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2019.12.05

京都コングレス・ユースフォーラムへの道のり3【犯罪学研究センター】

「日本の薬物問題と政策」をテーマに、ユースフォーラム参加学生にインタビューを実施

2020年4月20日~27日、国立京都国際会館で「京都コングレス(第14回国際犯罪防止刑事司法会議)」が開催されます。来春の京都コングレスに関連して実施される「京都コングレス・ユースフォーラム」への龍谷大学チームの参加に向けて、犯罪学研究センターHPでは京都コングレス・ユースフォーラムへの道のりと題して、参加学生の皆さんの活動の様子をシリーズで紹介していきます。



2019年10月10日、ユースフォーラム参加チームの学生は、「ドイツ×日本 犯罪学学術交流セミナー2019」においてドイツ・ハレ大学の学生と英語討論会を行いました。ドイツ側の報告テーマは「薬物政策」でした。ディスカッションでは、ドイツや世界的な薬物政策の潮流(薬物の非犯罪化、薬物の合法化、ハーム・リダクション政策*1など)を傾聴しつつ、日本の現状(薬物取締り、刑事罰の適用、薬物乱用防止教育)を踏まえたうえで、薬物使用の是非についてたくさんの学生たちが発言。日独の参加者の白熱した議論の様子を見たとき、彼らが日本の薬物政策についてどのように考えているのか、話を聞いてみたい!と思いました。
>>前回記事:京都コングレス・ユースフォーラムへの道のり2

また英語討論会終了後、ユースフォーラム参加チームは、反省と振り返りの意味を込めて事後勉強会を実施。そのおかげで、彼らの「薬物政策」についての理解はさらに深まりました。
そこで、今回はユースフォーラム参加チームに「日本の薬物問題と政策」をテーマに座談会を実施しました。参加者はインタビューに備えてたくさん調べてきてくれたようです。

ユースフォーラム参加メンバー:


山下敦史(本学法学部法律学科2回生・石塚ゼミ)

山下敦史(本学法学部法律学科2回生・石塚ゼミ)


永井涼介(本学法学部法律学科2回生・英語コミュニケーションコース)

永井涼介(本学法学部法律学科2回生・英語コミュニケーションコース)


前多力斗(本学法学部法律学科2回生・浜井ゼミ)

前多力斗(本学法学部法律学科2回生・浜井ゼミ)


森本夏樹(本学法学部法律学科2回生・石塚ゼミ)

森本夏樹(本学法学部法律学科2回生・石塚ゼミ)


海津更(本学法学部法律学科2回生・浜井ゼミ)

海津更(本学法学部法律学科2回生・浜井ゼミ)


山口未来(本学法学部法律学科2回生・石塚ゼミ)

山口未来(本学法学部法律学科2回生・石塚ゼミ)

―2020年4月の京都コングレス・ユースフォーラムでは、青少年の犯罪について議論を行います。それに関連して、近年、若者による大麻の使用が増えています(参照:厚生労働省「大麻を巡る現状」)。こうした背景には、どのような問題があると思いますか?


永井涼介(本学法学部法律学科2回生・英語コミュニケーションコース)

永井涼介(本学法学部法律学科2回生・英語コミュニケーションコース)

永井:
単純に「興味」からでしょうか。僕は使ったことがありませんが、噂で煙草よりも害は少ないと耳にします。そもそも覚せい剤より大麻の方が安くて購入しやすいのではないでしょうか?

海津:
以前、少年院を参観した際の話ですが、大麻と覚せい剤とシンナーだったら、昔はシンナーを吸っているのがカッコ良かったけど、今は大麻を吸っている方がカッコ良い風潮があるとうかがいました。以前は、大麻が入口となって次にシンナーを使用し、その後覚せい剤を使用していた流れが、現在は大麻から直接覚せい剤を使用するような流れになっているそうです。今や「シンナーはダサい」という風潮があることに驚きました。

山下:
警察庁「大麻に対する危険性の認識」(平成30年度)の調査(参照:政府広報オンライン)で、大麻取締法違反で検挙された716人に聞き取りをしたところ、76.1%の人は「大麻に対して危険という認識がなかった」と回答しています。きっかけ自体も「好奇心」で使ったという人が、検挙された人の52.1%を占めていたそうです。「興味」というところから入って、危険性を認識せず使って依存症に陥るということが主流になっていると思います。

