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犯罪学は、あらゆる社会現象を研究の対象としています。今回の「新型コロナ現象」は、個人と国家の関係やわたしたちの社会の在り方自体に、大きな問いを投げかけています。そこで、「新型コロナ現象について語る犯罪学者のフォーラム」を通じて多くの方と「いのちの大切さ」について共に考えたいと思います。

今回は、石塚 伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)のコラムを紹介します。

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新型コロナと「暗数」理論〜隠れた感染者はどうやって見つける?〜

【暗数の巻】  今回は、「犯罪暗数(dark figure of crime)」についてお話しします。暗数とは、犯罪学の用語で、公式統計では「認知されない」あるいは「発覚しない」犯罪のことです。犯罪統計では、被害届けや通報、告訴、告発などによって警察等の捜査機関に「認知」された件数が「発生件数」などと呼ばれています。しかし、警察関係の法令(犯罪統計細則等)にもあるように「認知件数」と呼ぶべきでしょう。(註1)公式統計の認知件数と実際の犯罪件数との間に差があります。捜査機関の選別によるものか、不可抗力なのかは別として、暗数があるのは必然です。最近では、ドメスティック・バイオレンス(DV)などで隠れた事件があることが共通の理解となり、ようやく、認知や暗数という言葉が市民権を得ています。
 わたしたちは、統計が実態の変化を表わしていると信じるからこそ、その増減に一喜一憂します。犯罪学では、長年にわたり、公式統計の変動から現実の犯罪の動向を推測するため、さまざまな工夫をしてきました。「被害者調査(victim survey)」(註2)と 「自己報告(self-report)」(註3)という2つの調査方法がそれです。

【PCR検査と感染者数】 「新型コロナ現象」では、「隠れた感染者」の存在が注目を集めています。東京都を例にこの問題について考えてみましょう。(註4)
2020年4月22日現在、東京都の陽性者数(累計)は、3,439人、その内訳は、入院中2,461人(71.6%)、死亡81人(2.4%)、退院(療養期間経過を含む)897人(26.1%)。なお、入院中の患者のうち軽症・中等症は2,399人(69.8%)、重症は62人(1.8%)です。検査実施状況を見ると、検査実施人数は9,124人ですから、陽性者の割合は37.7%です。検査をすると4割弱が陽性と判定される。この検査陽性者を「感染者」と呼んでいます。なお、感染者の約4%が重症化し、約2%が亡くなっているということになります。
 2月初めに横浜港に入港したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」では、3,711人の乗客・乗員中、634人(17.1%)が感染者と確認され、10人(1.5%)が亡くなりました。1月末に長崎港に入港して停泊していたクルーズ船「コスタ・アトランチカ号」では、623人の乗組員のうち148人(23.8%)が感染者と確認されました。このように閉ざされた空間では、17〜24%、おおよそ2割の人がPCR検査陽性者のようです。してみると東京都の4割弱の陽性率は高すぎるので、検査数を増やせば、さらに陽性者は増えると思われます。したがって、感染者数には暗数があるということになります。

【抗体保有者調査による感染者数】 そこで、これを補うのが抗体検査です。スタンフォード大学の調査チームは、4月初めにカリフォルニア州サンタクララ郡の住民3300人を対象に抗体調査を行い、約1.5%が過去に感染して、抗体を保有していることを確認しました。詳細な分析の結果、約200万人の住民の2.4〜4.2%が抗体保有者だと推計されます。これは、PCR検査陽性者の50~85倍に相当する数です。
 4月初旬の同州ロサンゼルス郡での本調査では、成人の2.8%~5.6%が抗体保有者であることが確認されました。同郡の住民は約980万人ですから、22万~44万人の人が抗体保有者だと推計されます。PCR検査陽性者は8000人弱でしたから、その28~55倍の抗体保有者がいることになります。(註5)
 つぎに、人口約840万人のニューヨーク市では、感染者約12万人(1.4%)、死者は約8000人でした。抗体保有者は約178万人(21.2%)だったので、感染者の15倍程度の人に感染キャリアがあるということになります。(註6)
 このように、感染者数には暗数があり、抗体保有者はPCR検査陽性者の50倍程度と推測されます。PCR検査には、韓国や米国のように疑いがあればすべてやってみる積極政策と日本のように入院が必要な人を確定する消極政策の国があります。前者は現状を正確に把握することが目的であるのに対し、後者は医療崩壊の回避を目的としています。市中感染防止には前者が、クラスター叩き戦略には後者が用いられています。日本的型の医療崩壊回避目的の消極戦略の枠組みでは、感染者(PCR検査陽性者)の2%程度が重篤化して死亡すると推計できます。

