2025.12.01
鈴木啓央講師の共著論文が国際学術誌に掲載。最初の一歩で新奇な運動の学習方略は左右されることを実証【研究部/経済学部】
新奇運動の習得過程の3次元解析で新たな知見
この度、本学経済学部の鈴木啓央講師、大阪体育大学スポーツ科学部の平川武仁教授、新潟医療福祉大学 心理・福祉学部の山本裕二教授からなる共同研究グループは、科研費による研究活動の一環として、キャスターボード(2輪連結型のスケートボード)の習得過程に関する研究成果を国際科学ジャーナル「Frontiers in Psychology: Movement Science」(Frontiers Media社)に発表しました。
【→プレスリリース(2025.12.01配信)】
・新奇な運動の習得には、学習初期に“選んだ動き方(方略)”が強く影響することを実証。
・多様な動作を試しながら学習する人ほど、技能習得が早いという新しい知見。
・スポーツ指導現場で重視されてきた「同じ動作の反復」だけではなく、動作の変動性が高い「試行錯誤の幅」の重要性を示す研究成果を国際ジャーナルにおいて発表。
これまでの研究で分かっていたこと
スポーツの指導場面において、同じような指導を行ったとしてもすぐに上手になる選手とそうではない選手がいることは多くの指導者が経験することです。このような運動の学習における個人差は何が要因で生じるのでしょうか。
これまで、運動学習の個人差は、ジャグリングや書字などの比較的小さい運動を対象に調べられてきました。ここでは、過去の運動経験や学習の初期段階で遂行される動作パターンなどがその個人差を生み出す要因になり得ることが確かめられてきました。しかしながら、全身を使う運動においては、その要因は明確にはなっていませんでした。
そこで本研究では、キャスターボードを対象に、キャスターボードに初めて乗る参加者の学習過程を分析し、ボードに早く乗れるようになった参加者と遅かった参加者の学習過程の違いを比較しました。
キャスターボードは、連結した2枚の板にそれぞれ車輪が1個ずつ設置されている変形スケートボードで、倒れないようにバランスを取りながらも、2枚の板に交互に力を加えることで前進する乗り物です。このキャスターボードに関わるこれまでの研究は、コンピューターシミュレーションやロボットを使って、ボードが推進するメカニズムは調べられてきましたが、キャスターボードを上手になるためにはどのような運動スキルを身につける必要があるかは分かってはいませんでした。
この研究で明らかになったこと
本研究では、キャスターボードに初めて乗る7名の大学生を対象に、その学習過程における動作の変容を3次元動作解析によって分析しました。学習課題は1周約10mの円形コースを落下せずに2周することでした。この学習過程における肩の回旋角度変化とボードの初速を試技ごとに計測しました。その結果、すべての参加者において、肩の回旋角度もボードの初速も試技を重ねるにつれて大きくなっていました。このことは、2輪であるキャスターボードの上に安定して立つためには、自転車と同様、ボードに乗り出す際の速度を大きくし、ある程度勢いが必要なことを意味しています。
しかしながら、それだけではボードはいずれ失速してしまうので、ボードの推進力を得るために肩の周期的な回旋運動を大きくする必要があることも意味しています。すなわち、キャスターボードを上手に乗りこなすためには、乗り出しの際に足でしっかりと地面を蹴ることでボードに勢いをつけ、そのうえで体幹部を周期的に大きく回旋し続ける動きが重要であることが明らかになりました。
課題を到達するまでに要した試技数は100試技以上の違いがあった参加者もおり(図2)、加えて、上述した2つの変数のうち学習過程でどちらの変数がより大きく変化したのかを表す学習方略にも個人差が見られました(図3)。これらの学習方略を大きく分けると、ボードの乗り出しの際に初速を出来るだけ上げて課題に到達しようとした参加者(勢い型)と、肩を回旋してボードの推進力を上げることにより課題に到達しようとした参加者(捻転型)という2つの学習過程が見られました。結果的には、捻転型の参加者の方が早く課題に達する傾向がみられ、勢い型の参加者は課題達成までに多くの試技数を要していました。加えて、最初に選択した乗り方が、その学習方略にも影響を及ぼすことが明らかになりました。さらに、試技ごとにどれほど異なった動作を遂行していたのかを表す動作の変動性を分析したところ、動作の変動性が高い参加者ほど早く課題に達成していた傾向が見られました。
以上のことは、運動の学習においては「最初の一歩」が重要であり、学習者が最初に選択する学習方略によって学習の早さが異なる可能性を示唆しています。加えて、より学習が進むためには、同じ動作に固執せず、様々な動作を試行錯誤することが重要であることも示唆しています。
この研究の革新性
本研究では、個々の学習者の学習過程を詳細に分析することにより、スポーツ場面の実態により近い状況での学習過程を明らかにすることができました。特に、学習の早い学習者ほど多様な動作を試行錯誤しているという結果は、スポーツの指導場面でよく見られる同じ動作の反復練習とは相対する結果でした。これにより、より効果的な運動指導への展開が期待されています。
雑誌名: Frontiers in Psychology: Movement Science(Volume 16 - 2025)
タイトル:Factors influencing caster board skill acquisition
著者:鈴木啓(龍谷大学)、平川武仁(大阪体育大学)、山本裕二(新潟医療福祉大学)
DOI:https://doi.org/10.3389/fpsyg.2025.1643100
オンライン掲載日:2025年11月11日