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2020.12.23

【新型コロナ現象について語る犯罪学者のフォーラム】11/30オンライン・フォーラム実施レポート

「新型コロナと学生支援」をテーマにオンライン・フォーラムを実施

2020年11月30日、龍谷大学犯罪学研究センターは第24回「CrimRC(犯罪学研究センター)研究会」をオンライン上で開催し、35名が参加した。
【イベント概要>>】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-6460.html

犯罪学研究センターは、2020年4月下旬より、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19、以下新型コロナ)の拡大によって浮き彫りとなった個人と国家の関係や、ウィズ・コロナ時代における社会の在り方について、犯罪学の視点から考えるフォーラムをWEB上で立ち上げ、情報発信を行ってきた。

【特集ページ】新型コロナ現象について語る犯罪学者のフォーラム
https://sites.google.com/view/crimrc-covid19/



趣旨説明
石塚 伸一 教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)
犯罪学研究センターは新型コロナの状況下で「犯罪学は何ができるか」を考えてきた。犯罪学と新型コロナは無関係だと思われがちだが、学問というのは今まで蓄積してきた知見を様々な状況の中でどのように活用するのか、適応するのかが問われる。そこでフォーラムという発信の場を設けた。今回は『新型コロナ現象と学生支援』をテーマに、大学運営者の視点ではなく学生の視点に立ち、何を求められているかを感知し、具体的な行動をしている深尾先生、津富先生にお話を伺いたい。


本研究会の参加者に対する事前アンケートの結果、「現在、大学生は何に困っているのか?」や「大学・教員は新型コロナをどのように受けとめているのか?」という点に関心が集まっていることがわかった。そこで、下記の流れでインタビュー形式(司会:西本)で行った。
 1. 静岡県立大学・龍谷大学の学生支援活動に関する状況確認
 2. 学生支援を通じて見えてきた課題
 3. 今後の展望・社会における大学の役割について



登壇者紹介・各大学での学生支援の概況


深尾 昌峰 教授(龍谷大学・政策学部/ 学長補佐)

深尾 昌峰 教授(龍谷大学・政策学部/ 学長補佐)


津富 宏 教授(静岡県立大学・国際関係学部/ 学生部副部長兼キャリア支援センター長)

津富 宏 教授(静岡県立大学・国際関係学部/ 学生部副部長兼キャリア支援センター長)

・深尾 昌峰 教授(龍谷大学・政策学部/ 学長補佐)
龍谷大学政策学部にて、非営利組織やローカルファイナンスについて研究・教育を行う。
特に「地域を守るためのお金の流れ」という社会課題に実務型教員として取り組み、フィールドワークを通じて皆で社会を支えていく手法をデザインし、持続性を高めるための仕組み作りを地域の方々と進めている。
4月の緊急事態宣言発令後、Twitter等で学生たちを取り巻く大変な状況が垣間見られたことから、実際に一人暮らしの学生に尋ねると悲劇的な状況が身近にあることに気付き、教職員に呼びかけて「学生応援方策検討ワーキンググループ」を作ることを提案。学長補佐・学生支援特別推進室 室長として、5/2から一人暮らしの学生を対象に食料を提供する緊急支援措置を実施。学生全体に関わる支援は大学予算を基に、対象者を絞った食支援活動は大学の責任のもとに設置した「学生支援募金」を財源として展開。他にも新入生が大学に親しめるようなオンライン・イベント「Ryukoku Online Start-up Week(ROSW)」を5/9から1週間に渡って実施した。
【>>参考】龍谷大学 新型コロナウイルス感染症対応 学生応援特設サイト