【実効再生産数】 さて、「実効再生産数(effective reproduction number)」です。これは、感染症の流行が進行中の集団において、1人の感染者が新たに生産した二次感染者数の平均値です。日本全体の実効再生産数は3月15日に1を越え、東京都では3月下旬に1.7になりました。 (註7)
 ウイルスの保有者を隔離・遮蔽して感染を止める「社会距離戦略(social distancing)」は、実効再生産数を低減させて、感染のスピードを緩める政策です。その前提は、人口の6割程度が感染すれば、流行は収束するとの仮説に基づいています。(註8)クラスター対策チームは、実効再生産数を複雑な計算式で導いているようですが、計算の元になるデータであるPCR検査や抗体保有者数がバグ(不具合)なデータなので、複雑な計算式がその能力を発揮することは期待薄です。高級車に粗悪なガソリンを入れるようなことはやめて、職人的な勘の勝負である算術で予測公式を導いてみてはどうでしょう。科学的発想のない日本の政策決定には、算数とポンチ絵で十分です。ややペダンチック(衒学的)に言えば、帰納法的思考でかんがえてみましょう。

【東京都の感染状況の推測】 使う数字は大まかに、①感染者の2%が亡くなること、②抗体保有者が感染者の50倍であること、そして、③東京都の人口が140万人であること(註9)の3つを前提とします。
2月27日に初めて死者が確認されて以降の死者数とPCR検査陽性者数を表にしてみました。実効再生産数を1.5、1週間周期に死者数を試算し、感染者数(PCR検査陽性者数)はその50倍、キャリア数(抗体保有者数)はその50倍とする試算式を作りました。
 すなわち、(i) 死者数=1.5の(n-1)乗である。(ii) 感染者数=死者数×50である。 (iii)抗体保有者数=感染者数×50である。(iv) 抗体保有者が人口の60%になるとパンデミックは収束する。
 まず、死者数についてですが、推定死者数は、2月7日を推定死者1としてそれ以降1週ごとに1.5の階乗をしていくと4月9日頃から、死亡確認者数と推定死者数が近似してきます。それ以前の変死者の中には感染者が5名含まれていたことも確認されています。それ以降は、両者はかなり近似しています。そこで、推定死亡者数の50倍が感染者、さらにその50倍が抗体保有者として表を完成させると下記のようになりました。


【表】東京都における死亡者数、感染者数、抗体保有者数および保有者割合の推移(推計)

【表】東京都における死亡者数、感染者数、抗体保有者数および保有者割合の推移(推計)


 4月7日に緊急事態宣言を出さず、4月9日の状態を放置していれば、7月初めには東京都の人口の約6割が抗体保有者になって、新型コロナの流行は収束するとの試算です。しかし、その時点での死者は3千人を超え、16万人以上の感染者が病院に押し寄せています。おそらく、医療は崩壊するでしょうから、死者は3千人どころではないでしょう。わたしたちの社会は、このような事態に耐えられないと思います。

【収束への道】 感染の鎮静化には、集団の6割程度が抗体保有者になることが必要である、という疫学的仮説を前提とすれば、医療崩壊を回避するため、感染源の隔離・遮蔽政策を強化して、医療体制に一息つかせることが必要です。現在、行われている緊急事態体制の目標はまさにこれです。第15週、第17週が来るのを遅らせ、時間稼ぎをしてウイルスの活動が鈍くなるであろう夏を待ちます。その後、規制を緩めれば、当然、第3波、第4波の流行が来るので、また、同じよう社会的距離を広げ、あるいは隔離・遮蔽戦略を用いて、感染スピードを緩めます。これを繰り返しているうちに、特効薬ができて入院者数が減り、ワクチンができて抗体保有者を増やし、最終的に6割が抗体保有者(キャリア)になれば、爆発的流行はコントロールできたことになります。
 ワクチンが実用化されれば、結核やインフルエンザのように、それぞれの病態に応じた予防策を確立し、感染予防体制ができ上がることになるでしょう。

