2026.08.18
古い和本は「暮らしのタイムカプセル」だった――毛髪分析から都市庶民の食生活を復元【研究・社会実装推進部/先端理工学部】
江戸時代から明治時代の都市庶民の食生活は質素でもミネラル豊富? 古い和本から見えてきた食生活の実像
江戸時代の人々は、実際にはどのような食生活を送っていたのでしょうか。
江戸時代から近代にかけて日本で広く作られた伝統的な和本。その表紙(再生厚紙)には、当時の人々の毛髪が漉き込まれていました。
龍谷大学先端理工学部の丸山敦教授、国文学研究資料館の入口敦志教授・副館長、QST量子医科学研究所の及川将一室長らの研究グループは、古い和本の毛髪試料を科学的に分析し、都市庶民の食生活や生活環境を復元。約7万冊の和本を調査した大規模研究の成果が、国際学術誌『Scientific Reports』に掲載されました。
(2026年8月17日18時/英国夏時間10時公開)
研究グループは、龍谷大学大宮図書館が所蔵するものを中心に約7万冊の古い和本を調査し、100部を超える和本から採取した毛髪試料を分析しました。出版地や年代が分かる毛髪を調べることで、江戸時代から明治時代にかけて都市で暮らしていた庶民の食生活を科学的に復元しました。
分析の結果、当時の食生活は米と海産魚を中心とした「質素」なものであったことが、歴史資料の記述と一致する形で裏付けられました。一方で、毛髪に含まれるカルシウムや鉄などのミネラルは、現代人より高い傾向にあることも判明しました。精白度の低い米や海産物の利用が、その背景にある可能性が考えられます。
また、鉛や塩素の濃度が高いことや亜鉛が低いことから、白粉(おしろい)の使用や塩蔵による食品保存、肉食制限など、当時の生活文化も読み取ることができました。
今回の研究は、古い和本を「当時の暮らしを記録したタイムカプセル」として着目し、異なる研究領域の研究者が協働して、過去の生活を解き明かした点が大きな特徴です。
図1 毛髪を保存するタイムカプセルとなった古い和本(当該論文Fig。 1転載)。
a:龍谷大学大宮図書館(西黌地下1階書庫の和本)。b:江戸時代に愛された古い和本の例。
c:出版都市や出版年が記された刊記(奥付に相当)。d〜e:表紙に使われた再生厚紙に漉き込まれた毛髪。
「江戸時代の庶民の暮らしは、現代から見ると質素に映ります。しかし、古い和本の中に偶然残された毛髪を調べてみると、その食生活は単に『貧しい』『単純』という言葉だけでは片付けられないことが見えてきました。米、魚、塩、調理器具といった日常の技術や工夫が、当時の栄養を支えていた可能性があります。文字資料だけでは見えにくい庶民の暮らしを、古書という身近な文化財から読み解けたことに、大きな面白さを感じています。
また、この研究は、3人の卒業生が、大宮図書館・国文学研究資料館・QST量子医科学研究所の専門家と議論を交わしながら育ててくれました。新しい知見を前に、立場も分野も関係なく考えを擦り合わせていくプロセスは、まさに研究の醍醐味でした。」
▼研究の詳細は、プレスリリースをご覧ください。
https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-19007.html
研究助成:
・日本学術振興会 科学研究費補助金 挑戦的萌芽研究「古書籍に混入した毛髪の安定同位体分析による過去の食生活の推定」(2019年7月〜2023年3月)19K21656
・公益信託エスペック地球環境研究・技術基金(エスペック環境研究奨励賞)「日本の「食環境」の変遷にPIXE分析で迫る〜江戸時代に出版された和装本に漉き込まれた毛髪を活用して〜」(2019年8月〜2021年10月)