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2021.01.22

『日本における違法薬物統制文化〜研究成果中間報告』を開催【犯罪学研究センター】

Qソート法による実務家の価値観の検討〜研究成果中間報告

2021年1月16日、龍谷大学 犯罪学研究センター 博士研究員のディビッド・ブルースターは、研究成果中間報告をオンライン上で開催し、調査・研究関係者約20名が参加しました。
はじめに、石塚 伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)が挨拶にたち、「外国の研究者が日本の研究を行うことは、様々な困難がある。しかし、今回のような文化的背景や価値観に踏み込んだ研究は、日本の薬物政策を海外の方に知ってもらう上で貴重なプロセスになることだろう」と期待を込めてコメントしました。



つづいて、ブルースター研究員より研究プロジェクトの目的および方法、そして調査報告が行われました。近年の日本における違法薬物使用者への対応は、社会排除や厳罰に基づく対策が続く一方で、違法薬物使用者の回復に寄り添った治療や社会福祉対策を推進するという新たな動きが見られます。この変化によって、薬物政策に関わる団体や実務家も多様化しています。
ブルースター研究員は、近年変わりゆく状況下で「違法薬物使用者と関わる仕事に就く実務家たちにはどのような目標意識があるのか」「実務家の間にどのような協働や衝突があるのか」といった点に焦点をあてた研究を進めています。本研究の調査は、近畿地方にある2つの府県における刑事司法や矯正・保護、治療および社会福祉関連の組織に勤めている89名の実務家を対象に行われました。この調査には、個人の主観的な視点を測定する体系的な方法で、価値観を共有する人々のグループを識別することが可能な「Qソート法」が用いられました。参加者に64個の目標が書かれた「ステートメント」を読んでもらい、自分にとっての相対的な重要度に応じて、ランク付けをしてもらいました。これらの目標は、「犯罪と刑事司法」、「健康」、 「自律」、「サポート」、「コミュニティへの参加」、「道徳」、 「職務上の利害」、そして「サービス」というテーマに関連しています。ステートメントが置かれた位置ごとに数値があり、各参加者の数値データをもとに因子分析を行いました。


石塚 伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)

石塚 伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)


ディビッド・ブルースター(犯罪学研究センター 博士研究員)

ディビッド・ブルースター(犯罪学研究センター 博士研究員)

ブルースター研究員は、これまでのQソート法による調査結果を統計的に分析し、参加者間の類似性(相関パターン)から、主に以下の3つのグループ(因子)があるのではないかと考えています。
 1. 個人の回復を支援することに重点に置き、「福祉と健康志向」が、より強い
 2. 道徳的指導に重点を置き、「犯罪減少と治療思考」が、より強い
 3.「犯罪減少思考」であるように見えるが、プロセスに重点を置いている

ブルースター研究員は「3つのグループすべてが重要であると見なす“共通の目標”があるものの、グループ間の優先順位の違いによって、摩擦(相反する)部分も浮かび上がる。 たとえば、麻薬撲滅 対 ハームリダクション、または再犯の減少 対 個人の回復といったものだ。今までの調査結果によって明らかになった重要な点は、現代の違法薬物統制は、全員が同じ方向に進んでいるという1つの均質なシステムではなく、異なるグループが異なる目標を優先するという競合する利益を伴うということだ。このような相違点を考えると、組織間の協力および政策実施への影響について興味深い質問が想起されてくる。今後はQソート法による調査結果をより詳細に分析し、その解釈を補完するためにインタビュー調査を行う予定だ」と述べ、報告を終えました。

ディスカッションでは、「日本の役人や保護司は、役割に対して忠実な傾向があるのだと感じた」といった感想や、「日本の法学研究者による制度論研究は、法律という静的なモノサシで物事を見ようとするが、ブルースター研究員の視点は動き続ける社会をありのまま見ようとしている。多様なものを多様なまま捉えることは意義深い」と期待を寄せる声が挙がりました。

さいごにブルースター研究員は、「文化というものは1つの概念ではなく多様性があり、常に変化している。その複雑さを解明していきたい」と今後の抱負を述べ、会を締めくくりました。

※研究資金:本研究はJSPS科研費 19K13548の助成を受けたものです。

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【>>関連NEWS】
2020.10.06 広報誌「龍谷」90号にブルースター博士研究員・浜井教授が掲載【犯罪学研究センター】
https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-6277.html

【>>犯罪学CaféTalk】
2020.06.05 ディビッド・ブルースター(David Brewster)氏 (犯罪学研究センター・博士研究員)
https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-5672.html