【“The Long & Winding Road”♪♩♩♪♩.】  わたしの父は、三十代で結核に罹り、完治しましたが、七十代に再び結核を発症しました。子どもの頃、上のお姉さんは結核で自宅療養していて亡くなっているので、感染はあったのではないかと推測されます。
 わたしは、父が隔離される前に一緒に生活していましたが、感染はしていなかったようです。小学校1年時の健康診断でのツベルクリン反応は陰性でした。サイコロになる前のBCGをしました。2年生時の健康診断でのツベルクリン反応は陽性でレントゲンをとりましたが、発症はありませんでした。その後の健康診断でのレントゲンは問題なし。五十代初めに飛行機で帰国する時に搭乗者が結核の感染者であるから検査を受けることを航空会社から勧告され、開業医を受診してツベルクリン反応は陽性だったが、レントゲン撮影で発症はしていないということで経過観察。特段の問題はなく、以後、年に一度の健康診断でも問題はありません。新型コロナについても、定期健康診断で継続して検査していくシステムが必要ということではないでしょうか。新型コロナ時代の新しい生活形態です。
 
 これから始まる“長く、曲がりくねった道” ♪♩♩♪♩.〜。


 合理的かつ効果的な刑事政策を実施するためには、犯罪の発生状況を正確に把握しておくことが必要です。そのためには、①警察等の公的機関に認知された犯罪件数を集計する方法と②一般国民を対象としたアンケート調査等により、警察等に認知されていない犯罪の件数(暗数)を含め、どのような犯罪が、実際どのくらい発生しているかという実態を調べる方法(暗数調査)があります。暗数調査を定期的に実施することにより、認知件数との経年比較が可能となる、この2つの調査は、相補的なものです。

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(註1)『犯罪統計規則』(昭和29年国家公安委員会規則第6号)は、「犯罪統計の正確かつ迅速な作成およびその効率的な運用を図るため必要な事項を定めることを目的とし(1条)、都道府県警察は、犯罪と思料される事件を「認知」または「検挙」したときは、速やかに原票を作成し、その内容を電子情報処理組織を使用して警察庁へ報告しなければならないとされています(3条1項)。

(註2)被害者調査については、警察庁が、犯罪被害者等の置かれた状況について調査を実施しています。調査目的は、被害者対策です。
https://www.npa.go.jp/hanzaihigai/kohyo/report/report.html
 法務総合研究所は、2000年から4年ごとに国連の「国際犯罪被害実態調査(International Crime Victimization Survey:ICVS)」に参加し、「犯罪被害実態(暗数)調査」を実施してきました。調査の結果は、「犯罪白書」や「研究部報告」などで公表されています。
http://www.moj.go.jp/housouken/houso_houso34.html
 犯罪学研究センターでも、津島昌寛と浜井浩一が、日本学術振興会・科学研究費補助金を受け、「女性の日常生活の安全に関する調査」を実施しました。この調査は、2012年にFRA(欧州基本人権庁)の主導により行われた“Survey on women’s well-being and safety in Europe”(欧州における女性の幸福と安全に関する調査)に準拠して実施されたものです。その成果は、浜井浩一=津島昌寛=我藤諭「日本における女性の暴力被害の実態--EUとの共同調査『女性の日常生活の安全に関する調査』の結果から」(『法学新報』第125巻. 11/12号、2019年)227-254頁などで発表されています。

(註3)自己報告調査については、非行経験に関する自己申告調査を世界各国の中学生に対して実施し、その結果を比較しようとする国際プロジェクト「国際自己申告非行調査(International Self-Report Delinquency Study:ISRD)」が実施されています。同調査は、です。自己申告調査は、犯罪加害者・被害者の特徴やその背景の解明、学問的な理論検証に強みを持つと言われています。調査の目的は、①犯罪の加害・被害における国家間の相違点や共通点、傾向を明らかにすること、および②少年の非行や犯罪被害に関する理論的課題を研究・分析し、政策提言を行うことです。1992年から、現在までの3回実施され、約40か国が参加している。犯罪学研究センターの研究チームは、第3回に部分的に参加し、2021年からの第4回調査には本格的に参加する予定です。
https://crimrc.ryukoku.ac.jp/isrd-japan/