津富 宏 教授(静岡県立大学・国際関係学部/ 学生部副部長兼キャリア支援センター長)
法務省など各機関での勤務経験を基に、犯罪学者として活動。犯罪学(犯罪防止)における科学的エビデンスの構築と共有を目的として、2000年に国際研究プロジェクトとして始まった「キャンベル共同計画(Campbell Collaboration: C2)」に参画し、日本語版ライブラリーの創設に携わる。
静岡県立大学での教務やキャリア支援活動の他にNPO活動にも精力的に携わり、少年院出院者らの自立や社会復帰を支える活動(就労支援・困窮者支援)を行っている。その延長線として、現在はコロナ禍における学生支援を在学生と共に行う。支援にあたって「社会的困窮」を問題視し、メンタルの調子が悪い学生が孤立してしまうことに強い危機感を抱く。
静岡県立大学で展開している「たべものカフェ」は、週に1回、食料を配布し、上級生と話をする緊急支援プロジェクト。コロナ禍で食費を切りつめたり、交流を断ったりする学生を支援する目的で開催されており、傷みにくい食料(と商品券・食券)の配布をしつつ、学生同士の交流を通じて困りごとの相談を受け付けている。運営側の学生がヒアリングスタッフとして聞き取り、ヒアリングシートで面談記録を取る仕組みを構築。ヒアリングを通して、個別の支援が必要とされる学生には公式LINEでつながってもらい、アルバイトの紹介をしたり、教員やNPOにつないだりと、複合的なサポートを行っている。
【>>参考News】静岡県立大学 コロナ禍をのりこえるための学生支援「たべものカフェ」を実施

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前期・後期で変化する学生の状況、学生間の分断

西本:深尾先生、現在の龍谷大学の様子はいかがでしょうか。

深尾:オンライン授業と対面授業が混在しています。教室の関係もあって100人以上の講義に関しては原則オンラインで、それ以外の演習や少人数科目に関しては基本対面になっています。1年生は週2〜3日登校している状況です。学生の中には本人や家族に基礎疾患がある方もいるので、「少人数の科目であってもオンラインで受けたい」といった希望もあります。秋以降、(新型コロナへの警戒という意味での)社会的なゆるみが指摘されていますが、そうした中で前期のように完全オンライン授業ではなく、後期に対面授業が始まったがゆえに悩みを抱えている学生が増えているように感じています。これまでは誰もが「コロナだからしょうがないよね」といって対処できていたのが、自分に刃を向けざるを得ないというか、自分は色んな事がやれる/やれないと、他者と自分を比べて追い詰めるようになったのでしょうか。そうした心の問題が出始めているようです。学生たちの様子は刻々と変わってきているので、この点について皆さんとディスカッションできればと思います。

西本:津富先生、静岡県立大学の様子はいかがでしょうか。

津富:学生をとりまく状況が似ているなと思いつつ伺っていました。現在、静岡県立大学でも対面・非対面両方の授業が混在して行われています。私がゆるんでいるなと思うのは、大学側の感覚です。このところ新型コロナ第3波が静岡にも及んでおり、県内の新規感染者数の日別最多数を立て続けに更新するようになってきたにも関わらず、大学は対面授業を継続しています。学生から「この大学は対面授業をやめないんですか?」と聞かれることもありますが、そうした不安に大学側は全然応えていないと感じます。
学生については、バイト収入が減少しているようで、学期末まで学費や生活費がもつのか心配です。夏休みあけからしばらくはバイト収入が以前の水準まで戻ってきたようでホッとしている様子だったのですが、それが第3波によってまた緊張感が増してきたように感じます。さらに就活生については、再び緊急事態宣言下のような状況になると活動が止まるので、この時期に内定が出ていないとパニックになるのではないかと思います。
今春の緊急事態宣言下の振り返りでいうと、全面オフキャンパスになったので、いわゆる学校(キャンパス)開放運動みたいなのが全国で行われたと思うんです。どちらかというとアクティブな学生たちの運動が目立ったと思うんですね。それがメディア等で「学生の声」のように捉えられた一方で、実際にはキャンパスに来たくない学生(オンライン授業が良い学生)も多く、結果として、学生間の分断が進んだなというのが僕の感覚です。
第3波の中でどう対処したらいいのか。実施については未定ですが、学生調査を通じて学生の声をちゃんと掘り起こして、考えていかないと難しいなと思っています。

大学を構成する教職員、そして学生が主体の学生支援

西本:どのようなメンバーによって学生の支援活動が行われたのでしょうか。メンバーを募る際の苦労話、また教職員の反応はどのようなものでしたか?

