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2018.09.10

【犯罪学研究センター】科学鑑定ユニット長 インタビュー

科学鑑定の信頼性・信用性を検証し基準を考察

古川原 明子(こがわら あきこ)
本学法学部准教授、犯罪学研究センター「科学鑑定」ユニット長
<プロフィール>
生命と刑法の関わりを研究。現在は「揺さぶられっ子症候群(SBS)」の理論に基づいて逮捕・起訴される事件における科学的信頼性を検証中。

それは本当に虐待だったのか
科学鑑定ユニットは、犯罪と科学との関係を扱うユニットです。DNA鑑定や画像解析鑑定など裁判で使われる科学的証拠はたくさんありますが、これらの信頼性を問い直し、国内外の科学者の知見を踏まえて、信頼できる鑑定を刑事裁判で用いるための基準の提言を目指しています。
現在は、報道数が増えている「揺さぶられっ子症候群(SBS)*」に特に注目して研究を進めています。揺さぶられっ子症候群とは、乳幼児の頭が激しく揺さぶられることで「硬膜下血腫」、「網膜出血」、「脳浮腫」が起こることがあるとされる医学的な見解です。医師の間にはこの三つの症状(これは三徴候とよばれます)があれば虐待があったとしてよいという考え方があり、これを警察官や検察官、そして裁判官が信じていることから、三徴候の存在を理由に虐待があったとして逮捕・起訴される例が少なくありません。しかし、このような症状は低位落下でも起こりうるし、出生時のトラブルや乳幼児の体質など、他にも要因が考えられます。乳幼児の身近にいた人が虐待した覚えは全くないのにもかかわらず、起訴されて有罪となり、もちろん親子は引き離されてしまうのです。

*「揺さぶられっ子症候群(SBS)」とは…The Shaken Baby Syndromeの略で、1970年代にアメリカの小児科医が提唱。網膜出血・脳浮腫・硬膜下血腫の三徴候は、激しく子どもを揺さぶることで生じるという仮説。

日本で支配的なSBS理論を見直す
アメリカやイギリス、スウェーデンなどでは、すでにこの三徴候=揺さぶりによる虐待があったという考え方は揺らいでいます。たとえばスウェーデンでは、さまざまな検証や実験のすえ、「SBS理論は確たる理論ではない」との報告書が発表され、現在では検察官も起訴を控えるようになっています(龍谷法学50巻3号参照)。そうなるともはやこれは理論ではなく仮説というべきですが、日本の医師界ではこのSBS理論を支持する勢いが強く、さらに「虐待を見逃すのか」という正義感もあってなかなか再検証されないのが実情です。
2018年2月、本ユニットは国内外から脳神経外科医や弁護士、冤罪被害者を招いて国際シンポジウム「揺さぶられる司法科学―揺さぶられっ子症候群を問う―」を主催しました。医学者からは三徴候=虐待という理論に対する反証が示され、弁護士と研究者からは、SBS理論に関する事例を挙げながら法的な問題点が指摘されました。シンポジウムの様子は、本センターのHPに掲載されています(http://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-1976.html)。
また、イギリスの著名な神経病理医であるウェイニー・スクワイア医師のシンポジウムでの講演を収録した『龍谷法学』50巻1号がまもなく(2018年9月)に公刊されます。
広く一般の方や医療・保育に携わる方、そして何より子育てに携わる保護者の方々と問題意識を共有しながら、さらに研究を進めていく予定です。

刑事司法で鑑定をどのように扱うかの指針を
科学鑑定の信頼性を確立するためにはエビデンスとなる膨大な科学的データの蓄積と丁寧な検証が必要です。
また、SBS理論以外にも科学鑑定にはDNA鑑定や成分分析検査などたくさんの分野があり、いずれも有罪の決め手になると同時に冤罪を招いてしまう可能性があります。本ユニットは、信頼できる科学的知見に基づいた鑑定を刑事司法手続で用いるために求められる基準を作り、提案することを目指しています。