Need Help?

News

ニュース

2024.03.21

自然科学系合同シンポジウム「未来を創る共創の力」を開催【人間・科学・宗教総合研究センター】

最前線の報告と議論を通じて考える、サステナブルな社会における知と技術の融合

龍谷大学研究部 人間・科学・宗教総合研究センター龍谷エクステンションセンターは、2024年2月26日(月)13:00~17:00、瀬田キャンパス REC小ホールにおいて「自然科学系合同シンポジウム『未来を創る共創の力』」と題した産官学連携のシンポジウムを開催しました。
→イベント概要

シンポジウムはゲストによる招待講演からスタートし、第1部では環境経営に関する招待講演と、人間・科学・宗教総合研究センターの重点強化型研究推進事業から3つのセンターの研究発表を、第2部では行政、産業界からのゲストを交えたディスカッションを実施。
地球環境の課題が山積する今、豊かな社会実現に向けて、学際的な研究を推進する龍谷大学からできることは何かについて考えました。
なお、当日の司会は人間・科学・宗教総合研究センター長の宮武智弘教授(本学先端理工学部)が担当しました。


第1部・招待講演(会場風景)

第1部・招待講演(会場風景)


第2部・ディスカッション

第2部・ディスカッション



【第1部:招待講演&研究発表】

 会の冒頭、入澤 崇学長が開会挨拶に立ち「地球上のさまざまな課題解決に向けて大学・企業・行政による共創力が求められる今、本シンポジウムは各立場からの発信が集う貴重な場になる。ぜひ最後まで耳を傾けていただきたい」と語り、シンポジウムがスタートしました。


入澤 崇学長

入澤 崇学長

まずご登壇いただいたのは、ゲスト講演者である株式会社島津製作所 三ツ松 昭彦氏(環境経営統括室マネージャー)です。
「島津製作所と環境経営」と題し、島津グループが掲げる環境経営5項目を軸に、気候変動対応や循環型社会の形成、地球環境保全に配慮した製品の開発・提供といった取り組みが紹介されました。その中で三ツ松氏は、同社の経営理念が「『人と地球の健康』への願いを実現する」である点にふれ、事業の中心に環境への配慮があることを発信。製造過程、社員活動、関係各社との契約などあらゆるシーンで島津製作所のフィロソフィーに“環境”を落とし込み、一人ひとりのマインドを醸成するよう努めていることが語られました。


三ツ松 昭彦氏による招待講演

三ツ松 昭彦氏による招待講演


株式会社島津製作所 三ツ松 昭彦氏(環境経営統括室マネージャー)

株式会社島津製作所 三ツ松 昭彦氏(環境経営統括室マネージャー)

続いて、本学の自然科学系研究センターより研究発表が行われました。
【発表者】
・富﨑 欣也 教授(本学先端理工学部、革新的材料・プロセス研究センター長)
・山中 裕樹 准教授(本学先端理工学部、生物多様性科学研究センター長)
・田邊 公一 教授(本学農学部、発酵醸造微生物リソース研究センター長)

1人目の発表者は、革新的材料・プロセス研究センター センター長の富﨑 欣也教授です。
富﨑教授は、同センターでは持続可能な社会形成に寄与する「ひと・もの・環境の調和」に立脚した材料研究を展開し、無機材料や有機材料、電子材料、バイオマテリアルなどさまざまな技術分野の研究者が横断的な研究を行っていることを紹介。


富﨑 欣也 教授(本学先端理工学部、革新的材料・プロセス研究センター長)

富﨑 欣也 教授(本学先端理工学部、革新的材料・プロセス研究センター長)

近年の代表的な成果として、水溶液から金の元素のみを安価に回収する「非ペプチド性化合物を使用した革新的リサイクル手法」を確立したことや、生分解性プラスチックであるポリ乳酸に関する生分解過程の詳細な分析を達成したことなどを報告し、「産業界との技術共創、および研究シーズ社会実装を指向していく」と今後の意気込みを述べました。

