部・同センター長)らのグループは、2024年2月7日に瀬田キャンパスにおいて、江戸時代のふなずしの再現に挑む実験を行いました。



滋賀の伝統料理であるふなずしは、琵琶湖の固有種であるニゴロブナを塩漬けにした後、ご飯に漬けて100日ほど乳酸発酵させる「熟(な)れずし」です。現在の一般的なふなずしの製法*1は、春に取った鮒を塩漬けにし、夏場の暑い時期になると取り出し、一匹丸ごとご飯で漬け込み、乳酸発酵が進んだ冬以降に出して食べるというもの。一方、江戸初期の元禄2年(1689年)の料理書『合類日用料理抄(ごうるいにちようりょうりしょう)』では、一年で最も寒い時期である「寒の内」に漬けると記されており、製法には塩漬けの記載がないほか、餅米の玄米で漬けるとあり、現在とは大きく異なります。


出典:『合類日用料理抄』[巻四]魚類/塩漬の類(東京学芸大学附属図書館所蔵)※ページ左にふなずしについての記載

出典:『合類日用料理抄』[巻四]魚類/塩漬の類(東京学芸大学附属図書館所蔵)※ページ左にふなずしについての記載


こうした史実から、古代からふなずしの製法は変わらないとされてきた「通説」を疑問視し、2020年から「合類日用料理抄」のレシピによる再現に取り組んできたのが、実験を企画した、滋賀県立琵琶湖博物館 学芸員の橋本道範氏です。*2

橋本氏の発案で、本学の研究メンバーらも関わる再現実験。気温の低い冬場は乳酸菌の発酵が進みにくく、塩漬けを省くとボツリヌス菌などの発生が懸念されることなどから、江戸時代のレシピの再現には困難が伴うそうです。一度目の実験では、塩漬けをしない鮒を一匹だけ保温庫を用いて発酵を促したところカビが生えてしまい失敗。二度目の実験では、塩漬けをした鮒・塩漬けをしない鮒の両方で数匹を漬け込んで外気にさらしたところ、どちらも発酵が進み成功。今回の実験では、本学で開発した「クラフト鮒寿し作製キット」を用いて、鮒を一匹ずつ個包装して実験を行います。塩をまぶした状態の鮒を、うるち米ともち米、それぞれの玄米とともに密封し、保温庫の中で当時の温度条件を再現しながら発酵を促そうというものです。


はじめに鮒を流水で洗いウロコを取り除く

はじめに鮒を流水で洗いウロコを取り除く


エラから内臓や浮袋を除去する「つぼぬき」

エラから内臓や浮袋を除去する「つぼぬき」

実験当日は、「クラフト鮒寿し作製キット」の試験的販売等で協力いただいている「近江佃煮庵 遠久邑(おくむら)」代表取締役 奥村吉男氏も駆けつけ、エラから内臓や浮袋を除去する「つぼぬき」の見事な技を披露されました。また、本実験に使用した鮒は、滋賀県水産試験場に提供いただきました。
2月7日の漬け込み作業からふなずしの完成までは約4カ月を想定。この冬の挑戦は、どのような味わいのふなずしを生むのでしょうか。


2024年2月7日(フナの日)の実験メンバー

2024年2月7日(フナの日)の実験メンバー


■田邊公一教授(本学農学部・発酵醸造微生物リソース研究センター長)コメント:
これまでの江戸時代のふなずし再現実験の結果から、温度がある程度上がった後に発酵がすすむことが分かってきました。今回の実験では「クラフト鮒寿し作製キット」を使い、より厳密な温度管理のもと、鮒や飯の変化を簡便に調べることができます。樽で漬けていた時にはできなかった、鮒の固さや香気成分の変化をリアルタイムで観察・測定し、当時のふなずし発酵メカニズムの解明につなげていきたいです。

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【参考情報】
*1 ふなずしの製法:
 滋賀県HP>ふなずし
*2 滋賀県立琵琶湖博物館 学芸員の橋本道範氏による論文等
・橋本道範「消費から漁撈を考える―琵琶湖のフナズシの洗練化をめぐって―」(『歴史と民俗』38、2022年)
・橋本道範「江戸時代のフナズシに挑む」(『情報誌びわはく』7、2023年)
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