Need Help?

Ryukoku Extension Center
龍谷エクステンションセンター(REC)

パネルディスカッション
仏教SDGs×三方良し
~地域と大学が持続的に成長するために~

パネリスト
中井徳太郎 環境事務次官
三日月大造 滋賀県知事
佐藤健司 大津市長
入澤崇 龍谷大学
木村睦 龍谷大学REC長センター長

モデレーター
深尾昌峰 龍谷大学学長補佐

「自治体や企業が連携し、地方を元気にする『地域循環共生圏』は龍谷大学の構想と通じるものがあります」(入澤)

入澤 崇 龍谷大学学長

(敬称略)

三日月:REC30周年の記念シンポジウムへお招きいただき、とても嬉しく思います。センターの皆さまが地域連携、産官学連携、さらには生涯学習事業などにご尽力、ご貢献いただいていることに心から敬意を表します。今日は、気候変動や様々な社会課題に対してどう連携していくべきかを一緒に考えていければと思います。

三日月 大造 滋賀県知事

佐藤:REC30周年、誠におめでとうございます。こうしてシンポジウムが開催されましたことを心よりお喜び申し上げます。私はNHKに記者として入社し、初めての取材がRECホールで、龍谷大学が所蔵する名所図会の展示でしたので深い思い入れがございます。今日は有意義な意見交換をしたいと思います。

入澤:中井環境事務次官の講演をお聞きし、「地域循環共生圏」は、今、龍谷大学が構想している方向性とぴったり合うと感じました。

生活レベルにおいても「循環」は重要です。「循環」ということで思い出すのは、私が若かりし時に調査して歩いていたインドです。インドの村落では古来より牛糞を燃料としています。家畜の糞の再利用ということで考えさせられました。最近「ゴミをなくす」という目標をもつ日本の地方自治体や企業が出てきてはいますが、価値がないとみなされるものの「リサイクル」ないし「リユース」は一人ひとりが考える大事な点であると思います。

木村:温暖化対策には科学技術系の研究が必要ですが、研究そのものには良い面もありますし、悪い面もあります。科学技術系の研究者は研究を、人文社会学の研究者はその善悪を問う立場だと思います。RECのセンター長は代々、科学技術系出身、人文社会学系出身で交代しておりますので、環境問題に関しても両方の立場からお話しすることができると思います。

――どういった道具立てがあれば「地域循環共生圏」の加速が進むとお考えですか?

三日月:滋賀では身近な人を気遣う時に「おとなりさん」「お互いさん」と呼びます。今後は「おとなりさん」「お互いさん」とパートナーシップを作り、その連携を高める枠組みを国や地方自治体で作ることができればと考えています。例えば、阪神港や名古屋港に運び込まれる物流コンテナは、荷下ろしをすると帰りはカラなのですが、何らかの連携で帰り便にも荷物を運べるようにするという枠組みはどうでしょう。インセンティブ制度を導入すれば、連携が加速すると思います。

佐藤:北風と太陽のような政策が必要だと思います。人間は、危機的状況においてこそ気づくことがあり、行動変容がおこります。人間で言えば、慢性疾患だと気づきにくいことも、毎日血圧を測ると健康に気をつけたりするのと同じです。

佐藤 健司 大津市長

――自分ごととして考えてもらうために、可視化するということですね。

三日月:自分の取り組みが気候変動回避にどう役立っているのかを信頼度の高い形で「見える化」し、共有化できると、行動変容に繋がるでしょうね。

中井:科学者からは「温暖化は地球のメカニズムで起こるものなので、人間の働きでどうこうできるわけではない」とよく言われます。しかし、石油、石炭、化石燃料を燃やすとCO2の濃度が増えることは明らかになっています。これまでは、エコマークなどふわっとした形でしか提示できていなかったのですが、「見える化」はとても良いアイデアだと思います。アディダスはプラスチックごみから作る靴を製品化し、CO2排出減を「見える化」しています。この事例を、様々な自治体や企業で横展開できるといいですね。

「循環型社会・地域共生の実現と加速、そして気候危機、コロナ危機のピンチをチャンスに変えるには『哲学』が必要です」(中井)

中井 徳太郎 環境事務次官

――コロナウイルスが地域社会にも大きなインパクトを与えており、最前線で指揮をとられている三日月知事、佐藤市長におかれましてはまだまだ予断を許さない状況でしょう。同時に、問題もたくさんあるのではと思います。こういった危機的状況の中、今後はどういった街づくりを進めていくのか、どんな社会にシフトしていくのかをお聞かせください。