津富:静岡県立大学では学生が主体で、2つのグループが協力して活動を実施しています。1つは今年度立ち上げた「学生ボランティアセンター」のメンバーで、食料配布などを担ってくれています。もう1つは「学生によるヒアリングチーム」です。このチームはゼミ生の一人がリーダーを務めており、今日のフォーラムにも参加しています。以前から、私のNPO活動に携わっている学生が複数いて、就労支援のボランティアをしています。そうした学生たちが集って、ヒアリングのグループを担っているのです。
運営上の苦労はもちろんありますが、学生同士でシフトを組むので、むしろ学生側の苦労が大きいかと思います。夏休み中は良かったものの、後期に対面授業が始まってからは授業の教室に行く必要性が出てきてシフトが組みにくくなっているようです。また、教職員の反応が薄いなと思います。声をかけてくれる教職員はごくわずかでした。こちらから訴えかけていかなければと思っています。

深尾:僕の場合、最初に教員と事務職員の数名に問題意識を共有しながら声をかけました。事務職員でも、特に学生の相談窓口になっている方々の中には強い危機感を持つ方がいて、そうしたメンバーでチームを組みました。それを大学の正式なチームとして決定いただいて、「学生応援方策検討ワーキンググループ」になりました。その後、より取り組みがスムーズに進むようにと学長補佐に任命されました。なぜ学長補佐の立場が必要なのか。津富先生のお話と一緒で、議論の過程で「本来この仕事をやるのはどこだ?」という話になるんですよね。そうすると学生部という日常的に学生支援をしている部署に焦点があたるのです。ただ、学生部は奨学金の対応や大学オフィシャルの様々な学生支援策を練る作業で忙殺されていたので、やっぱりゲリラチームが必要だと痛感しました。社会全体が緊急事態なのですから、1点突破して、どんどんやっていかないといけないと感じたのは、学生の危機がそこにあったからです。何事も動かないと変わらないと思い、学内の部署を繋いだり、部署間の壁を突破したりという学生補佐の立場にあえて就く選択をしました。
後にその役割の一部は学生にシフトしていくのですが、5月の食支援の開始当初はキャンパスを閉じていたので、食料を仕分けたり配布する仕事を教職員の皆さんに呼びかけてボランティアでやってもらいました。(移動が制限されている状況もあって)同じ教職員が何回も担当するような状態で、全体として応援してもらっている感があったものの、実際に体を動かせた教職員は全体から見ると少なかったかなと思います。ただ、ゴールデンウィーク中に作業が立て込んだので、管理職の有志たちが休暇をほぼ返上して「学生のためだ」と言ってジャージ姿でお米を仕分けしてくれたり、学長がお米を黙々と計量されておられるような姿もあって…。学生を大事にしようとする皆さんの姿は、とても心に残るものでした。

西本:関連して確認したいのですが、これまでの支援活動において、学生はボランティアとして、無償で手伝ってくれているのでしょうか?

津富:うちはリーダーだけ有償にしています。差がつくことは問題かもしれませんが、比較的生活が苦しい子、もしくは時間に余裕のある子にリーダーになってもらう、というやり方をしています。

深尾:龍谷大学は、支援の担い手を教職員から学生に移行した段階から、すべての業務を有償化しました。要は社会全体でバイト切りのような状態があったので、大学の支援に関する業務を「スチューデントジョブ」として、困窮している学生を雇用しようという提案をし、業務に応じた賃金を支払うことになりました。それも月払いだと生活費が逼迫した学生の助けにならないので、日払いできるように議論を重ねて決定しました。
折しもバイト切りで多くの学生が困っていた時期で「スチューデントジョブ」を希望する学生の申込が殺到したのですが、エントリー時に「今どういう状況か」を書いてもらい、緊急度の高い学生から順に採用しました。

