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2021.07.13

アジア犯罪学会(ACS2020)基調講演レポート_Prof. Lorraine Mazerolle【犯罪学研究センター】

新型コロナウイルスのパンデミック期の公衆衛生規制における警察活動:法の支配の維持と住民保護に直面して手続き的公正の果たすべき役割

龍谷大学がホスト校となり、2021年6月18日(金)〜21日(月)の4日間にわたり国際学会「アジア犯罪学会 第12回年次大会(Asian Criminological Society 12th Annual Conference, 通称: ACS2020)」*をオンラインで開催しました。2014年の大阪大会に次いで国内では2回目の開催となる今大会では、アジア・オセアニア地域における犯罪学の興隆と、米国・欧州などの犯罪学の先進地域との学術交流を目的としています。
大会の全体テーマには『アジア文化における罪と罰:犯罪学における伝統と進取の精神(Crime and Punishment under Asian Cultures: Tradition and Innovation in Criminology)』を掲げ、「世界で最も犯罪の少ない国」といわれる日本の犯罪・非行対策と社会制度・文化に対する理解を広めることを目指しました。
【>>関連ニュース】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-8690.html

LIVEで行われた本大会の基調講演(Keynote Session with Q&A Session)の概要を紹介します。

[KY03] COVID-19(新型コロナウイルス)のパンデミック期の公衆衛生規制における警察活動:法の支配の維持と住民保護に直面して手続き的公正の果たすべき役割
(Policing Health Regulations during the COVID-19 Pandemic: The Role of Procedural Justice Encounters in Maintaining the Rule of Law and Protecting the Population)

〔講演者〕ロレイン・マッツェロール(クイーンズランド大学 犯罪学部 教授,オーストラリア)
Lorraine Mazerolle (Professor of Criminology, University of Queensland, Australia)
〔司 会〕上田 光明(同志社大学 高等研究教育院 准教授)
Mitsuaki Ueda (Associate Professor, Institute for Advanced Research and Education, Doshisha University, Japan)
〔日 時〕2021年6月20日(日) 9:00-10:30
〔キーワード〕
新型コロナウイルス(COVID-19 pandemic), 手続き的公正(Procedural justice),警察の正当性(Police legitimacy), 住民の信頼(Public confidence)、オーストラリア



ロレイン・マッツェロール(クイーンズランド大学 犯罪学部 教授,オーストラリア)

ロレイン・マッツェロール(クイーンズランド大学 犯罪学部 教授,オーストラリア)

〔報告要旨〕
Covid-19(新型コロナウイルス)のパンデミックが警察活動の複雑性を拡大させていることは明白である。これは新たな説明責任が問題を提起しているだけでなく、警察にさまざまな新しい責任やタスク、戦略を付与しているためである。本報告では、今やオーストラリアでは警察が執行することが当たり前になっている数多くの新しい公衆衛生規制について分析を行う。これらの規制には、レストランの入店人数制限、高齢者介護や個人宅への訪問制限、公共の場での他者との物理的距離の維持、マスク着用義務などが含まれる。手続き的に公正な警察活動をこうした新たなタスクや、国民の要求、戦略に適用することを検討する。パンデミックによって、警察が市民の私的生活に入り込むという前例のない状況が生み出され、またそれによって同時に、市民が警察の正当性を認める一連の機会も創り出されるが、それは、市民に対応する手続きが公正である場合に限られると結論づける。

【質疑応答(Q&A)要旨】

(問1)新型コロナウイルス感染拡大以降、Black Lives Matterに代表されるように、警察の公平性に関わる問題もあった中で、警察の正当性(legitimacy)は下がったのか?また、この期間中に、市民の警察に対する信頼は上がったのか、下がったのか?
(答1)オーストラリア限定の話にはなるが、警察の正当性は上がっているように思われる。オーストラリアの警察は、公衆衛生の問題について厳しい対応はとらず、地域社会と非常にうまくやっている。例えばマスク着用義務違反をしている人に対しては、取り締まる代わりにその場でマスクを配るなどし、実際に罰金を科された人は極めて少ない。また、これもオーストラリア限定の話だが、市民の警察に対する信頼が上がったことが調査研究によって示されている。

(問2)手続き的公正がどのように市民の協力を増加させるのか?
(答2)手続き的公正に基づく警察活動において最も重要な要素は、市民に発言権を与えることであると私たちの研究は明らかにしてきた。威厳と敬意をもって市民に接することや、意思決定の際に中立的な立場をとること、取り締まりの標的にされているのではないと対象者に理解させることなども同様に基本的な要素ではあるが、市民に発言権を与えるということがその根底にあるといえる。例えば、マスクをしていない人に対して、罰金の可能性を示すなどして高圧的に接するのではなく、当人に何か問題があるかどうかを尋ねるというスタンスで接することがこのことを示している。

(問3)市民の信頼の程度はグループ間によって異なるか?
(答3)いま手持ちのデータでは答えられないが、間違いなく差はあるだろう。我々が行った他の調査の結果によると、民族的背景によって有意な差が認められている。

(問4)手続き的公正(Procedural justice)、警察の正当性(Police legitimacy)、住民の信頼(Public confidence)の各概念間の因果関係の向きはどのようになっているのか?
(答4)これらの概念が相互に関連していることは明らかにされているが、どのようなメカニズムで成立しているかは不明であり、今後は時系列を考慮できる実験研究や縦断研究によって取り組むべき重要な研究課題である。しかし、だからといって警察活動を過小評価するべきではなく、警察は、威厳と敬意をもって市民に接したり、自分たちへの信頼と信用を構築したりすることで、実務を効果的に行うことができるのである。

(文責:上田 光明)

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◎本大会の成果については、犯罪学研究センターHPにおいて順次公開する予定です。
なお、ゲスト・スピーカーのAbstract(英語演題)はオフィシャルサイト内のPDFリンクを参照のこと。
ACS2020 Program https://acs2020.org/program.html


*アジア犯罪学会(Asian Criminological Society)
マカオに拠点をおくアジア犯罪学会(Asian Criminological Society)は、2009年にマカオ大学のジアンホン・リュウ (Liu, Jianhong) 教授が、中国本土、香港、台湾、オーストラリアなどの主要犯罪学・刑事政策研究者に呼びかけることによって発足しました。その使命は下記の事柄です。
①    アジア全域における犯罪学と刑事司法の研究を推進すること
②    犯罪学と刑事司法の諸分野において、研究者と実務家の協力を拡大すること
③    出版と会合により、アジアと世界の犯罪学者と刑事司法実務家のコミュニケーションを奨励すること
④    学術機関と刑事司法機関において、犯罪学と刑事司法に関する訓練と研究を促進すること
このような使命をもつアジア犯罪学会は、現在、中国・香港・マカオ・台湾・韓国・日本・オーストラリア・マレーシア・フィリピン・シンガポール・アメリカ・スイス・パキスタン・インド・スリランカなどの国・地域の会員が約300名所属しており、日本からは会長(宮澤節生・本学犯罪学研究センター客員研究員)と、理事(石塚伸一・本学法学部教授・犯罪学研究センター長)の2名が選出されています。