2018.11.12
第2回 龍谷犯罪学セミナー(Ryukoku Criminology in English)レポート【犯罪学研究センター】
犯罪被害調査とはなにか?――日本の女性に対する暴力に関する調査を事例として
龍谷大学 犯罪学研究センターは、犯罪予防と対人支援を基軸とする「龍谷・犯罪学」を構築し、日本国内だけでなく、広く世界にアピールしていくことを目標に掲げています。
このたび、現在までの研究成果を踏まえて英語でのトライアル授業を10月13日(土)より8日程(全15コマ)にわたって開催しています。
この授業は、欧米諸国では「犯罪学部」として学問分野が確立されている領域を、世界で最も安心・安全とされる日本社会の中で独自に捉え直す試みで、新たなグローバル・スタンダードとしての「龍谷・犯罪学」を目指して、全回英語で実施しています。
龍谷犯罪学セミナー(Ryukoku Criminology in English)【>>実施詳細】
2018年10月27日(土)、本学深草学舎至心館1階にて、第2回「Ryukoku Criminology in English –Let’s study the Criminal Justice System in the secure and safe society-」を開催しました。講師は本学社会学部の津島昌弘教授、テーマは「What is the crime victimization survey? The case of the survey on violence against women in Japan.」でした。講習では、犯罪被害調査の意義とともに、津島教授らが実施した日本の女性に対する暴力に関する調査の概要が紹介されました。
基本情報:
Ryukoku Criminology in English –Let’s study the Criminal Justice System in the secure and safe society-
Oct 27th (Sat) <2 lectures (13:15-14:45/15:00-16:30)>
Masahiro Tsushima (Research Department Head of Criminology Research Center / Professor of the Faculty of Sociology at Ryukoku University)
“What is the crime victimization survey? The case of the survey on violence against women in Japan.”
まず、社会調査についての基本的な説明がなされました。社会学では、設問からなる調査票をもちいた標本(サンプル)調査やインタビュー調査、フィールドワークなどの手法をもちいて、人々や社会について理解し、それを政策や制度設計などに生かす取り組みが行われています。今回のテーマである犯罪被害調査は、標本調査にもとづいて行われています。標本調査では、調査対象の母集団のなかから偏りなく標本を選び出します。これを無作為抽出と言い、標本が母集団の「縮図」となることを保証します。そして、得られた標本データを分析し、その結果から元の母集団の特性を推定します。
つぎに、犯罪被害調査についての説明がなされました。犯罪被害調査とは、どのくらい犯罪が発生しているのかを明らかにする調査です。警察庁が毎年編さんして公開する警察(業務)統計では、通報されなかった犯罪など警察によって把握されていない犯罪の数(暗数)は反映されていません。しかし、犯罪被害調査では、調査票をもちいて暗数をふくめた犯罪被害の情報を得ることで、より実態に近い犯罪発生数を把握することが目指されます。国際犯罪被害実態調査(International Crime Victimization Survey)には2000年より日本も参加しており、4年ごとに法務省の法務総合研究所によって日本における犯罪被害調査が行われています。この調査は、統一した内容の調査票をもちいることで、国際比較の基礎資料を提供していますが、女性の暴力被害に特化した調査ではなく、暴力被害に関してかなり簡略化された設問となっています。
そこで津島教授らは、欧州基本人権庁によって2012年に実施された「欧州における女性の幸福と安全に関する調査」(EU調査)にならい、日本においてEU調査と同一の調査を行いました。暴力被害の細部を問うこの調査には、調査対象者に対する特別な配慮が必要となることから、調査員には調査を行う前にセミナー(調査の趣旨、調査の実際のやり方や注意点などを学ぶ研修)を1日受講してもらうなど、十分な体制をとりました。そして、人を対象とする研究に関する学内の倫理審査を経て、2016年に調査を実施しました。
調査対象者は、関西地方に住む18歳~74歳の女性のなかから、層化二段無作為抽出法をもちいて選びました。調査は、調査員が調査対象者宅を訪問して、コンピューター支援による面接調査によって、2016年10月1日から12月4日まで行われました。2448名の調査対象者のうち、741名から回答を得ることができました(回答率30.3%)。
調査の結果、日本の女性の6人に1人が暴力被害を経験していることが明らかになりました。これはヨーロッパの女性の割合(3人に1人)より低く、警察統計をもちいた国際比較研究の結果とも一致します。また日本では、パートナーから暴力を受けたことがあると回答した53人の女性のうち、被害を警察に通報した人は一人もいない、ということがわかりました(EU調査では14%が通報していました)。パートナーでない人からの暴力を通報したのは日本12%、EU13%と大差はありませんでした。これらの結果より、日本では夫婦などパートナー間で起きた暴力は表に出にくい傾向にある、ということがわかりました。これは、日本女性が「(通報するのは)家族の恥」や「自分も悪いところがあった」などと思ってしまうことに要因があると考えられます。暴力が疑われる場合、本人のまわりにいる人々が通報したり、支援団体を紹介したりするなどの対応が重要になります。
また調査結果から、反復被害(revictimization)の問題も明らかになりました。反復被害とは、子どもの成長過程において犯罪被害にあった人は、成人して再び犯罪被害にあうリスクが高いという現象のことをいいます。調査では、幼少時に虐待を受けた経験のある女性は、大人になって暴力の被害を受けやすいという結果が明らかになりました。こうした現象の要因は判然としませんが、暴力を受けた子どもに対する早期介入が非常に重要であるということはいえるでしょう。
講義終了後のアンケートでは「わかりやすいデータを示され、詳細に説明してもらえて、犯罪学の概略を理解することができました」などのご意見をいただきました。日本の女性の暴力被害の現状、それを把握するための調査手法について学ぶ、非常に有意義な機会となりました。
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次回は12/15(土)の開催予定です。
単発での受講や一般の方の受講も可能ですので、ぜひご参加ください。
龍谷犯罪学セミナー(Ryukoku Criminology in English)【>>実施詳細】