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2024.05.13

陳慶昌教授(国際学部)が客員編集者を務める国際学術誌『Third World Quarterly』の特集号「Political Healing in East Asian International Relations」が発刊【研究部】

研究者の視点から今後の国際紛争の解決策を

【本件のポイント】
•    本特集号は、東洋医学の思想と実践を活用した国際関係論・紛争解決研究への体系的な研究成果である。また、龍谷大学の複数の研究者がSocial Science Citation Index (SSCI)学術誌の特集号の客員編集者および執筆者を務めている。
•    本特集号に掲載された論文は、大乗仏教の医療実践、道教の陰陽弁証法、気の流れの分析、五行思想など東洋医学の知見から得た概念で、東アジアにおける国際関係・紛争解決研究に貢献している。
•    本特集号の研究成果は、米国の安全保障に関する言説、朝鮮半島における平和、日韓関係、尖閣諸島問題、中国と香港や台湾との対立や衝突などを再考する上で重要な政策的意味を持つ。

→プレスリリース(2024.05.13配信)



【本件の背景および目的】
持続可能な開発のために平和的で包摂的な社会を促進することは、2015年以降のSDGsの目的の一つであるが、国際関係における対立構造は悪化の一途をたどっている。例えば、COVID-19のパンデミック発生に伴う医療資源をめぐる先進国と発展途上国の対立、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐる権威主義と民主主義の対立などが挙げられる。同様の懸念すべき不和や対立は、東アジアにおいても多数確認されている。
本研究は、2018年に日本学術振興会 科研費・国際共同研究加速基金【国際共同研究強化(A)】(17KK0056)の助成を受け、陳慶昌教授(国際学部)を研究代表者として開始された。本研究の目的は、東アジアにおける長年の紛争を単に観察し封じ込めることではなく、再考し変革することである。伝統的に、このような紛争とそれに伴う暴力は、ウェストファリア条約(1648年)に基づく近代的な国際関係に伴う二項対立的なレンズを通して再生産されてきた。本研究は、オーストリア、日本、韓国、ニュージーランド、台湾、英国、米国を拠点とする研究者の協力を得て、「政治的癒し(Political Healing)」としての独創的かつ非二項対立的なアプローチを開発するものである。東アジアにおけるいくつかの紛争の根底にあるパターンを診断し、それを治療する方法を提案する。具体的には、アジア哲学、宗教学、政治学、ポストコロニアル研究など、さまざまな学問的観点から東洋医学の思想と実践をケーススタディとして取り上げる。多彩な学術的背景を持つ多国籍のプロジェクトメンバーは、現在進行中の紛争を共有された「政治的身体」の「病気」として理解し、「治療」できると提案している。

【本件の内容】
研究成果はThird World Quarterly誌(Taylor & Francis)の特集号(45巻6号)として出版され、陳慶昌(国際学部・教授)が客員編集長を務めている。清水耕介(国際学部長・教授)、野呂靖(心理学部・准教授)、山本アンドレイ(グローバルアフェアーズ研究センター嘱託研究員)とともに、龍谷大学の研究者4名が9本の論文のうち5本を執筆している。Third World Quarterlyは、開発学と国際関係論の分野で権威的な国際学術誌である(2022年Impact Factor 2.0)。2024年4月下旬の時点で、特集号が19,000以上のオンライン閲覧数を獲得していることは、本研究成果の質の高さと影響力の大きさを示している。以下、本学研究者による掲載論文のみを簡単に紹介する。
冒頭の陳慶昌、Astrid H.M. Nordin(英国キングス・カレッジ・ロンドン)、Peter Karl Mayer(台湾中国医薬大学)による巻頭論文は、「政治的癒し」とは何を意味するのか、なぜ東洋医学が政治的癒しのための実践的な「処方」を豊富に提供するのか、研究者はこの処方をどのように活用することができるのか、そして東アジアの国際関係はどのように癒すことができるのかを説明している。
清水と野呂による第1の論文は、大乗仏教を引き合いに出し、国際関係論研究において、自律的主体の存在や、彼らが「他者」とどのように関係するかといった、通常は時間的に直線的であるような、既成のメタ理論的前提を問い直すものである。彼らは主体/医者と客体/患者の垣根を曖昧にする大乗仏教の医療実践から学び、国際関係学者は、自らが向き合う国際問題と自己との間の相互構築を存在論的、空間的、時間的に検討しなければならないと主張する。
「五行」を組織化され、相互に関連する象徴の集合として考える五行理論に影響を受けた山本の第4の論文は、二項対立を前提とした一般的な紛争解決関連の文献における感情の役割に疑問を投げかけている。本論文は、感情を本質的に善か悪かではなく、むしろ過剰か不足かとして捉える方が有益であると主張する。従って、北朝鮮における感情の不均衡を癒すアプローチとして、カウンター・エモーションが提案されている。
Nina C. Krickel-Choi(オーストリア国際関係研究所)、陳慶昌、Alexander Bukh(アラブ首長国連邦ラブダン・アカデミー)による第6の論文は、これまで存在論的安全保障学の知見から排他的なウェストファリア的「国家身体」の一部としてみなされていた尖閣諸島に対して、なぜ紛争国にとって存在論的に重要なものとなりうるのか、そしてなぜ紛争が永続するのかといった一連の疑問を東洋医学の知見から捉え直す。生物医学における解剖学のように尖閣諸島を保護・管理すべき個の実体とみなせば、本問題には突破口がないと結論付けられるが、東洋医学の知見を用いれば本問題の存在論的な突破口を見出すことができる。言い換えれば、もし尖閣諸島が東洋医学的な意味での臓器の機能に類似していれば、それは他の身体部分との関係性の中に組み込まれる。さらに、それが生命を維持する機能を生み出しているのであれば、尖閣諸島をめぐる機能的協力を促進することは、「日本・中国・台湾の身体」の健康に資することになる。
陳柏宇(新潟県立大学)と陳慶昌による第7の論文は、仏教思想に着想を得た「間存在」(interbeing)の概念と東洋医学思想を応用することで、ウェストファリア近代性の二項対立的な言語を再生産することなく、中台関係の再考が可能であると論じている。アンバランスな「中台の体」は、「食料」(台湾海峡を越えた交流)の増加をより多くの「血」(「我々らしさ」または善意)に変えることに失敗しているが、一部の仏教団体の活動は「血作り」に資するものであり、ウェストファリア的な統一/独立の二分法を不安定化させる可能性は注目に値するという。