(註4)新型コロナウイルス感染症対策サイトの「都内の最新感染動向」https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/
(註5)「米ロサンゼルス 実際の感染者数は公式発表の最大55倍:44万人超 抗体検査の結果発表」(飯塚真紀子、Yahooニュース2020年4月21日)https://news.yahoo.co.jp/byline/iizukamakiko/20200421-00174391/
(註6)「米ニューヨーク州 約14%に抗体確認と発表 新型コロナ」(NHKニュース2020年4月24日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200424/k10012403011000.html
(註7)新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020年4月1日)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00093.html

(註8)対策は、ひとりひとりの行動の総体の結果生ずる感染率を、個々の行動変容により減少させることにより、COVID-19の感染拡大を抑止し、終息させることができるかを狙っています「都道府県ごとのシミュレーションによる検討」(2020年4月5日版: 同月28日改定)。クラスター対策チームは、「遅れ付き確率的SIRモデル」という分析方法を用いて「感染率」と「回復率(除去率)」の推計を行っている。結果を掲載する。ただし、この分析手法は、全数調査を前提としていない。ランダムサンプリングであれば、PCR検査陽性者を感染者とみなしても、母集団の性質を表しているということができるが、恣意的に検査が調整されたり、検査能力が飽和状態になってしまっていれば、サンプルとしては適切性を欠くことになってします。何れにせよ、PCR検査だけでは、感染状態を正確に把握することはできず、一定の条件を満たしたものだけに検査をしたり、検査まで数日間待機させたりする状況では、実際の感染者数は、検査陽性者の数を上回っていると考えられます。

(註9)13,823千人(2018年10月総務省人口推計)
「相談から診察、入院、退院までの流れ」については、下記HP内の図を参照のこと。(画像制作:Yahoo! JAPAN)
https://hazard.yahoo.co.jp/article/20200207#QA


石塚 伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)

石塚 伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長)


石塚 伸一(いしづか しんいち)
本学法学部教授・犯罪学研究センター長・「治療法学」「法教育・法情報」ユニット長、ATA-net研究センター長
<プロフィール>
犯罪学研究センターのセンター長を務めるほか、物質依存、暴力依存からの回復を望む人がゆるやかに繋がるネットワーク”えんたく”(課題共有型円卓会議)の普及をめざすATA-net(アディクション・トランスアドヴォカシー・ネットワーク)のプロジェクト・リーダーを務める。
関連記事:
>>【犯罪学Café Talk】石塚伸一教授(本学法学部 /犯罪学研究センター長)


【特集ページ】新型コロナ現象について語る犯罪学者のフォーラム
https://sites.google.com/view/crimrc-covid19/


 5月2日(土)、社会学部コミュニティマネジメント学科(略称CM学科)で、新入生歓迎イベント「フレッシャーズパーティ2020@オンライン」が開催され、新入生・在学生・教員を合わせて約120名の参加があり、大盛況のうちに終了しました。

 このイベントは、新型コロナウイルスウイルスの影響で大学構内に入れないコミュニティマネジメント学科の新入生の不安を少しでも減らし、温かく迎えるため、学生組織CM交流委員会(通称:CM交流会)と有志の学生・教員が自主的に企画運営したものです。

イベントではZoomやLINEなどオンライン・ツールをフル活用。ラジオ実習「龍大ラジオタックル」の履修生たちの軽妙なトークに続き、新入生と在学生によるゲーム、学び方をざっくばらんに語り合うフリートーク、新入生たちの相談コーナーなど盛りだくさんの内容でした。


参加してくれた学生の皆さん


120名の参加があり、大いに盛り上がりました。

新入生は、授業やサークル・課外活動のことなどさまざまな不安を抱えていましたが、今回オンラインで同級生や先輩たちとつながりを持ったことで、これから続く大学生活のはずみになったと思います。


大学生活での目標やがんばりたいことを、今年はオンラインで作成しました。

企画運営に関わった在学生たちは、実習や委員会活動、LA(ラーニングアシスタント)など経験で培ったスキルを活かして主体的に行動を起こしたことを、学科教員一同たいへん感謝しています。コミュニティをマネジメントすることを学び、コミュニティーリーダーの育成を目指す学科において、学科というコミュニティを元気で楽しいものにする、まさに「コミュニティマネジメント学科らしい」企画が開催できたことは学科の誇りです。



