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2018.12.03

第5回「CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会」を開催

多様な視点からアプローチする「龍谷・犯罪学」

2018年11月20日、龍谷大学 犯罪学研究センターは第5回「CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会」を、本学深草学舎 至心館1階で開催し、約15名の方が参加しました。
【イベント概要>>】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-2720.html

今回の研究会では、中村有利子氏(「法教育・法情報」ユニットメンバー / 法学部教務課 (法科大学院修了生支援室)ローライブラリアン)、井上善幸教授(「矯正宗教学」ユニット長 / 法学部・教授)の2名による報告が行われました。



研究会の前半では、中村有利子氏による「法教育・法情報ユニットの研究進捗状況について」と題した研究報告が行われました。法教育は、法学教育(大学等での法学部学生への教育)とは異なり、法にかかわる幅広い知識・情報を一般市民向けに伝える教育です。本ユニットは、2001年に設立した龍谷大学法情報研究会の活動を引き継ぎ、法情報の研究と活用、市民向け法教育の普及、法情報・法教育に関心を持つ研究者等のネットワーク構築を目指して研究活動が行われています。


中村有利子氏(「法教育・法情報」ユニットメンバー / 法学部教務課 (法科大学院修了生支援室)ローライブラリアン)

中村有利子氏(「法教育・法情報」ユニットメンバー / 法学部教務課 (法科大学院修了生支援室)ローライブラリアン)


まず昨年2017年度の活動概要として、計5回の「法情報研究会」を開催したことが報告されました。研究会では法情報、法教育にかかわる講師を幅広く招聘し、新しい情報をキャッチアップしつつ、研究をブラッシュアップする場になっており、様々なバックグラウンドをもつ参加者が毎回20名弱、参加されるとのことでした。また、「法教育無料出張授業」を開催したことも報告されました。これまでは社会科の科目の中で行われていた法教育を、国語科目のなかで行うことに特徴があります。高校生模擬裁判選手権(主催:日本弁護士連合会)の常勝校・京都教育大学付属高校の国語科で指導をしていた札埜和男准教授(岡山理科大学教育学部)が授業を担当しています。ここでは模擬裁判授業に関わる教員・生徒への指導、法教育全版に関わる教員・生徒へのディープアクティブ・ラーニング指導、高校生模擬裁判選手権の指導法などを主に行ったそうです。東京、千葉、京都、岡山、岐阜の7つの高校で授業を行ったことが報告されました。さらに「法教育フェスタ」と題した、「オモシロ」くて「オイシ」くて「楽しい」授業を熊本大学で行ったことが報告されました。犯罪とはなにか、刑事手続きとはどういうものか、また模擬裁判の授業の方法などの講義の後、実際に模擬裁判を体験するという企画を行ったとのことでした。
つぎに2018年度の活動概要として、2回の法情報公開研究会を開催したことが報告されました。また昨年度に引き続いて「法教育無料出張授業」を千葉東高校で行ったことが報告されました。今後は「法情報研究会」「法教育無料出張授業」を継続しつつ、2019年度には法教育フェスタを実施することを予定しているとのことです。こうした研究活動を通して、様々な協力者との研究・実践を継続し、法情報・法教育の発展に寄与することを目指している、との報告でした。


井上善幸教授(「矯正宗教学」ユニット長 / 法学部・教授)

井上善幸教授(「矯正宗教学」ユニット長 / 法学部・教授)


研究会の後半では、井上善幸教授による「矯正宗教学ユニットの研究進捗状況について」と題した研究報告が行われました。宗教教誨とは、刑事施設において各宗教の教義に基づいて健全な人格の形成に寄与することです。本ユニットでは宗教教誨の周知に向けた基礎的研究を行うことを目的としています。2018年1月現在、教誨師は1846人おり、仏教系、キリスト教系、神道系などの宗教教誨が行われています。教誨師の大部分を占めるのは仏教系の教誨師ですが、宗派でみると半数以上が浄土系でその半分近くが本願寺派の教誨師であるとのことです。2017年度は『教誨百年』『浄土真宗本願寺派:教誨師必携』などの文献調査を行い、2018年度は教誨師への聞き取り調査、他宗派・他宗教の取り組みに関する事例調査を行い、そうした研究成果の公開のための研究会を開催予定であることが報告されました。そしてこうした研究活動のなかから、「浄土真宗の教誨活動における人間観の変化」という新たな課題が見いだされたことが報告されました。

龍谷大学の建学の精神は「浄土真宗の精神」であり、「人はめぐりあわせや出会いで変わる」「人は誰もがどのように変わるかわからない」という親鸞の人間観の視点から教誨活動について考える必要があります。環境や経験の影響、つまり、めぐりあわせによって、どんな人でも罪を犯す可能性はあります。罪を犯した人とそうではない人には本質的な差はなく、また罪を犯した人も変わりうるのだから再び罪を犯さないよう、社会が迎え入れる必要がある、というのが浄土真宗における人間観に基づいた教誨活動でしょう。ところが、宗教教誨が開始された当初はそうではありませんでした。1908(明治41)年の監獄法では「受刑者には教誨を施す可し」と規定され、受刑者への教誨が強制的に行われていました。これは、大日本帝国憲法での信教の自由が、あくまで「安寧秩序を妨げず及び臣民たるの義務に背かざる限りにおいて」認められるもので、罪を犯した人は除外されていたためです。小河原次郎『監獄学』をみてもわかるように、「正しい信仰を持つものは罪を犯さない」という理念で宗教教誨が行われ、その教誨活動を実質的に担ったのは東西本願寺教団でした。なぜ、親鸞の人間観とは異なる理念での宗教教誨が行われたのでしょうか。それには近世後期~近代にかけて真宗教団が担った課題が関係しています。当時の幕藩体制における封建的階級関係の維持と強化という教団外部の事情に加え、18~19世紀に起こった教団内部の教学論争の影響などから、正しく秩序を守ることという論調が教団内部でも支配的となり、「正しい信心を得れば罪を犯さない」という理念が教義化されていきました。
今後は、こうした理念がその後、どのような経緯によって現在の理念に変化したのか、また宗教教誨の背景となる「罪」に関する認識がどのように変化したのか、さらなる検討を行う必要があるとのことでした。報告後は、教誨師への就任方法や臨床宗教師という新たな取り組みに関する議論が行われ、大変有意義な報告会となりました。

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「CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会」は、犯罪学研究センターに関わる研究者間の情報共有はもとより、その最新の研究活動について、学内の研究員・学生などさまざまな方に知っていただく機会として、公開スタイルで開催しています。

今後もおおよそ月1回のペースで開催し、「龍谷・犯罪学」に関する活発な情報交換の場を設けていきます。
次回予定が決定しだい「CrimRC(犯罪学研究センター)」HP上でご案内します。