津富:補足すると、私は静岡県立大学に対して、学生の雇用について何度も要求しましたが、「そういう財源はないので難しい。また緊急支援プロジェクトで直接募金を受けてはいけない」という方針です。なかなか厳しいですね。

深尾:龍谷大学も通常でしたらそうした対応だったと思いますが、教職員、保護者会、同窓会がかなりの募金をしてくれたこともあって、その財源を裏打ちにして「スチューデントジョブ」の仕組みができたのです。

支援を通じて思うこと、そして課題

西本:「支援をしてよかった」「支援の効果が感じられた」ようなエピソード、もしくは逆に「うまくいかなかった」という反省点はありますか。

津富:僕が実施した最初のアプローチは学生アンケートで、「相談がありますか?」と聞いて、個別の連絡先を書いてくれた学生に対してコンタクトをとるやり方でした。しかし、リアクション率が低かったのです。一方「たべものカフェ」をやったら、数十人が集まって来るわけです。顔を見て直接会えるのでうまくいくことが分かりました。カフェの中で自然とヒアリングができるので、学生同士がつながれる率が高くなったし、困っている子に対して個別に支援ができる仕組みになったようです。しかし、この仕組みだけでは完全に孤立した子にはつながっていないので、いまだにどうしたらいいかわかりませんが、アウトリーチまでやる余力がありません。ただ、既に後期の授業に出席できていない学生などはデータベースで把握できているわけですから、それをどのように解決しようかなと考えています。

深尾:アンケートを通じて学生からのフィードバックを受けてきましたが、初期は学生支援をやってよかったなと思えるような感想がどんどん届いていました。ある学生はカップラーメンとかしか食べておらず、それさえも段々と喉を通らなくなっていたようです。そこで、我々もできるだけ新鮮な野菜を届けられるように工夫をして配布しました。そうすると、そういう学生が角を曲がったところでキュウリやトマトにむしゃぶりついて食べていて…「今って、令和だよな」と思うような光景を見て衝撃を受けました。アンケートでは、そうしたエピソードを学生本人も書いてくれていますが、僕ら自身も「(孤立する学生を)このまま放っておいたらだめだ」と強く思いました。また、特に1回生・留学生に多いコメントとして「縁もゆかりもない地域にポンと来たばかりで緊急事態になり、人と会う機会が減って、話す人もいないし友達もいないし、どこに買い物に行っていいかもわからないような状況で、大学で食料を受け取る時にかけてもらった言葉が嬉しかった」というものがありましたし、食料支援を受けた大部分の学生がフィードバックをしてくれていて、勇気づけられました。
うまくいかなかった点は津富先生と一緒です。刻々と状況が変わる中で、正直なところ学生たちが見えないし分からないし、今、何に困っているのかをどう把握していくかということです。龍谷大学には約2万人の学生がいますので、どのように状況を把握し対応するのかといった戦略を誰も持ち得ていないのです。考え続けてやれることをやろうと思いますが、局面の変化が激しいので、津富先生がおっしゃるように再びバイトが切られる学生が出始めてきて緊張感に包まれているというのは僕自身も学生たちとの会話で感じています。そういう風に変化していく状況に大学全体がついていけていないし、わかろうとする努力を全体でできていないのが非常に大きな課題だと思います。


対談のようす

対談のようす


学生支援は一時的のものなのか、継続的に行うためには?