三日月:コロナウイルスとの闘いは続いております。皆さまに多大なご協力をいただいているおかげで、以前より落ち着いた状況になってきました。この2年は、県民の「見えない、知らない、分からない」コロナウイルスに対する不安に寄り添いながら、社会が壊れないよう腐心してまいりました。また、大阪の病院で病床が溢れたときは患者さまを滋賀県で受け入れたり、不足した看護人材を滋賀県から送り出したりしました。大変な状況下でありましたが、人と人との繋がりで危機を乗り越えようという動きを作り出せたのではないかと感じています。

そして、明治期以降に日本が作り上げた「中央集権」「都市偏重」「市場のグローバル化」を見直すきっかけにもなりました。私は「卒近代」と申し上げていますが、「直線」から「循環」型の社会・経済に向かう、その取り組みを龍谷大学の皆さまとも一緒に展開していければと思います。

佐藤:現在、コロナウイルスの感染拡大が沈静化してきているのは医療従事者の皆さまのご尽力のおかげ、そしてワクチン接種が進んできたからだと思います。しかしながら大津市の保健所では、1990年代初頭と比べると疫学調査にあたる保健師の数が半分以下です。10年前に75人だったのが、現在は60人にまで減っています。私たちが、これまで悲しくも痛ましい大規模災害を経て知恵を蓄積してきたにもかかわらず、です。有事になって初めて、健康危機に対する備えの大切さに気付かされました。

また、コロナ禍というピンチをチャンスにした例もあります。今日のシンポジウムはオンライン開催ですが、実は地元の印刷会社の皆さまに運営を担っていただいております。経済が疲弊する状況のなか、新しいビジネスチャンスに取り組んでいただいていること、そしてこういったチャレンジできる前向きな取り組みが生まれていることを喜ばしく思います。

中井:気候危機、コロナ危機のなかで感じているのは、これまで人類が良かれと思い進めてきた科学技術の発達が、実は地球のバランスを崩していたということです。環境省では地球を健康体にするための様々な政策を進めており、その軸となるのが「自立・分散型」の「地域共生型社会」です。地球をひとつの生命体だと考えると、地域という一つひとつの細胞が元気にすることが重要でしょう。ただ、生命体という感覚を再構築するためにはなんらかの哲学が必要です。哲学があれば、循環型社会や地域共生を進めやすいからです。日本人は古くから、自然と折り合いをつけるという豊かな精神性があります。自分と他者との関係、あるいは人間と自然との関係を一体化させて考えるのは日本人の特徴でしょう。

入澤:仏教には「自他不二(じたふに)」という考え方があります。自分と他人との違いは認めつつ、自分と他人は分かれてはいない。自然と自分も分けられるものではないという考え方です。基底にあるのは「縁起」ないしは「空」の思想です。私たちは、自分と他者を区分けする思考に慣れすぎていますが、自分と自然を一体的にとらえる発想は日本的思考の底に流れていると思います。

2019年、龍谷大学が創立380周年を迎えた時、基本コンセプトとして「自省利他(じせいりた)」というメッセージを掲げました。今の自分を常に省み、他者との関係性を重んじ、他者に安寧をもたらす行動をこころがけようという意味です。自省を伴う利他、「自省利他」を一般化している日本語に置き換えると、それは「まごころ」です。

龍谷大学は2039年、創立400周年を迎えるにあたり「龍谷大学基本構想400」の将来ビジョンとして「まごころ Magokoro ある市民を育む」を掲げました。かつては「学生は大学で学び、そして社会に出る」という考え方がありましたが、これからは「学生も市民であり、社会人であり、社会の中の一員である」という教育を施してまいります。

じつはコロナ禍において、京都・西本願寺前の「龍谷ミュージアム」のカフェ・ショップが撤退いたしました。これを受け学生3名が「自分たちでカフェをオープンしたい」と手を挙げてくれました。龍谷大学の「建学の精神」に根ざした活動に対し、助成金を給付する仏教活動奨励金で開店資金を調達し、ホームページを作り、食品を扱う資格を取得し、2021年3月に「cafe rita(カフェリタ)」が開店いたしました。店名の「rita」は「自省利他」から取られています。学生たちが「自分たちでできることは何だろう?」と自主的に考えて行動したこと、そして「自省利他」のメッセージが届いていることを喜ばしく思いますし、これからもこういった学生を輩出できることと思います。

