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2021.08.10

第26回「CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会」開催レポート【犯罪学研究センター】

多様な視点からアプローチする「龍谷・犯罪学」

2021年7月29日、犯罪学研究センターは第26回「CrimRC(犯罪学研究センター)研究会」をオンラインで開催し、研究メンバーを中心に約30名が参加しました。今回は、本学で研究活動をおこなっている3名の個人研究について報告が行われました。
【イベント概要>>】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-8810.html


牧野 雅子氏の報告資料より

■報告1
牧野 雅子 犯罪学研究センター 博士研究員(PD)
タイトル:
「治安維持とジェンダー ――駐在所制度と配偶者の役割を中心に」

〈報告〉
 警察官が家族と共に居住して業務を行う駐在所は、日本の近代警察制度の黎明期から、治安維持業務において重要な役割を担ってきた。駐在所は、地域に密着した警察活動が期待されるだけでなく、交番であれば一当務三人以上の警察官が必要であるところを、一人の警察官によって広大な所管区を賄う、経済的なシステムである。一人勤務制のデメリットは、「駐在所夫人」と呼ばれる駐在所員の配偶者が夫の業務を補佐することで補われてきた。駐在所夫人は警察職員ではなく、警察業務に「協力」している民間人という扱いであるが、管轄警察署によって管理され、駐在所家族報償金制度や駐在所家族帯同政策によって、重要な治安維持要員として制度化されている。
 警察は、採用や昇任、配置に男女差が著しい組織であり、このジェンダー格差は、治安維持業務という特殊性によって正当化されてきた。しかし、民間人である駐在所夫人が治安維持業務を担ってきた経緯は、これまで主張されてきたジェンダー格差の根拠を揺るがせる。警察組織は、正規職員として雇用する時には警察業務の特殊性をもって女性の参入を制限し、安い労働力として利用できる時には女性を積極的に活用してきた。このことは、一般の労働市場が女性を二流の労働力とみなしてきた経緯と重なるものである。

〈質疑応答〉
 質疑応答では、駐在所や家族の業務、関連分野における地域連携に関する事実確認が行われた。地域警察活動、とりわけ駐在所の業務や役割については、これまで学術研究の対象となることが少なかったため、今後、多方面からの研究が望まれる。一方、時間の制約もあり、議論を深めることが出来なった治安維持とジェンダーという主題については、論考の発表時に反映させたい。


暮井 真絵子氏の報告資料より

暮井 真絵子氏の報告資料より

■報告2
暮井 真絵子 ATA-net研究センター リサーチ・アシスタント(RA)
タイトル:
「無罪推定原則の内容と適用領域の再検討」

<報告>
 カルロス・ゴーン氏の出国を機に、国外メディアは、日本の刑事司法に無罪推定原則が存在しないと批判した。国際社会と日本では、無罪推定原則に関する理解が異なることが示唆される。本報告では、無罪推定原則の総合的研究の足がかりとして、日本の学理における無罪推定原則の理解を再整理した。また、無罪推定原則の適用範囲などを巡る議論の展開を確認した。
 まず、無罪推定原則が刑事手続全体に適用されるとする立場は、強行法規性の有無で立場が分かれる。強行法規性を否定する立場は、無罪推定原則はあくまでも理念に留まるとする。さらに、議論の立て方を巡り、無罪推定原則を演繹的に明らかにしようとする立場と、個別の論点の問題解決にあたって無罪推定原則に帰納的に依拠する立場に分かれる。
 他方、無罪推定原則は、証拠法に限って適用される原則であるとする立場もみられる。
 以上のように、日本における無罪推定原則に関する議論は、論者によって無罪推定原則の理解や適用範囲が様々である。共通の理解は、必ずしも存在しない。その結果、無罪推定原則が意味するものが抽象化され、議論に齟齬が生じているように思われる。それにも関わらず、無罪推定原則に照らして刑事手続の各論点の解釈が展開されたり、望ましい運用方法が示されたりする。個別の法解釈の根拠として無罪推定原則を挙げる見解は、無罪推定原則を重視し、原則を各手続段階に行き渡らせようという視点に立つ。しかし、その内容を明らかにしないまま、無罪推定原則に依拠するため、原則を理念として用いざるを得ないという矛盾を抱える。
 この状況を打開するためには、無罪推定原則の意味内容を明らかにする必要がある。今後の研究では、諸外国における無罪推定原則の理解を調査する。加えて、その理解に基づく法制度や政策等を検討する。同時に、刑事手続上の各種制度と無罪推定原則の関係を明らかにする。このように、演繹的手法と帰納的手法を併せ用いて、無罪推定原則の具体的な描写を試みる。

<質疑応答>
 無罪推定原則を刑事司法全体に適用する立場の中には、被疑者・被告人の権利制約を前提としつつ、比例原則の問題に収斂させるものがあるのではないかと指摘された。議論では、比例原則と無罪推定原則の関係は、無罪推定原則の独自性と関連する本質的問題であると確認された。この点は、本研究において重要な点であるため、今後の課題として引き続き検討を行う。


ハラス ドリス氏の報告資料より

ハラス ドリス氏の報告資料より

■報告3
ハラス ドリス 犯罪学研究センター リサーチ・アシスタント(RA)
タイトル:
「フランス少年司法の歴史的展開」

<報告>
 フランスにおける少年司法をめぐる議論は、1990年代に前例のない転換を迎えた。社会危機が引き起こしたナショナリズムと保守主義を背景に、フランス少年司法のあり方について世論が大きくわかれた。その結果、2000年代に入ってすぐ、厳罰化志向の改正が次々に行われた。ついには、右派は戦後フランスの社会福祉政策を象徴する「非行少年に関する1945年オルドナンス(l’Ordonnance de 1945 relative à l’enfance délinquante)」を部分的に破壊しようとしている。現在、与党はオルドナンスを廃止し、新しく「少年刑事司法法典(Code de la justice pénale des mineurs)」を立法しようとしている。この与党の動向に対し、学者や実務家、子どもの保護活動に従事している者による抗議活動がおこなわれている。
 今回の報告では、その福祉的発展に重点を置いて、フランスにおける少年司法の歴史にある三つの時代を検討した。これらの時代は、(1)ルネサンスから「非行少年に関する1945年オルドナンス」が成立した戦後直後にいたるまでの高い専門性のある少年司法制度の誕生、(2)戦後から1980年代までの経済成長により可能となった司法の高度な福祉的発展、そして(3)1980年代に定着し始めた社会危機が背景となった厳罰化への動きであり、時代ごとの特徴や経緯について紹介した。また、最後の時代の厳罰化への動きにおける「移民問題」の位置付けの分析を試みた。このようにして、子ども観の現代化や社会科学としての犯罪学の発展がどのように議論に影響を与えたかをふまえて、フランスの少年司法の歴史的展開を検討した。

<質疑応答>
 参加者との議論では、主に、犯罪学研究センター・教育部門長の赤池 一将教授(本学・法学部)とのやり取りを通じて行われた。まずは、日仏比較を行う上で両国の矯正施設の相違点を指摘するコメントがあった。現在、両国において厳罰化の動きがみられているにも関わらず、収容生活などについては、現在もフランスの方がゆとりのある環境を優先していることについて意見交換をした。また、今後の研究方針について、「フランスとの比較を通じて、日本の少年司法制度の改善点を示すとともに改善策を検討してはどうか」と勧めるコメントがあった。