 今年度の新入生は、学科の先輩たちの姿を目の当たりにし、龍谷大学で、社会学部で、コミュニティマネジメント学科で学ぶ意欲が向上したことと思います。教職員も彼ら彼女らの学びをサポートしていきます。


2020年4月9日、犯罪学研究センターは、第18回「CrimRC(犯罪学研究センター)研究会」をオンライン上で開催し、25名が参加しました。

今回の研究会では、「新時代の犯罪学・創生:“つまずき”からの主体的回復を支援する学融領域の構築」を目的とした科研申請内容について、研究代表者の石塚伸一教授(本学法学部 /犯罪学研究センター長)をはじめ、各ユニットの代表者から報告がありました。


当日の発表内容

当日の発表内容


オンライン開催のようす

オンライン開催のようす

はじめに、石塚教授からプロジェクトの全体構想についての報告が行われました。
19世紀の犯罪概念は街の中で起きる犯罪を想定していましたが、最近のアディクション(嗜癖・嗜虐行為)では孤立の傾向が問題視されています。このプロジェクトは人生で多くの人が体験する“つまずき(deviance)”から、その人を主体的に回復させるということを、“立ち直り(desistance)”と捉え支援し、究極的に犯罪を減少させることを目指す学際的・学融的学問領域としての「新時代の犯罪学」の創生を目的としています。「あらたな学融領域創生のために、同じパラダイム*1を共有するコミュニティによって“研究→教育→応用”というサイクルを成し遂げる必要がある」と石塚教授は提言します。後継者の養成、研究、社会実装*2を繰り返しながら、パラダイムの共有をしていくことで、通常科学は存続していくという考えから、石塚教授は、昨今の日本における犯罪状況を踏まえ「19世紀に由来する犯罪対策としての伝統的犯罪学や、刑事政策は限界を迎えている。つまり、これはパラダイムのクライシス(危機)だ」と述べました。しかし、この危機は逆に変革の条件が整った契機でもあり、犯罪学へのニーズに変化が生じていることの現れであると言えます。

従来の犯罪学は、ロンブローゾの「生来性犯罪人説*3」以来、犯罪の個人的素質及び犯罪原因を解明し、どのように対応をするかが研究課題であり、それらの知見に基づいて警察官、刑務官などの矯正・保護の職員や裁判官、検察官などの法曹実務家を犯罪対策の担い手として教育することが、犯罪学や刑事政策の課題でした。これを応用すると、刑罰による応報・抑止・隔離・無害化(改善)が刑事司法の実践場面となります。しかし、今の犯罪人と呼ばれる人たちは法違反者であり、先祖返りではなく社会の変化に敏感な人といえます。石塚教授はこれを「アディクト」と捉え、「先祖返りからアディクト、適応に乗り遅れた人から適応しすぎた人という風に捉えていく、ということになると、孤立の病から回復の支援を理論化していくことが新たな研究領域となる。このパラダイムを共有した人たちが後継者を養成するようになると、刑事司法の専門職だけではなく、当事者も含む関係者と呼ばれるより広い領域の人たちが、一般市民に新しい犯罪学を提供していくことになる。そして、この研究が応用されることによって、“つまずき”からの“立ち直り”支援に繋がる」と述べました。


石塚教授の資料より「犯罪学のパラダイム転換」

石塚教授の資料より「犯罪学のパラダイム転換」


新時代の犯罪学・刑事政策の射程として、今までのように犯罪発生から捜査、裁判、矯正・保護、そして再犯防止という刑事政策の流れのみに注目するのではなく、子どもの保育、教育からの落ちこぼれ、ギャンブル依存等、私たちのライフスタイルの中にある事前段階のつまずきにも注目。石塚教授は「犯罪や非行に関する知見は、その前兆である多様な逸脱行動を感知することによって、保育や子育て、教育や福祉において、その効果を発揮する。犯罪学の予防機能は、意識的であるか、無意識であるかを問わず、わたしたちの日常的活動の中で作用している。“つまずき”からの回復支援という領域設定は、このような問題意識を反省的に具現化したものである」と強調しました。


