2024.05.14
法学部企画広報学生スタッフLeD’sインタビュー/畠山先生「團藤文庫・プロジェクトとの関係について」後編【法学部】
法学部企画広報学生スタッフLeD’sインタビュー/畠山先生「團藤文庫・プロジェクトとの関係について」前編【法学部】はこちら
質問5 大阪空港公害訴訟と團藤文庫、龍谷大学法学部との関わりについて教えてください。
畠山
去年(2023年)4月にNHKの番組(「ETV特集 誰のための司法か―團藤重光 最高裁・事件ノート」)が全国に放映されましたが、この番組では、團藤文庫所蔵の資料が一次資料として用いられました。具体的には、この訴訟を担当していた團藤判事たちが判決を下す直前に「大法廷回付」というのがなされ、結果として、團藤判事たちが用意していたような判決にはならなかったのですが、その重大な契機として、村上元長官による「介入」と團藤先生が書かれているようなことがあった、このことが團藤ノートから明らかになったのです。このことは、社会の中でも大変な注目を集めまして、取材も殺到しましたし、記者会見も行いました。
当時、同様の公害訴訟が様々行われていまして、その中で、やはり最高裁判決が持つ意義というのは非常に大きくて、当初團藤判事たちが出そうとしていた内容の判決が出れば、その後の公害訴訟ってのは、まったく違うものになっていただろうと想定されます。なので、その後の公害訴訟の流れを決定づけることになったという意味で、この一事の重大性はきわめて大きかった、と言えるわけです。
訴訟って言うと当然法学部の問題になるけども、この訴訟に関しては、公害に関する題目として中学や高校の社会科の授業でも扱われていると思うので、これは社会問題として一般に重要な案件だと思うんですよ。法学部の専門的なことっていうより、もっと広い意味で日本社会全体に対するインパクトとして、判決として、住民の訴えを認めるということにはならないっていうことが持つ意味、結局、国の責任は認めないという、弱者の救済という観点からというのかな、ここはすごく大事なところだと思うんです。
講演会(https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-13008.html)の時の質問で、印象的というか驚いたのは、大阪の人に聞いても知らないっていうか、いや飛行機そんなうるさくないですけどみたいなこと。だから、法学部生にとってというよりも、一般的にもはや昔の話になっちゃってて、だからそんなに取り上げなくなっちゃうかもしれないし、知らない人もいるのかもしれない。でも、昔はそうじゃなくて、例えば飛行機はもっとずっとうるさかったとかで、地元の人たちはもう大変な思いをしていたとかいうことがあったっていうことは、法学部生としては、過去のことだとしても、自分事というか、重大な法的問題として取り上げる必要があるし、ぜひ、その歴史や歴史的意義とかに関しても改めて勉強してくれると嬉しいなという風に思います。
質問6 團藤重光氏は死刑廃止論や少年法改正を唱えていましたが、どのような経緯やどのような考えの元で唱えていましたか。
畠山
これは刑事法という狭い話にはなりません。團藤先生は、決して、刑事法学の専門のみならず、広い視野で「ヒューマニズム」に基づいていろんなことに立ち向かっています。まさに大阪空港訴訟もそうですね。弱い立場の人たちをどのように助けるのか、立法ではなく司法が助けなければならない。大阪空港訴訟ではその立場から判決を出そうとしていました。
現在、一般には、團藤氏は「死刑廃止論」というイメージは強いと思いますが、必ずしも最初からそうではなかったのではと思われます。少なくとも彼がその立場として明確に確立されたのは、最高裁判事になった以降ではないでしょうか。晩年に向けて、その立場は強くなっていきましたが、その根底にはヒューマニズムから始まったものや、團藤氏の生活の中でいろいろ変化があったのでは、と思います。有名なエピソードに、法廷で傍聴席から、『人殺し』って声をかけられた、ということが團藤氏にとってどこか引っかかるものがあった、というものがあります。とは言え、さらに資料などから研究を進めていき、分析していかなえればばらないことだと思います。
質問7 昨年度(2023年度)の法学部の「基礎演習」では團藤氏に関わる講演会がありましたが、今後も團藤氏に関係するカリキュラムを入れる予定はありますか、また、もし入れるならばどのようにカリキュラムに取り入れますか。
畠山
なるべく、多くの学生にしっかりと影響を与える、または有益になる形にできないかと、ということを検討した結果、基礎演習で取り上げようという話になりました。今年度も基礎演習の講演会として行いますが、前回いただいたご意見を参考に、内容自体は変更を加え、学生にとって学問的に意義が残るものにしたい、という考えがあります。さしあたり、「基礎演習」で取り上げていただき、その先に、専門的に関わる講義やゼミで取り上げていただきたいという考えです。
また、龍谷大学には「人権問題研究プロジェクト」というのがあり、過去に授業改善との兼ね合いで行いました(https://rcrc.ryukoku.ac.jp/dandoubunko/reduction.html)。このプロジェクトは、帯広畜産大学や舞鶴高専などの法学を専門としないところでも行ってきました。今後も、他大学や高校などとも法教育の場として連携してできたらと、と考えています。
質問8 講演会などを通して、学生にはどのようなことを感じてほしいと思いましたか、またどのようなことを伝えたかったですか。
畠山
まずなにより、團藤氏の資料があることを知ってもらいたかった、ということです。團藤氏の資料は龍谷大学法学部が所蔵するものではありませんが、法学部生が研究や生活の中で関わっていく分野の資料があることを知ってもらいたいです。團藤重光氏は、法学界では「偉人」と言って差し支えない人であり、その人の貴重な資料が龍谷大学にあることを、法学部生に知ってもらうことがまずは大事だろう、ということです。法学を学ぶ上で、直接的、間接的にも、彼に関する法や事件というものは必ず関わってきます。法学部生として学ぶべきところ、あるいはすでに学ばなければいけないことも多くあります。そんな中で、團藤文庫を通して、そこに直接関わり、体感していただくことが、龍谷大学法学部で学ぶことの喜びや誇りになってもらえればなあと思います。そして、いろいろな資料を通じて勉強することで、主体的に、積極的に勉強をしてくれるようになってほしいです。
質問9 今後のプロジェクトについて
畠山
遺贈されたものを、広く活用してほしいという團藤先生のご遺志のもと、資料を公開できるようにプロジェクトが進んでいます。研究を進めながら、決して自分たちだけが利用することをしないように気を付けています。他方で、広く公開するにあたり、遺贈されたものを整理しなければなりません。ただ、その数があまりにも多くて、整理作業が非常に大変です。すべてを整理してから公開するとなると、時間がとてもかかるので、整理作業と並行しながら、公開を進めていく、という予定です。また、大規模なものでなくとも、例えばテーマを決めて、今回の團藤展のようなものを定期的に開催できればなあと思います。