前多:
近年ではインターネットを通じて大麻を簡単に購入する人が増えているそうです。さらに、購入した大麻を友達や後輩に押し付けることで、大麻使用者が増加してしまう。まさに悪循環です。薬物は、お酒や煙草同様、親しい人から勧められると断りづらいという声があります。本人の「興味」だけでなく、身近なコミュニティから薬物依存に陥ることも問題視しなけばなりません。一方で、本人が勇気を持って断ること、悪い関係を断つことも必要です。

―大麻が以前に比べて身近なドラッグになっているのかもしれませんね。
では、先日の「ドイツ×日本 犯罪学学術交流セミナー2019」でディスカッションした内容を改めてお聞きします。ドイツでは、2017年3月に医療目的の大麻が一部合法化されました。さらに近い将来、大麻使用の全面合法化も検討されています。
こうした世界的な潮流を受けて、日本においても大麻が非犯罪化あるいは、合法化されることに皆さんは賛成ですか、反対ですか?

森本:
僕は賛成です。気になって調べてきたのですが、大麻の使用が禁止されている理由は、大麻の葉に含まれているテトラヒドロカンナビノール(以下、THC)という成分に幻覚作用があるからなんです。具体的には、恐怖心が無くなり、ヒステリックになります。それで、大麻の使用が禁止されたと言われています。なぜこのような症状が出るかというと、THCが脳の偏桃体、人間の恐怖をつかさどる部分に影響を与えるからです。もちろん、個人によって、症状が強く現れることがありますが、お酒のアルコールも同じはずなんです。アルコールにも恐怖心を無くしたり、脳に悪影響を及ぼす危険な成分があります。それでもお酒は、日常生活で当たり前のように飲まれています。なので、大麻が脳の偏桃体に影響を及ぼすだけで使用禁止というのは、合理的ではない気がするんです。


森本夏樹(本学法学部法律学科2回生・石塚ゼミ)

森本夏樹(本学法学部法律学科2回生・石塚ゼミ)

永井:
僕は公共の福祉と社会的法益と自己責任の範囲の線をどこで引くかだと思うんです。大麻は自己責任の範囲で使用すれば良いと思います。また薬物使用のように、加害者と被害者が一致している場合、刑罰はいらないんじゃないかと思っています。今でも煙草が合法化されている理由が、僕のなかでは分からなくて…。煙草は、社会的法益の面から見ると、受動喫煙による健康被害や歩き煙草の火種で子どもが火傷する恐れがあり危険です。煙草が良いのであれば、他のドラッグも自己責任の範囲内で使用できるはずです。受動喫煙や火種のような問題が起きるのであれば、ドラッグも分煙や禁煙ルームの設置に似た別の対処の仕方があると思います。

山下:
僕は賛成というよりもまず、大麻をはじめ薬物の使用については日本のような刑罰では解決できないと思います。むしろ薬物依存症者の治療のための場所を増やした方が良いと思います。


―刑罰と治療という言葉が出てきたところで、日本の薬物政策に目を向けてみましょう。現在の日本の薬物政策について考えるにあたり、皆さんが持つ薬物へのイメージはどのようなものですか?


 山口未来(本学法学部法律学科2回生・石塚ゼミ)

山口未来(本学法学部法律学科2回生・石塚ゼミ)

山口:
薬物政策と少し話が逸れますが、薬物乱用防止教育についてお話させていただいても良いですか?中学生の時に、加藤武士さん(木津川ダルク代表・犯罪学研究センター嘱託研究員)が講演にいらっしゃったことがあったんです。薬物の使用から依存症に陥った経験者のお話を初めて聞き、学校で教わる内容と全然違ったのが印象的でした。実際に薬物依存症者でもダルクに入って社会復帰されている方が沢山います。それにも関わらず、「薬物を一度でも使用したら人生はおしまいだ」とする教育がずっとなされています。「社会復帰」というゴールがあることもきちんと示せば見方も変わるはずなんです。私は、加藤さんのお話を聞いたことで見方が変わりました。薬物依存症の当事者のお話って大事だなと思います。当事者の声を聞ける機会がもっと増えると良いのですが…。

山下:
僕は山口さんのような薬物に関する教育を受けた記憶がありません。ですが、薬物を使用したいと思ったことは一度もないし、薬物依存症者に対する偏見もありません。日本では薬物を使用すると罪を犯したことになりますが、他人に危害を加えたわけでもないのに、むしろ、薬物使用者へ厳しいまなざしが向けられることに違和感を覚えます。