【Third World Quarterlyにおける本学研究者の掲載論文】

論文名:Political healing in East Asian international relations: what, why and how
著者:陳慶昌1、Astrid H.M. Nordin2、Peter Karl Mayer3
所属:1. 龍谷大学国際学部、2. Lau China Institute, King’s College London, UK、3. College of Chinese Medicine, China Medical University, Taiwan
URL:https://doi.org/10.1080/01436597.2024.2322087

論文名:Political healing and Mahāyāna Buddhist medicine: a critical engagement with contemporary international relations
著者:清水耕介1、野呂靖2
所属:1. 龍谷大学国際学部、2. 龍谷大学心理学部
URL:https://doi.org/10.1080/01436597.2021.1891878

論文名:Conflict as imbalance: political healing of and through emotions in Korea
著者:山本アンドレイ
所属:龍谷大学グローバルアフェアーズ研究センター
URL:https://doi.org/10.1080/01436597.2022.2090921

論文名:Embodying the state differently in a Westphalian world: an ontological exit for the Diaoyu/Senkaku Islands dispute
著者:Nina C. Krickel-Choi1、陳慶昌2、Alexander Bukh3
所属:1. Austrian Institute for International Affairs, Austria、2. 龍谷大学国際学部、3. Research and Development Division, Rabdan Academy, United Arab Emirates
URL:https://doi.org/10.1080/01436597.2022.2152789

論文名:Rethinking China–Taiwan relations as a yin–yang imbalance: political healing by Taiwanese Buddhist organisations
著者:陳柏宇1、陳慶昌2
所属:1. 新潟県立大学国際地域学部、2. 龍谷大学国際学部
URL:https://doi.org/10.1080/01436597.2021.1960158

【研究支援】
本研究は数多くの研究支援によって実施されました。
・科研費・国際共同研究強化(A)(17KK0056) 代表者:陳慶昌
・龍谷大学重点強化型研究推進事業(2023年度)グローバルアフェアーズ研究センター 代表者:陳慶昌
・龍谷大学国際社会文化研究所(2018年度) 代表者:清水耕介
・龍谷大学世界仏教文化研究センター応用部門
・アラブ首長国連邦ラブダン・アカデミー 代表者:Alexander Bukh
・台湾国家科学及技術委員会(108-2926-I-002-002-MY4)、中央研究院 代表者:林婉萍

【本件のイメージ】


出典:滑寿『十四経発揮』(Wikipedia Public Domain)

出典:滑寿『十四経発揮』(Wikipedia Public Domain)
東洋医学では、気や血の流れを理解するために経絡を想像する。本特集号では、「政治的身体」の「病気」として紛争を理解するために、創造的な想像力が必要であることが示している。これは、鍼治療の道筋やツボを可視化するように、概念を明確にするためのものである。


<研究に関する問い合わせ先>
龍谷大学国際学部教授・陳慶昌
chen@world.ryukoku.ac.jp

<担当部局>
龍谷大学 研究部 人間・科学・宗教総合研究センター
Tel  075-645-2154 soken@ad.ryukoku.ac.jp
https://ningensoken.ryukoku.ac.jp/