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2019.08.02

2019年度 第1回ハラスメントに関する研修会を開催【犯罪学研究センター】

知っておきたい 性の多様性とハラスメント

2019年7月10日、本学深草キャンパス 和顔館B102で「2019年度第1回ハラスメント防止に関する研修会」が開催されました。本研修会は、学生、職員、本学に関わるすべての人々が、人権を尊重し、相互に信頼し、快適に学び働くことができる環境を維持向上することを目指して行われているものです。

今回の研修会は、龍谷大学ハラスメント問題委員会主催、人権問題研究委員会、犯罪学研究センター共催で企画し、関連企画としてドキュメンタリー映画『愛と法』上映会を実施。学内に積極的な広報をかけることで、教職員のみならず学生も多数参加するものとなりました。



『愛と法』は、大阪の下町で小さな法律事務所を経営するふうふ(夫夫)を追ったドキュメンタリー映画。二人のもとには、さまざまな依頼人が訪れます。セクシュアル・マイノリティ、養護が必要な子どもたち、戸籍を持てずにいる人、「君が代不起立」で処分された先生、作品が罪に問われたアーティストなど。こうした依頼人のために東奔西走する弁護士ふうふの奮闘が日常風景とともに描かれます。
本作は、第30回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門作品賞、第42回香港国際映画 祭最優秀ドキュメンタリー賞など国際映画祭でも高く評価されたもので、全国で公開されています。
(>>上映情報は公式サイトを参照

上映後休憩を挟み、ドキュメンタリーの主役の一人である南 和行氏(弁護士・なんもり法律事務所)を講師に迎え、「LGBTなど性の多様性の問題とハラスメント —裁判で問題となった事例を中心に—」*1というテーマで講演していただき、その後、座談会の時間が設けられました。


南 和行氏(弁護士・なんもり法律事務所)

南 和行氏(弁護士・なんもり法律事務所)


講演に先立ち、石塚伸一教授(本学法学部・ハラスメント問題委員会 委員長・犯罪学研究センター長)より講師の紹介と、「昨今、LGBTという言葉が世間で広く認知されるようになった。しかし、本学では、LGBTをはじめ、性の多様性の理解が進んでいるとは言い難い。本研修会を契機に、LGBTや性に関する問題がハラスメント*2とどう関わりを持つか気付いてもらいたい」と研修会の趣旨説明が行われました。

南氏は、原告代理人の一人として関わった「一橋大学アウティング事件」*3を事例に、LGBTおよびハラスメント問題の現状について報告しました。本件は、大学側(相談を受けた教授、ハラスメント相談室の職員など)の対応が、安全配慮義務*4を満たしていたかどうかが争点となりました。
なぜアウティングが問題であるのか。第一審判決ではこの点について一切言及されませんでした。南氏は「大学側の対応も含め、『LGBT=普通ではない人』という先入観が、アウティングに対する無理解や相談者への不十分な対応に繋がったのではないか」と指摘。そして、「LGBTという言葉は、本人が性の多様性について語るには必要不可欠な言葉である。しかし、世間的にLGBTという言葉が認知された結果、言葉に対する印象が一人歩きし、当の本人への理解や抱えている問題について適切な対応が行われにくい状況になったのではないか」と疑問を呈しました。


南 和行氏の発表資料より1

南 和行氏の発表資料より1


南 和行氏の発表資料より2

南 和行氏の発表資料より2

南氏は「ハラスメントがあったと相談された場合には、まず何があったのか事実を把握する姿勢が肝要だ。性の多様性、ハラスメントを汲み取るうえで大切なことは、自分とは違う、自分には到底理解できない問題だと決めつけないことである。自分自身に置き換えることが難しい問題でも、当事者がどんなことで悩み、傷ついているか立ち止まって考えていただきたい」と述べ、発表を終えました。

南氏の発表を受けて、石塚教授は「経験がないこと、知らないことを自分のことに置き換えて考えることが困難な場合もある。そこで、当事者の問題解決に向けたネットワークを構築することを意識したい。相談を受けた側も問題を抱え込まず、その問題に詳しい知識人、専門家に相談することが必要。本学においても、職場の同僚や上司、友人に相談できる環境づくりが、性の多様性、ハラスメントの理解につながっていく」と本研修会を総括しました。


石塚伸一教授(本学法学部・ハラスメント問題委員会 委員長・犯罪学研究センター長)

石塚伸一教授(本学法学部・ハラスメント問題委員会 委員長・犯罪学研究センター長)

研修会終了後、南氏を囲み、座談会が行われました。座談会では、龍谷大学におけるハラスメント相談および、ジェンダー・セクシュアリティ相談(2019年5月開設)の活動状況を中心に意見交換が行われました。相談室に持ち込まれる事例は、相談者の周囲の状況が深刻化していることが少なくありません。人間関係の修復など、解決に向けてとるべき方法の選択に苦慮している旨、担当職員から報告がありました。他に、セクハラ・LGBTに関する問題処理の知見を学内でどのように共有するのか。相談室になかなか来られない、他の人に相談できず一人で悩んでいるという人に向けて、相談しやすい環境を作るにはどうすれば良いか、といったことが話し合われました。
>>Link: ハラスメントに関する相談
>>Link: ジェンダー・セクシュアリティ相談の開設


本研修会を通じて、相談者だけでなく対応する相談員や周囲の教職員・学生などの支援者が、双方ともに孤立する状況をいかに無くすか、「一人で抱え込まない、抱え込ませない」という原点を振り返ることができ、大変有意義なものとなりました。

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【補注】
*1「LGBT」:
Lesbian(レズビアン、女性の同性愛者)、Gay(ゲイ、男性の同性愛者)、Bisexual(バイセクシャル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性別越境者)の頭文字をとった言葉。

*2「ハラスメント」:
教育、研究及び学習並びに就労に関連して、行為者の意図にかかわらず、相手方に不利益や損害を与え、若しくは個人の尊厳又は人格を侵害する行為。

*3「一橋大学アウティング事件」:
2015年4月に一橋大学法科大学院において、同性愛の恋愛感情を告白した相手による暴露(アウティング)をきっかけとして、男子学生A(当時25歳)が投身自殺したとされる事件。第一審で、東京地裁は遺族側の訴えを棄却した。
- アウティング(英語: Outing)とは、本人の了解を得ずに、公にしていない性的指向や性同一性障害等の秘密を暴露する行動のこと。
【>>関連記事】
東京新聞 <アウティングなき社会へ>(上)同性愛暴露され心に傷 転落死の男子学生「友人関係、苦しい」


*4「安全配慮義務」:
時と場合の事情に応じて、相互に相手方の信頼を裏切らないよう行動すべきであるという法原則(信義誠実の原則:信義則)を根拠にしている義務。
今回の一橋大学アウティング事件の場合、大学側は生徒の「生命及び健康等(メンタルな面の安全や健康も含まれる)を危険から保護するよう配慮すべき義務」を履行していたかどうか、が問題となった。