山下敦史(本学法学部法律学科2回生・石塚ゼミ)

山下敦史(本学法学部法律学科2回生・石塚ゼミ)

前多:
僕は小学校で受けた薬物乱用防止教育の影響を大きく受けていると思います。「薬物を使ってはいけない」、「薬物は人生を変えてしまう」という考えが自分に強く根付いていると感じます。その影響もあって、薬物を使用する人を否定的な目で見てしまいます。「薬物を使ってしまう人は、我々ではどうしようもできない。だから考えても仕方がない」と。しかし、学校教育を経た同世代の方が薬物を使用したようなニュースを見聞きするうちに、現在の薬物乱用防止教育を見直すことも必要だと感じるようになりました。もちろん、薬物使用を肯定する教育はいけませんが、単に恐怖を煽る教育も思考を停止させてしまいます。良くないものだと分かっていても、人が薬物と関わるきっかけ、人が薬物を使用してしまう原因を分かりやすく説明するような教育があっても良いのでは。山口さんが体験した、薬物依存症の当事者の話を聞ける機会があると良いなとも思いました。

海津:
学校で流されている啓発ビデオでは、薬物を使用したことで人生を失敗した人の話ばかりなのが気になります。薬物依存から回復したとか、社会復帰したとかいう話があまりないですよね。薬物依存から回復できた事例を取り上げることも必要です。他にも幻覚が現れて、その幻覚がどんなふうに見えるかとか、虫が這いずり回ってとか、逆に薬物に興味を掻き立てるような内容も多いです。それに、「ダメ。」と言われたら、却って人間やりたくなってしまうものだと思います。

永井:
煙草のパッケージには肺がんや心筋梗塞になりますというマイナスの情報が書かれていますが、結局使っている人は、自分にとって、プラスの部分を享受しているわけですよね。科学的根拠は曖昧ですが、ストレスが減るとかリラックスできるとか。だから、薬物も海外では大麻が医療目的で使用されているプラスの部分もあれば、脳に悪影響を及ぼし依存から抜け出せないマイナスの側面もあるなど、両方を教えることが重要だと思います。一方的に「これはダメだ」と価値観を押し付けるのでなく、一人ひとりが薬物使用について、意見を持つことができる選択の幅が欲しいです。



―日本の薬物乱用防止教育について熱心に語っていただきありがとうございます。海外では、ハーム・リダクション政策*1など薬物依存症者に対して治療を施す政策が取られています。また、こうした政策をとる一部の国では、薬物使用者の数が減少したという成果が挙げられています。今後、日本でもこのような政策を積極的に取り入れていくべきだと思いますか?


海津更(本学法学部法律学科2回生・浜井ゼミ)

海津更(本学法学部法律学科2回生・浜井ゼミ)

海津:
依存症は刑罰を科しても治らないと思います。例えば、アルコール依存症だった人が、きちんと治療した結果、自分の意思をコントロールできるようになった事例があります。なので、海外で行われている政策を導入して、1人でも多くの薬物依存症者の回復を実現して欲しいです。国が主体となり、世間に薬物依存は回復できることを認識させ、偏見や誤解を解いていく。このままでは、薬物依存症者に対して悪いイメージばかりが広がってしまいます。

森本:
薬物使用を非犯罪化して、理解者を増やすというのも一つの考えだと思います。薬物使用者の中には、悩みを抱えながらも他人に打ち明けられずに依存症に陥っている人もいるはずです。表向きに相談できる場所を作ることで、薬物依存症者の精神の安定はもとより、再使用防止にも繋がると思います。使用している本人が、きっと一番辛い思いをしているはずなんです。

山下:
日本は薬物使用者や依存症者を排他的に扱い過ぎだと思います。そこをまず、変えていく必要があるのではないでしょうか?薬物依存症者の人が身近に話し合える場や、周囲の人に理解してもらえる場を作るのが大切だと思います。


―では、違法薬物を使用した人々が社会復帰するためには、どのような取り組みが必要だと思いますか?
永井:
社会復帰のプロセスとして、ボランティア活動を行うことを提案します。各地で清掃活動、ご飯の炊き出し、教育現場での講演など刑務所外の活動と結びつければ良いのではないでしょうか?黙々と作業するよりは、たくさんの人と交流できる機会があれば、自分一人で抱え込むことや心を閉ざすことも緩和されます。また、人とたくさん話をすることで、自分が薬物を使った理由を自然に理解できるようになります。だから、①刑務作業+②他のボランティア活動という形態を確立していければ状況は変わっていくと思います。