続いて、生物多様性科学研究センター センター長の山中 裕樹准教授が登壇しました。
山中准教授は、同センターの研究メンバーらが国内で最も早い時期から環境DNA分析(※)に取り組んできた歴史を共有し、2021年より地元企業やNPO団体等との協業で実施している「びわ湖100地点環境DNA調査」の分析結果を報告。「100地点にも及ぶ調査を通じて、びわ湖の生物多様性の基礎情報が取得できた」と手応えを明かしました。

また同センターでは今後、生物多様性保全活動を持続可能とするシステム構築を目指すとし、「社会貢献活動が“善意の搾取”とならないよう企業・行政・市民が集う場を創出し、資金・モチベーション・労力を循環させたい」と目標を語りました。
※ 環境DNA分析:
水や空気、土からDNAを採取し、そこに生息する生物の種類や量を調べる手法。


山中 裕樹 准教授(本学先端理工学部、生物多様性科学研究センター長)

山中 裕樹 准教授(本学先端理工学部、生物多様性科学研究センター長)

研究発表の最後を飾ったのは、発酵醸造微生物リソース研究センター センター長の田邊 公一教授です。
「微生物研究を通し、滋賀県の発酵醸造産業を支援する」を掲げてきた同センターの3年間にわたる種々の研究成果が発表されました。同センターでは、産学連携事業で地域の特産品から酵母を収集した発泡酒『菜の花エール』を開発・販売したこと。滋賀県の土壌から新種の油脂酵母2種を発見たこと。また田邊教授自身の研究活動から、滋賀県の名産品である鮒ずしを自宅で手軽に作ることができるキット『クラフト鮒寿し作製キット』を開発し、実用新案登録、試験販売を行ったことなどを報告。


田邊 公一 教授(本学農学部、発酵醸造微生物リソース研究センター)

田邊 公一 教授(本学農学部、発酵醸造微生物リソース研究センター)

 
田邊教授は「今後、人々の健康増進やフードロス対策に向けて、大学の微生物研究に参画する自治体や企業と共に、新たなムーブメントを起こすことが理想である」と締めくくりました。


【第2部:話題提供&ディスカッション】

第2部では第1部の発表者にゲスト等を交えてディスカッションを実施。「共創」をテーマに、大学のシーズと民間のニーズの接点を求め、活発な議論が展開されました。
まず話題提供として、環境省より龍谷大学へ出向中の黒部 一隆氏(本学 学長補佐)が登壇し、行政から見た環境問題の課題、取り組みのポイントが説明されました。

黒部氏は環境問題に関わる世界的議論の変遷にふれ、「いまや環境問題は、環境省主導からすべての省庁や自治体、産業界全体で取り組む時代に変わったのではないか」と課題感を共有。現在の環境問題のポイントは「カーボンニュートラル」「生物多様性」「資源循環」の3点であると強調し、「各環境課題のゴールは繋がっているはずだが、その繋がりは未知数。大学の研究成果がそれらの課題解決の架け橋となることを期待している」と語りました。


黒部 一隆氏(本学 学長補佐、環境省より出向)

黒部 一隆氏(本学 学長補佐、環境省より出向)

黒田氏の話題提供を受け、プログラムは大詰めへ。「研究拠点としての大学が地域・社会に貢献できること」と題したディスカッションに移りました。
宮武教授がモデレーターを務め、舞台には本日のゲストと発表者5名(三ツ松氏、黒部氏、富﨑教授、山中准教授、田邊教授)に加え、本学副学長として社会貢献事業を牽引する深尾 昌峰教授(政策学部)が登壇。自然科学、社会科学、企業、行政とさまざまな専門を持つメンバーによって意見交換がなされました。