西本:「支援につながらない、自分で抱え込んでしまっている学生の存在」が挙げられました。また、「学生が一体何に困っているのかが見えてこない、大学全体でどのようにニーズを把握し対応するのかの戦略を持ち得ていない」という課題も挙げられましたが、これまで行われてきた学生支援を一時的のものとしてしまってよいのでしょうか。新型コロナの第3波到来などを憂慮すると何らかの継続的な支援のニーズを感じますが、継続的な支援には、一体どのようなことが必要となってくるのでしょうか。

深尾:当然一時的なもので済ませてよいものではないですし、今も苦しみ続けている学生たちがいます。もっと言えば、僕は教職員への支援も大事だと思っていて、学生を支える、学びを支える教職員の皆さんも支援していくというか、皆で支え合うようなことをしないと、全部が自己責任で済まされている面があって問題だと思います。繰り返しにはなりますが、第3波の影響も含めて、大学をとりまく社会のフェーズが常に変わっていってるのですよね。
僕の所属する政策学部では、現在PCR検査を実施しています。これはフィールドワークとか現場に出ることが僕ら政策学部にとって学びの根幹で、色んな他者とコミュニケーションをとって成長するということがカリキュラム上に位置づけられているので、「今のような状況の中で外に出るな」と言ってしまうと、政策学部の学びが十分に実現できません。そこで、同僚の教員たちと「フィールド・地域に安心して出るためにはどうすれば?」と話し合い、「まずはPCR検査だけでもやろう」と始めました。当初は大学全体でやるべきだと思っていたんですが、財源的な問題が当然ありますし、マンパワーの問題もあります。しかしながら、「各大学の努力でどうにかしなさい」ということでは、コロナ禍が長期化するほどにどの大学も苦境に陥るのではないでしょうか。
コロナ禍における社会のフェーズが変化し続ける中で、大学として対応すべきことも変化していきます。そうした状況下で「もっと面で取り組むにはどうすればよいのか?」という課題意識を持っています。

津富:継続的な学生支援が必要なのは明らかで、むしろ、今回の学生支援だけが必要であるということではありません。もともと社会の中に脆弱な方々が相当数いたという事実を、新型コロナがあぶり出したのだと思います。これは犯罪学的にも同じことが言えるでしょう。小中高と比べて、大学は学生支援がそもそも脆弱なんだなと思います。
学内での問題提起として、今回お話したような学生支援活動の取り組み等を発表させていただく機会を一度作ったのですが、そこで僕が学長をはじめ聴講者に伝えたのは「大学にもスクールソーシャルワーカーが必要」ということです。大学に一定数のスクールソーシャルワーカーが配置されていると、もっと色んな動きができるんじゃないかと思うのです。学生の生活支援もできますし、メンタルヘルスの相談を含めて個人の状況を把握した上でアウトリーチをかけるとか色んなことができます。私にとっては、今回の活動の原点、モデルは、生活困窮者の自立支援事業にあります。現在の状況は、相談を受けている事業者であってもアウトリーチの対象に入っています。こういう仕組みを大学が持っていないと、支援から見落とされて、学費が続かなくなって辞める学生が後をたたなくなるでしょう。そうした学生に対して「仕方ない、お家が大変なんだね」となかば放置してきたのを、「大学として何ができるか」と意識を変えていくことが大事です。
また、学生の家庭内でも問題が起きているのです。例えば実家生の中に「コロナに感染されたら家族が困るからバイトに出るな」と言われてステイホームを強いられるなど、家族間のストレスが強い家庭があって、こういう家庭の問題に介入しうる力のあるスタッフを大学は持っていないと実感しました。大学は学生が自立していく場として想定されているから、基本的には学生自身の問題として処理されてきたと思うのですが、そういう前提を捨てる必要があるのかもしれません。

教職員から見たコロナ禍、コロナ格差。学びの構造を支えるための支援

西本:学生側の話が続きましたが、深尾先生から「教職員に対する支援も必要ではないか」という興味深いご発言がありました。教職員から見たコロナ禍についてもう少し掘り下げたいと思います。私の周りで聞く話では、コロナ禍における非常勤や期限付き雇用の方の苦境や、正規の方との待遇格差といった問題があるようです。大学教職員のリスク、また大学全体で共有しているリスクについて、いかがお考えでしょうか。