石塚教授の資料より「新時代の犯罪学・刑事政策の射程」

石塚教授の資料より「新時代の犯罪学・刑事政策の射程」


石塚教授は「危機の克服のための新しい犯罪学を、それも日本発の犯罪学という形で創生することが出来る可能性がある。従来の犯罪学は、19世紀のヨーロッパで起こった現象について対応するための学問として形成されたが、今後はなぜ日本では犯罪が少ないのかを発信することが出来るのではないか。それを発信するために、若手研究者を中心として、新しい犯罪学領域の担い手を増やしていくことが、日本における新時代の犯罪学・創生の戦略である」と主張し、自身が総括するプロジェクト体制について説明。組織は研究部門として「人間科学」「社会科学」「総合科学」、教育部門として「人材育成」、国際部門として「国際化」のグループで構成されます。さらに最終的な目標を犯罪学の学部、あるいは大学院を作るという、教育基盤を形成することを目的とするグループとして「犯罪学構想」があります。
具体的な目標として、
 (1)新たな時代における犯罪減少と犯罪者像を構築(総合科学班)
 (2)科学的・学融的・国際的視点から犯罪減少・原因を調査研究・分析検討(社会科学班)
 (3)主体性を尊重した多様な対人支援(人間科学班)
 (4)どのように犯罪や非行の未然防止・再犯予防を実現するのか(人材育成班)
 (5)新たな学術領域を開拓し、「研究→教育→応用」の通常科学としてのサイクルを構築(統括班・企画室)
 (6)新しいメディアやシンポジウム・研修会を通して、研究と教育の成果を情報発信(統括班・ブランディングチーム)
以上の6つを掲げます。

人間・社会・総合科学の全16ユニットがそれぞれの研究を2年間行い、新たに犯罪学の構想、人材育成、国際化という実践的社会実装という領域に展開していくことを計画しています。石塚教授は「今回の新しい変革領域というのは、新しい学問分野を作ることであり、そのブランディングとしてユニットをさらに細かく分け、第1期は研究者・対象領域の量的拡大、第2期は質的向上に重点を置き、2つのベクトルから新時代の犯罪学を創生することだ」と述べ、報告を終えました。


石塚教授の資料より「新時代の犯罪学プロジェクト」

石塚教授の資料より「新時代の犯罪学プロジェクト」


次に、各ユニット長からのユニット構想の報告がありました。
「犯罪学構想班」(代表者:古川原明子/本学法学部・准教授)は、新時代の犯罪学構想の構築を課題に、各研究班の研究成果を有機的に関連付け、新時代の要請に答えることのできる新たな犯罪学を構想するための調査研究を実施します。そして第2期には①新犯罪学構想の立案、②新教学主体創立の準備作業を課題とします。

「人間科学班」(代表者:相澤育郎/立正大学法学部・助教)は、新時代の犯罪学と人間科学、人間諸科学の知見を応用した対人援助理論の構築と実装を課題とした、“つまずき”からの“立ち直り”のために、法・福祉・心理・教育・保育・精神性(宗教)等の多様な側面からの支援をフォローする研究組織です。第2期には①対人支援に関する理論の構築と臨床への応用ガイドラインの策定、②実務家養成のための関係機関とのネットワーク構築を課題とします。

「社会科学班」(代表者:上田光明/龍谷大学 ATA-net 研究センター・博士研究員)は、新時代の犯罪学と社会科学を課題に、犯罪をめぐる知見を科学化し、新しい犯罪現象を科学的に分析するための調査研究を行います。
上田研究員は「時代によって、犯罪概念は拡大し、さらには新しい犯罪概念もでてくる。それらに対応していく必要がある」と述べ、国際自己申告非行調査(ISRD)*4、エビデンス・ベイスト・ポリシー(EBP)*5、ヘイトクライム、ジェンダー、性犯罪、高齢者犯罪の観点から調査研究を行い、第2期では、①伝統的犯罪領域と新しい犯罪領域の犯罪現象の科学的把握、②エビデンスに基づく政策立案による犯罪学の科学化を課題とします。