中井:龍谷大学は仏教哲学が基本にあるからこそ、教育プログラムを明確に打ち出せていると感じます。また、20代の若者たちは「自省利他」「まごころ」を受け入れる素直さがあるとも思います。彼ら、彼女らは小学生の頃からエコなどを学んできているので、SDGsネイティブ世代だと思います。

入澤:確かに、SDGsに対して反応が良いのは学生です。大人は「やろうとしている活動にはこんな問題があるんじゃないか」などのブレーキが先に出てきます。学生はそこにもどかしさを感じているようです。

「SDGs以前から、龍谷大学ではSDGsと同じ価値観を当たり前のものとして研究を続けてきました」(木村)

木村 睦 龍谷大学RECセンター長

――龍谷大学では、SDGsの発想が生まれるよりずっと以前より、SDGs的な価値観をもち、社会変革を促す取り組みを続けてきました。

木村:私自身、SDGsの17の目標を聞いた時、「当たり前のことだな」という感想をもちました。その当たり前のことを、しっかり言葉にしているところが良いなと思います。ただ、当たり前だからこその難しさもあります。先端理工学部では、1年生の新しいカリキュラムで「クリティカルシンキング」という授業を設けました。私が担当しているのですが、「何ごとも、悪い意味ではなく批判的にとらえよう」という取り組みです。これまで自分が正しいと思ってきたやり方を論理的、構造的に思考し、前提を疑う授業で、「人間にとって、それは本当に役に立つ研究なのか?」まで掘り下げています。数多くあるテーマの中から、もっとも良いものを複数決めていく道しるべになれば、人間社会が明るくなるのではと思っています。

――SDGsは「持続可能な開発目標」です。「在りたい地域像」を新たなパラダイムで作る必要がありますね。

中井:確かに、私たちは次世代に繋ぐ生命体=地球を大切にし、まっとうで健康的な生命の世界が来るということを提示しなければなりません。

佐藤:先日、大津市の90代男性から相談がありました。それは「今だけ良ければいいというのではなく、大津市としては次世代のことを考えた政策をしてほしい」というものでした。その想いを受け止め、大津市では再生エネルギーの活用などをしっかり考えねばと思ったところです。

三日月:滋賀県は自治体としていち早く「SDGs宣言」をしました。しかし、宣言しバッジをつけているだけで満足してはいけません。そこで滋賀県では今年7月、琵琶湖版SDGs「マザーレイクゴールズ」の取り組みを始めました。琵琶湖の清らかな水を取り戻すなど13のゴールを設定し、企業や個人の皆さまに行動を呼びかけています。また現在、「健康しが」の取り組みを進めています。人の健康、社会の健康、自然の健康、それに加えて、「一人も犠牲にならない、しない」ということを前提にしたいと考えています。子や孫、そして7世代先、つまり200年先まで地域が元気でいるための提起です。

龍谷大学と学生へのメッセージ

中井:龍谷大学が哲学をもって地域の中核となるという宣言は、私たちが「地域循環共生圏」の構想とまったく同じです。あとは熱量をもち、様々な摩擦を超えて実行するのみですね。ぜひ手を組み、滋賀県、大津市とも想いを共有しつつ取り組みを進めさせていただければと思います。

三日月:「自省を伴う利他」「まごころある市民を作りたい」「大学は社会の一員であり、社会を作る担い手を育てる」という龍谷大学の志に強く共鳴いたしました。これからも、龍谷大学の皆さまと一緒にプロジェクトの展開などを進めていければ幸いです。

佐藤:「まごころある市民の育成」は、地域社会の中で私たちも取り組んでいかねばならないと思いました。現在、大津市の高齢者と龍谷大学生の交流はスマートフォン教室などで進んでおります。今後は、次世代を担う子どもたちとの交流を進めるとともに、子どもたちの良きロールモデルになっていただければと思います。また、2015年に開設された農学部の学生たちと地域農業者とも良いコミュニケーションをとっていただいております。マキノ町の農場で栽培された大豆で白味噌を作り、それを大津市内の公立小・中学校の給食で提供するといった、循環型地産地消の事例も嬉しく思います。今後とも様々な取り組みに期待しております。

入澤:今日は皆さまと非常に濃密な時間を共有させていただいたことを感謝しております。龍谷大学ではこれからも仏教SDGsを推進してまいります。社会にインパクトをもたらす大学として、情熱をもって行動する若手を輩出していきたいという想いでいっぱいです。本日は、本当にありがとうございました。

トップページに戻る