津富:非正規の方のことは本当におっしゃる通りです。私は静岡県立大学の正規職の他に、非常勤先がいくつかあって、オンライン授業の個別対応がものすごく大変でした。非常勤にとっては、各大学からの情報がもともと不足している上に、今回は、各大学も精一杯の状態でやっているので、オンライン授業の仕組みがどうなるのかという情報の伝達が後手後手になってくる。先方の担当者が一生懸命やってくださっているのはわかるのでこちらも質問がはばかられる、そうすると今度は学生さんの方から苦情が来る、という悪循環に陥ったこともありました。前期は授業の対応で、僕自身も学生も疲弊していたというのが事実です。複数の大学で非常勤講師をされている方は各大学のシステムに対応するだけでものすごく大変だし、もちろん収入の問題もあったと思います。
また、オンライン授業の対応にかけられるお金の問題もあると思います。僕は50万円ほど投資して設備やシステムを整えました。そういう投資をされている方は沢山いるんじゃないかと思うんです。正規の教員はある程度余裕をもって対応が出来ていると思うんですけど、そういうことも非正規の方にはサポートがなかったようで、大変申し訳ないけれど本当にご苦労されたと思います。ただ、今話したのはオンライン授業のやり方に関する話で、教員のメンタルヘルスにはほとんど手が回っていません。教員自体が登校していないので、教員間でコミュニケーションをとる機会もなく、夏休みが始まった途端に消耗しきって倒れている感じになっている方が沢山いました。「本当に参ったな」と思っていた方も沢山いると思いますね。

深尾:まさしく同じで、先ほどの日本の社会構造をあぶり出したという意味では、大学の経営の状況、どうやって大学が成り立っているかを改めて見せつけられた部分があると思います。まさしく非正規雇用の教職員に依存していることをまざまざと見せつけられているわけです。この構造を考え直さなきゃいけないよねということは、多くの大学人が気づいたはずだし、非正規雇用の方たちの対応を真剣に考えなければならないのではないでしょうか。
これまで「教職員のメンタルヘルスにも踏み込まないとダメなんじゃないか」という提起を何回かしました。僕自身オンライン授業をしてても気が乗らないし画面に向かっていくら語っても…みたいな部分があるんですよね。ただ一方で、Zoomで少人数がつながっている時は距離が近くて、学生たちも発言がしやすいようでした。確かにオンラインの利点はありますが、オンライン授業だけの時期は、教育に携わる者としてやはり少し凹んだし、メンタルが不安定になった部分があると思うんですよね。
僕も学生たちにあえてこういう言い方で聞いたことがあります。「オンラインでひどい授業って何?」と尋ねたら、挙がってくるのは非常勤の先生方の授業が多いんですよね。例を挙げると、授業を一切配信していないとか、課題だけ解きなさいとか、ドリルの提示みたいになっているようなんです。非常勤の先生方が置かれた背景をちゃんと見なければ理由はわかりません。そうせざるを得なかった状況とか、そういう対応しかできなかった環境とか、津富先生がおっしゃったように各大学で異なるやり方に対応しなきゃいけないとか、設備を揃えるような経済的余力もないなかで…という現実がそこにあるのかもしれません。そういった文脈で先ほど申し上げた教職員の支援は、結果として学生につながっていくのではないでしょうか。コロナ禍が長期化するのであれば、大学にとってはそれ自体が当然リスクですし、学生にとって「つまらない授業しか受けられなかった」という事態こそが最大のリスクなのです。だからこそ、職員のメンタルヘルスといった「学びの根幹、構造を支えるような支援」も大事なのではないかと思っています。

西本:津富先生・深尾先生方から支援の展望を示していただきました。やはりコロナ禍にどう対応するかという短絡的な視点ではなく、もう一歩進んで大学というものを根本的に考え直さないといけないのではないかということが課題として浮かび上がったと思います。
ここからはフリーディスカッションに移り、石塚伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)をパネリストに加え、参加者から質問や意見をいただきたいと思います。

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【フリーディスカッション】
学生支援から見えてきた大学の役割


本林智都さん(静岡県立大学・国際関係学部4年)

本林智都さん(静岡県立大学・国際関係学部4年)