「総合科学班」(代表者:丸山泰弘/立正大学法学部・准教授)は、犯罪や逸脱行動の原因を多くの視点から捉え、犯罪学の学際的知見を豊富化し、学問の障壁を越えて新たに学融的な「犯罪者像」を構築するための調査研究を行います。 法科学、司法心理、アディクション、治療的司法の観点から調査研究を行い、第2期には、多様な学問領域の障壁を克服するための課題共有と新たな「犯罪者像」の構築を課題とします。
丸山准教授は「法科学・司法心理領域での犯罪者として確定する前(裁判段階)のアプローチと、犯罪学領域での犯罪者であることを前提としたアプローチとでは、捉えている人間像が違うので、どのように相互するか議論が必要な点である。また、アディクションの行動を逸脱行動として捉えるかどうかは、前提する人によって変わるので深く追求する必要がある」と述べました。

「犯罪学人材育成班」(代表者:森久智江/立命館大学法学部・教授)は、新時代の犯罪学と社会科学、犯罪現象からの「学び」の社会的共有と相互作用のあり方を課題に、科学的な目で犯罪現象を観察し、合理的な思考によって、対象を分析検討できる人材を養成するための学習と教育の方法と内容を開発する調査研究を行います。矯正教育、犯罪学カリキュラム、ダイアローグ(語り)、当事者研究、模擬裁判、プリズン・アートの観点から調査研究を行い、第2期においては、①当事者間のコミュニケーションや表現活動のガイドラインの策定、②犯罪学教育の方法論とカリキュラムの確立、③犯罪現象にかかる社会課題共有・検討のためのガイドラインの策定とスキームの社会実装を課題とします。
森久教授は「昨今の社会情勢から見ても、不安定な部分というのが様々な人に現れてきている状況にあると考える。これは新しいことに挑戦する1つの契機でもあり、犯罪学講座のようなリテラシーを学ぶということに加え、市民に向けて犯罪学に関する様々な知見を、地域社会の中で根付かせるにはどうしたら良いかを、今後検討していきたい」と述べました。

「国際化班」(代表者:斎藤 司/龍谷大学法学部・教授)は、新時代の犯罪学と社会科学の国際化と東アジアにおける拠点形成を課題に、世界で最も犯罪の少ない国の一つである日本の犯罪学・刑事政策学を国際化し、世界の犯罪学共同研究・教育の拠点を東アジアに創成するための調査研究を、アジア・オセアニア地域、ヨーロッパ地域、北アメリカ地域に分けて行います。龍谷大学は、英国のカーディフ大学、タイ国のマヒドン大学、ドイツのハレ大学およびゲッティンゲン大学などと研究者および学生のレベルで学術交流を重ねています。また、海外からの研究者、実務家および学生の留学を受け入れ、2020 年 には「アジア犯罪学会第 12 回年次大会」を開催予定。
斎藤教授は「諸外国とのネットワーク構築だけではなく、情報を受信し続けてきた体制を、受信しつつも積極的に発信するという形に変えることが重要である。そのためには、研究成果を発信している諸外国のやり方・組織体制、制度構築を検討すべきである。さらには、どんな時でも研究の発信・交流が出来るような体制や拠点作りをする必要がある」と主張。第2期においては、①日本の犯罪学ブランドの国際化、②東アジアにおける共同研究・教育の拠点の形成を課題とします。

総括として、石塚教授は「犯罪学は世界的に展開されている学問領域であるにもかかわらず、日本では未だ確立されていない。新時代の犯罪学の創生のためにも、また世界的な市場に参入するためにも、それぞれの領域での課題を明らかにすることが必要だ」と主張。今回のプロジェクトは旧来の刑事司法に凝り固まった日本の犯罪学を、刑事司法の枠組みから飛び出させて量的拡大をすることによって幅広い分野の人と関わり、第2期では関わる人が全員が新しい担い手となることを想定しています。
さらに石塚教授は、「このプロジェクトは計画研究ユニットの分担者36名分の研究に加えて、公募研究分担者18名分の研究を含めた全54研究の中から、領域を広げ海外発表をするもの、最先端の所へ提供するものを18研究選択する。このプロジェクトが終了してもさらに次の段階として、犯罪学に関する大学院や、関連するような学部を立ち上げる計画へと移行するつもりである」と今後の展望を述べ、報告を終えました。