ディスカッション風景

ディスカッション風景

1つめのテーマは「サステナブルな社会実現にむけた現状の課題は何か?」。2020年に政府が発出した「2050年カーボンニュートラル宣言」という大きな課題について、現状と課題を整理しました。
まず黒部氏が個々人と科学技術、2つの側面から提言。カーボンニュートラル実現への論点はほぼエネルギー問題であると指摘。個々人においては身近な省エネルギー化からの意識変革が大切だと語り、科学技術については「日本人は革新的イノベーションに目がいきがちだが、広く活用され信頼性の高い『枯れた技術』を水平展開する視点が必要ではないか」と問題提起しました。

続いて企業が果たすべき役割について、三ツ松氏が発言。「本業に根付いた発信で、人々への啓蒙活動を実施することも企業の大切な役割ではないか」と意見を述べました。

そして2人の発言を受け、深尾教授が「大学の役目は、新しい価値が示せる研究を社会と連携させることである。そのためには本シンポジウムのように研究成果が集う場を創出し、内部のコミュニケーションをもっと充実させていくことが必要だと再確認した」とコメント。加えて先の山中准教授の研究発表内のキーワード「TNFD(自然環境と企業活動との関わりやリスクについて可視化しようとする試み)」をピックアップし、「企業や行政、金融まで含めた仕組みづくりにおいて大学が担う役割は大きい」と述べました。


株式会社島津製作所 三ツ松 昭彦氏

株式会社島津製作所 三ツ松 昭彦氏


深尾 昌峰教授(本学政策学部・副学長)

深尾 昌峰教授(本学政策学部・副学長)

続いて「科学技術がサステナブルな社会の構築にどのように貢献できるか?」をテーマに、研究発表を行った3名の研究者が発言しました。
富﨑教授が材料化学の観点から「環境にとっていかに温和な条件で材料をつくるかが、環境に配慮したモノづくりに直結する」と述べると、山中准教授は生態学の観点から「環境DNAの技術発展はめざましく、あらゆる大陸、海からデータ取得できる自動分析装置が社会実装されれば、生物多様性の保全を大きく後押しするだろう」と語り、その上で技術と並行して環境DNA採取におけるルールメイキングの必要性を訴えました。
また田邊教授は「世界的に深刻化する食糧問題に対し微生物が解決の糸口を握る」と発言。近年、微生物を製剤化した保存料の開発が進んでいるというトピックスを提供しました。



ラストのテーマは「価値共創型のイノベーションをどう構築するか?」
この話題に対し、黒部氏は「共創を進めるうえで大切なのは、参加者すべてが責任感を持つことだ」と力説。例として、「ある材料の製造にCO2を発生させる国があったとして、果たしてそのCO2削減は製造国だけの問題なのか? 材料を使用した製品を買う国の人も協力が必要ではないか?」と会場に向けて問いかけ、「新しい提案、既存のルールを超える環境負荷の管理の枠組みについて、皆で考えていく状況を目指したい」と語りました。

最後に深尾教授が「これまで本学の産学連携事業は、企業側からの提案による取り組みを中心として実績を重ねてきた。今後は社会のWell-being(ウェルビーイング)を見据えた提案で企業や組織が集まる『バックキャスティング型』にバージョンアップすることが必要だと感じる」と発言。さらに「龍谷大学基本構想400」に言及し、「龍谷大学が誇るさまざまな研究は、社会変革の中核的な担い手になりうるだろう」と述べました。


宮武智弘教授(本学先端理工学部・人間・科学・宗教総合研究センター長)

宮武智弘教授(本学先端理工学部・人間・科学・宗教総合研究センター長)

サステナブルや環境といった壮大なキーワードに対し、参加メンバーから新たな提言、多面的な意見が寄せられ、有意義なディスカッションとなりました。

全プログラム終了後、宮武教授が挨拶を行い、現代の重要なテーマであるサステナビリティと共創について参加者で話題を共有できたことに感謝を述べ、シンポジウムは閉会しました。

龍谷大学研究部 人間・科学・宗教総合研究センターの各プロジェクトにおいて、今後も大学シーズが自然・科学の豊かな社会の実現に向けて何ができるのか、研究発表や意見交換を通して社会課題の解決の糸口が見つかるよう挑戦していきたいと考えています。