【感想:静岡県立大学ヒアリングスタッフ責任者】
夏休み中は友達ができない学生さんとご飯に行っていたが、後期になって「たべものカフェ」に来ている子同士で友達になり、一緒に喋ったりご飯を食べたりしている姿を見て、とても嬉しかった。
ただ、大学側が学生支援についてどう考えているのかがわからなかった。「学生支援は大学が担う仕事ではない」と言う人もいたが、これからは「学生に対する支援」という考え方がもっとできたらいいのではないか。

深尾:
学生支援から見えてきた大学の役割という点から言うと、社会全体を見渡す余力、社会変革のハブになっていくような役割が大事。学生支援から見えてきたことを地域社会に展開していく役割が必要なのではないか。しかしながら、現実の社会にはフリーターと言われる10代が大勢存在していたり、お金がなくて情報獲得のためのスマートフォンが持てない若者が沢山いたりするなかで、学生支援という言い方で本当にいいのかは悩ましいところである。


深尾 昌峰 教授(龍谷大学・政策学部/ 学長補佐)

深尾 昌峰 教授(龍谷大学・政策学部/ 学長補佐)

大学組織内にも存在する雇用形態によるコロナ格差
【質問:参加者A】
非常勤の教員の皆さんの立場も気になるところだが、大学で働く多くの非正規雇用の職員も大変なのではないか。守られているのか。

【回答:石塚】
大学は学生にサービスするだけのところではなく、非正規の職員達の職場でもある。現在リモートでの仕事に移行したが、リモートでどのようにして働けばいいか指示する能力が正規職員にはない。大学には学生や正規の教職員だけではなく、非正規や社会人教育を受けに来ている人たちもいる。1回サービスを提供すると約束したならば、それを継続していかないと、向こうの気持ちを踏みにじることになるが、大学は無関心を装う。この姿勢に関しては見直す必要がある。


大学キャンパスへの入構規制措置をめぐる疑問
【質問:参加者B】
今回生活についての比重が大きかったが、そもそも新型インフルエンザ等対策特別措置法の枠組みでキャンパスへの入構を禁じる指示があった。キャンパスに入れないというのは、実際にはどの程度強制力があり、実態としてどの程度の大学が禁じたのか。大学の教員・事務職員・学生…強制の程度に差があったのではないか。

【回答:石塚】
大学の要請は措置法の枠組みから来ており直接的強制力はないが、施設管理権を行使して入構者を制限する措置を行った。龍谷大学は危機管理の委員会を作り、教員も事務職員も学生も、段階をつけて振り分けをしたが、「学生は危ないから入るなというのに職員は入れとはどういうことか」と職員からの意見もあった。それでも何とか線引きして管理側が整理し、施設管理権に基づいて行ったことであり、どの程度の強制力かといわれると、それに反して入った場合は不法侵入(住居侵入罪)にあたる。強制の程度をどうするかは問題である。


学生支援の段階、今後の戦略について
【質問:参加者C】
学生支援を考えた時、「食」が入口になっていると思うが、今後、どのような段階を踏んでいく必要があるのか。学生の立場から見ると、食以外にも、試験に関することや単位のこと、実習に関すること、メンタルの問題等も考えられるが、現段階での支援の段階的イメージがあれば伺いたい。

【回答:深尾】
就活も含め、状況が変われば必要な支援は変わっていくと思う。ただ大学側が約2万人もの学生の状況をきちんと把握するのはなかなか難しい。現在大学が「場」を作って、カフェ方式で学生が学生の悩み聞くようなシステムもあるがうまく機能していないため、今はオンライン相談の体制を学外に構築している。しかしこれも学生からするとハードルが高いのではないかと思う。一方で、従来の学生相談セクション(例:障害学生支援)のカウンセラーも手一杯であり、現行のリソースだけでの対応が難しい。戦略的にとはいうものの、大学が場当たりな対応になっているところがあり、支援の段階的イメージを描けていない点は、学生たちに申し訳なく思う。支援イメージは現実的には持てていない。