________________________________________
【補注】
*1 パラダイム:
トーマス・クーン(Thomas Samuel Kuhn、1922年7月18日 - 1996年6月17日)によって提唱された、科学史及び科学哲学上の概念。ある時代のものの見方・考え方を支配する認識の枠組み。

*2 社会実装:
研究で得られた新たな知見や技術を実態経営や実態経済の中に活かしていくことで、社会や経済に便益をもたらすことを目指す研究開発。

*3 生来性犯罪人説:
犯罪学の祖であるイタリアのチェザーレ・ロンブローゾ(Cesare Lombroso、 1835年11月6日 - 1909年10月19日)は、『犯罪人論(L'uomo delinquente)』(1876)において、犯罪人についての解剖学的調査結果や精神医学的知見に基づいて、犯罪人の中には一定の身体的・精神的特徴を具備した者がおり、このような者は必然的に犯罪におちいるものであるとし、これを隔世遺伝説によって説明する〈生来性犯罪人説〉を主張した。発表当初より批判されていたこの主張は、現在では否定されている。ロンブローゾ学説は犯罪についての因果科学的考察に基づく刑事政策的措置を主張したことに歴史的意義がある。

犯罪原因としての個人的資質については、昨今の脳科学や遺伝子研究の興隆の中で、犯罪生物学、神経犯罪学の研究動向が注目されている。
【>>関連イベント】公開シンポジウム「人はなぜ暴力を振るうのか、その対策とは」(2017.10.31開催)において、神経犯罪学の世界的権威であるペンシルベニア大学教授のAdrian Raine(エイドリアン・レイン)教授※が講演。

*4 国際自己申告非行調査(International Self-Report Delinquency Study: ISRD):
非行経験や被害経験に関する自己申告調査を世界各国の中学生に対して実施し、その結果を比較しようとする国際プロジェクト。自己申告調査は、犯罪加害者・被害者の特徴やその背景の解明、学問的な理論検証に強みを持ち、さらに国際比較によって、日本と諸外国との類似点や相違点を引き出すことが可能となる。ISRDプロジェクトは、青少年の非行防止対策を考える上で、有用な基礎的知見を提供できる。
【>>関連ページ】ISRD-JAPANプロジェクト

*5 エビデンス・ベイスト・ポリシー(Evidence-Based Policy: EBP):
政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで科学的合理的根拠(エビデンス)に基づくものとすること。
________________________________________
※Adrian Raine(エイドリアン・レイン)教授については、下記参照。
『新時代の犯罪学 共生の時代における合理的刑事政策を求めて』(石塚伸一編著, 日本評論社, 2020)所収の浜井浩一『犯罪生物学の再興ーーエイドリアン・レインによる講演「暴力の解剖学」』
『暴力の解剖学―神経犯罪への招待』(エイドレアン・レイン(著), 高橋洋(訳), 紀伊國屋書店, 2015)


新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けている学生の支援のために立ち上がった学生応援方策検討ワーキングの活動の一環として、5月2日(土)に一人暮らしの学生、留学生を対象に昼、夜2食、7日分の食材を提供しました。

深草学舎、瀬田学舎、大宮学舎で時間を分けて三回の食材配布を行い、総勢約440名の学生に提供。東近江市から寄付いただいたお米に加えて生鮮食品やレトルト食品などの多彩な食材にレシピをつけて学長、副学長、学部長自ら学生に手渡し、メッセージを送りました。食材の仕分けや配布には、教職員ボランティア約50名が参加しました。

学生からは、次のような声をいただきました。
「アルバイトができなくなり、これからどうしようと不安に思っていたので、今回の配布は本当にありがたかった。」
「この期間、1人で料理を作り、1人で食事をとっていたこともあり、人の温かさをより一層感じた。」
「学生に向き合ってくれる対応から、改めて龍谷大学に入学してよかった」

同ワーキンググループによる学生支援活動は、先日創設された学生支援募金を財源にして、これからも続きます。今後もご支援の程よろしくお願いいたします。





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作成者有限会社アップルップル

作成日2016/04/26

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作成日2016/04/26

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作成日2016/04/26

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作成者KDL藤川

作成日2017/04/26

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作成日2016/04/26

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作成者KDL藤川

作成日2017/05/01

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