山下:
それに加えて、最近では懲役刑を無くすという考え方も提唱されています。応報刑の観点から見ると、薬物使用に関しては拘禁刑で応報は成り立っているという考えがあるようです。なので、自由に体を動かして働きたい人は刑務作業をやれば良いと思います。治療に専念したい人は、治療できるように、当事者に選択できる権利があれば良いなと考えています。

海津:
薬物依存を依存症者だけの問題でなく、国民の共通問題として考えられるようになれば良いと思います。一般的に、日本では薬物を使用したという犯罪行為を責めて、その後は無関心ということが多いです。そうではなく、まず「依存」という症状を国民の共通問題にすることが大事。「依存」は薬物に限らず、煙草やアルコール、ゲームなどにも通じる問題ですよね。こうした依存と同様に、国民一人ひとりが「依存をとりまく問題」に関心を向けるようになれば、薬物依存症者への理解が深まると思います。小さなことですが、社会復帰への一歩になるはずです。

森本:
人が薬物を使用する原因として「集団や仲間で法を犯して薬物を使用することが快感だ」という意見を耳にします。もしそうだとするならば、その逆も然りだと思うんです。薬物依存に陥った人たちが同じ当事者の集団や仲間同士で力を合わせることで同じ方向を向くことができる。それが、社会復帰に向けた大きな力になると思います。今後、国や自治体の政策の下、薬物依存症者が社会復帰できる支援場所が増えていけば良いですし、そうあって欲しいです。



―ありがとうございます。さいごに、今日のインタビューを振り返りいかがでしたか?


前多力斗(本学法学部法律学科2回生・浜井ゼミ)

前多力斗(本学法学部法律学科2回生・浜井ゼミ)

前多:
では、代表して最後にまとめさせていただきます。みんなそれぞれ意見を持っていてすごいと思いました。僕はどちらかというと、いまだに薬物に対しては、悪いイメージの方が強いです。しかし、今日のインタビューを通じて見えてきたことや考え直したこともありました。薬物を使用する人を立ち直れないと決めつけてはいけない。薬物を使う人も同じ人間なのだから、排他的な扱いをしても問題は解決しないと気付きました。依存から回復したいと願い、社会復帰を望んでいる人もいるのだから、関心を向ける努力をしようと思います。そう考えると、薬物依存に限らず、日本では犯罪者と非犯罪者を明確に分けがちです。両者の境界線や偏見を無くす取り組みも必要ではないでしょうか。結びとして、日本の薬物政策が、従来の刑罰を科す政策ではなく、治療に重きをおいた政策に転換していけば良いなと思いました。

犯罪学研究センター(CrimRC)担当スタッフ・コメント
「ドイツ×日本 犯罪学学術交流セミナー2019」、事後勉強会を経て、彼らが成長したことがあります。それは、自分の考えを自信を持って発言できるようになったことです。あくまで、学生の意見だと主張する方がいるかもしれません。しかし、一人ひとりが「日本の薬物問題と政策」について真剣に考え、意見を述べてくれました。ユースフォーラム参加チームの提言が、近い将来実現すれば、日本の薬物政策は大きく変わります。CrimRCでは引き続き、彼らの活動をレポートしていきます。

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補注:
*1「ハーム・リダクション」:
「被害を減らす」ことを目的とした施策。その根底に個人の違法薬物の所持や使用を罰するだけでは使用者やコミュニティへの悪影響は減らず、問題解決にならないという考えがある。国際的なNGO「Harm Reduction International」は、ハーム・リダクションを「薬物の使用問題において、必ずしも使用量が減ること/使用を中止することを目指すものではなく、使用による健康・社会・経済的な悪影響が減少することを目指す政策、プログラムとその実践である」と定義している。具体的には、鎮痛剤メタドンを投与する「メタドン維持療法」や、安全な注射器の配布・交換、注射室の設置のほか、住居や医療に関する相談窓口の設置や手続き支援がある。1980年代にHIVの流行が社会問題化した際「ハーム・リダクション・アプローチ」の有効性が認められ、欧州では現在多くの国が薬物政策に何らかの形で採り入れている。