【回答:津富】
しんどい子にちゃんと手が入ることが目的で、学生たちに問診表を書いてもらっている。書いてもらうことで発見確率が高まるので書いてもらうことは大事だと思っている。またヒアリングスタッフが複数いるので、ある程度は標準化するも必要である。
ヒアリングの際に相手に呑まれてヒアリングする側の学生が潰れてしまう懸念に関しては、しっかりした子をリーダーに置き、その子が他の学生を支える形態をとっている。就労支援ボランティアをしている学生は、働けない若者とも向きあった経験値もある。心配はしているが、1人ではなくチーム体制での形をとっている。さらに、本当にしんどい子には公式LINEを通して直接私に相談できる仕組みもある。それでも、解決が難しい問題は自分が関わるNPOが動く。ヒアリング後に、法律の問題なのか心の問題なのか、福祉的支援の問題なのかを切り分けて検討を重ねて…というバックアップをしている。支援チームを構成できるかどうかは「具体的な支援のイメージを描けているか」によるもので、僕たちのチームに力があるのは普段学生が色々な活動をしてくれているからだと思う。


今回の対談をふりかえって

深尾:
津富先生が取り組まれている「学生間の相談」は僕自身様々なハードルによって達成できなかったことだ。ヒアリングには、専門性とアマチュアリズムとの対峙が如実に出てしまうからだ。ピュア性や当事者性からインテークしていくような形で、学生を信用しようという議論をしたが難しかった。今お話を伺って、日常的なトレーニングはもちろんのこと、学生を信用して任せることができるのが本当に素晴らしい。僕自身あきらめてはいないが、多様な層のメンバーと一緒にやっていかないと声が聞けないし、学生のことをわかったつもりでいる僕らが一番危険だと感じた。

津富:
うまく動くかどうかはこれからだが、スペインのタイムバンク*1に影響を受けた学生が、その実行を、ボランティアセンターを中心に始めている。様々な要望にお互いに応えるため、LINEグループを通じてひとりひとりの要望を出し合い、スプレッドシートで一覧にして整理・共有し、その対応を行ってもいい人を募るということをやっている。うまく動けば学生同士が仲良くなれるようなコミュニティができると思っている。

石塚:
大学として脆弱でやりきれていなかった部分が今回のことで顕在化した。学生部も部活やサークルについては掌握しているが、そこに所属していない子に対して今までどういう学生サービスを行えたかが問われている。ゼミ内で仲間ができている子はいても、どこのゼミも横のつながりすらできていないところもある。私の印象としては様々なチームが複層的に存在している中で1つのことを一元化してやろうとするのが良くなく、1つ1つ作っていったものが重なり合ったり接着したりして、有機的に連携する体制をどう構築していくかが次の課題ではないか。

次回は、コロナ禍における社会的セーフティネットの必要性の話題から、「コロナ禍と罪に問われた・罪をおかした高齢者・障がい者」をテーマに議論を重ねることが決定した。
※2020年12月28日(月)18:00~ オンラインで開催予定(Zoom・申込制・どなたでも参加可能)
【>>詳細・お申し込み】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-6715.html

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【補注】
*1 タイムバンク:
タイムバンクとは、個人の空いた時間・提供できるサービスを、他の人の空いた時間・提供するサービスと交換しあう相互扶助の仕組みである。ここでは自分の時間がサービスを受ける際の通貨のように扱われる。個々人は、サービスや時間の調整をする「タイムバンク事務所」に自分の空き時間と特技を登録して利用する。
(参考)
工藤律子『お金に頼らず豊かな社会をつくる「時間銀行」』(「imidas」、 オピニオン欄、2014/10/10記事)
https://imidas.jp/jijikaitai/f-40-108-14-10-g471
齋藤かおり・原啓介『タイムバンキング制度による新たな“結い社会”の仕組みづくりの実証的研究』(平成 22 年度国土政策関係研究支援事業 研究成果報告書)
https://www.mlit.go.jp/common/000140757.pdf