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2018.07.20

日米合同ティーチイン・日本国憲法と死刑執行 東京集会「いま、再審請求中の死刑執行を考える」を開催【犯罪学研究センター】

再審請求中の死刑執行は、憲法に違反しないのか?

2018年6月13日~6月16日、龍谷大学犯罪学研究センターは「日米合同ティーチイン:日本国憲法と死刑執行~再審請求中の死刑執行は、憲法に違反しないのか~」を開催しました。この企画では、「再審請求中の死刑執行」について日本国憲法との関連から議論を行うため、米国の死刑問題に詳しい研究者、実務家や、日本の研究者、実務家をお招きしました。
第一弾企画として、2018年6月13日シンポジウム「いま、再審請求中の死刑執行を考える」を開催しました。
当日は梅雨の晴れ間となり、東京 衆議院第一議員会館・国際会議室の会場へ約50名に参加いただきました。

【イベント概要はこちら】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-1751.html



まず、西田理英弁護士(第二東京弁護士会)より、本シンポジウムの企画趣旨について説明がありました。米国の判例や議論の展開について学び、日本への議論へとつなげていくことを目指して、本シンポジウムが企画されたことを説明しました。
「刑事訴訟法上、死刑は法務大臣の命令に基づいて執行されるもので、これまで再審請求(裁判のやり直しを求めること)をしている間は、死刑執行が差し控えられてきましたが、2017年7月と12月、再審請求中だった3人に死刑の執行がなされました。再審請求中に死刑執行を停止しなければならないという規定は刑事訴訟法には定められていませんが、再審請求は長い時間をかけて判断されるものです。現在、世界198カ国中、141カ国が死刑を廃止しています。連邦制度をとる米国では、各州が死刑制度の存置についてそれぞれ判断し、特に合衆国憲法との関連から議論が行われています。米国での議論を参考に、日本でも同様の議論を行うことが必要なのではないでしょうか」

つぎに堀 和幸弁護士(京都弁護士会)より、現在の日本における再審請求中の死刑確定者の現状や死刑執行にかかる適正手続に関する日本の実務状況について報告がありました。
「1999年12月に再審請求中の執行があって以来、2017年7月までの18年7ヶ月、再審請求中の死刑執行はなされませんでした。現在日本には、124名の死刑確定者がいて、その70%を超える確定者が再審請求をしているという報道もあります。死刑の執行は法務大臣の裁量に委ねられ、チェック体制がありません。果してこうした状況は憲法に定められた適正手続、裁判を受ける権利に違反しないのか、議論が必要だと思います。最近、再審請求中の死刑執行を拒否する権利があるとして死刑確定者が訴訟を起こしました。こうした問題について議論を継続する必要があると思います」



そしてキャロル・スタイカー教授(ハーバード大学)、ジョーダン・スタイカー教授(テキサス大学)の基調講演です。キャロル教授の研究テーマは刑事実務の実体法、制度構成、ジョーダン教授の研究テーマは憲法や人身保護令状(Habeas Corpus:ヘイビアス・コーパス)で、テキサス大学・死刑廃止センターの所長でもあります。
まず、キャロル教授より、米国における死刑と憲法の関係について、連邦最高裁が死刑問題に対して大きな役割を果たすようになった経緯が紹介されました。
「死刑制度の存置は各州に判断が委ねられており、全米50州のうち、31州で存置、19州で廃止されています。1960年代から最高裁が死刑に対する最重要機関になり、1972年のファーマン対ジョージア事件判決で米国での死刑制度を廃止することとなりましたが、これはすぐに政治的反発を受けました。1972~1976年にかけて各州が死刑に関する新しい法律を制定しましたが、1976年グレッグ対ジョージア判決で連邦最高裁は州の立法者によって新たに制定された死刑制度を合憲としました。それから40年間、連邦最高裁は死刑制度について新たな判決を出し続け、死刑制度に対して大きな役割を果たし続けています」
つぎに、ジョーダン教授より、米国の実務状況について報告が行われました。
「米国では死刑制度において憲法上の規制がなされるようになったことで、死刑の執行計画、執行の通知方法、さらに執行前に憲法上の主張を行ったり通常の上訴をしたりする機会を与えること、弁護人と死刑確定者の関係を保護することについて規制が増加しました。現在、事前告知のない死刑執行という実務は許されていません。また現在の実務では執行の前にすべての主張について判断が示されることになっています。さらに死刑確定者は任意に弁護人に会う権利があります。米国の憲法上の死刑制度に対する規制の強化によって、実際の執行までに死刑確定者が法的に争うシステムが構築されています」

スタイカー両教授の基調講演をうけて、阪口正二郎教授(一橋大学)より、日本国憲法の観点からコメントがありました。
「これまでに日本では憲法学の観点から死刑の問題についてはあまり考えてこなかったというのが現状です。制度自体が合憲か違憲か、死刑の執行方法が残虐でかつ異常な刑罰にあたるのかという点での議論はありました。今回の講演をうけて、死刑制度の運用のあり方が適正手続に違反しないのかという点、誰に対するどんな刑罰が残虐な刑罰にあたらないのかという点についても議論が必要です。また再審請求中の死刑執行についても適正手続的に問題があると考えられます。一定の理由がある再審請求については死刑執行を止めるような手続きが必要になると思います。日本の憲法の観点からみた死刑制度における適正手続についてはさらなる検討が不可欠だと考えます」
質疑応答では日本の弁護人や研究者から実務などに基づいたコメントや質疑が行われました。

さいごに、石塚伸一教授(龍谷大学、犯罪学研究センター センター長)より、閉会の挨拶がありました。
「再審請求中に死刑執行がなされることが、憲法上どういう問題があるのかということを皆で考える、その場所はどこが良いかと考えたときに、立法府にきちんと責任を取って貰いたいという思いから、ここ衆議院第一議員会館を会場として提供いただきました。スタイカー先生のお話を聞いて分かるように、 日本はアメリカに比べて、再審法も執行法も適正な手続に適っているとは思えません。こういう状況はやはり、私たちがきちんとこの問題を考えてこなかったことにも責任があります。今回の催しをきっかけに、死刑の存置か廃止かは別にして、適正手続と裁判の公平性について、真剣に一緒に考えていただきたいと思います」

※本講演に関する当日のスライド資料(PDF)を下記の通り公開します。


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キャロル・スタイカー教授(日本語スライド資料)


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⻄田理英弁護士「再審請求中の死刑執行を考える ー日米の憲法の視点からー」


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堀 和幸弁護士「再審請求中の死刑執行の現状と課題」


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阪口正二郎教授「死刑と適正手続――憲法学の観点からの疑問」