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Junior College
短期大学部

学長メッセージ

2026年1月、学長執務室に一台の電子ピアノが運び込まれました。ただ、私に音楽の素養がないこともあり、いまだに音を奏でないままです。せめて、

ヒアシンス弾かぬピアノの上に置き

稲垣鷹人

という句のように花でも飾ればよいものを、それもせず、ときに穏やかな春めく陽の光を浴びながら、いまは部屋の一隅にぽつねんと佇んでいます。何とも気の利かぬ私です。

2023年5月、学校法人龍谷大学は、2024年度の入学生を最後に龍谷大学短期大学部の学生募集を停止するという苦渋の決断をしました。それから3年、この春には在籍する学生もごくわずかになります。こうして、75年にわたる“龍短”の歴史の幕を下ろすときが近づくにつれ、万感胸に迫るものがあります。

1950年に仏教学科から始まった龍短は、本学において文学部に次ぐ長い歴史を有しています。開設後、社会情勢の変化にも向き合いつつ、学科の増設や改組、再編などを重ねながら、建学の精神に基づく有為の人間の育成に取り組みつづけてきました。1万5千人近くを数える卒業生は、長きにわたって龍短が果たしてきた使命のかけがえのない意義を今後も証し立てる、貴重な存在です。この間、時間をかけて培ってきた龍短ならではの教学資源は、龍谷大学、そして地域社会の未来を育む豊かな土壌となっていくにちがいありません。

本学深草キャンパスの21号館の地下1階には、「入浴実習室」、「介護実習室」、「レクリエーション指導室」、「ピアノ室」、「調理実習室」、「図工・美術室」、同館3階には「こども教育多目的室」といった、龍短生たちが実践的な学びを通じて現場で必要な知識や技能を身につけるための実習施設が整備されていました。しかし、それらも今後は使用する機会がなくなります。そのため、まずはピアノ室にあったピアノについて、学内で活用のめどが立ったものを除き、その大半を業者に引き取ってもらいました。

そう、いま学長執務室にあるのは、処分されずにわずかに残った龍短のピアノの一台なのです。心ひそかに音楽への憧れを抱き、いつか鍵盤を弾けるように独習したいと思っていた私は、ピアノが処分されようとする直前にその話を耳にして、思わず「せっかくなら一台、執務室に」と言ったのでした。むろん、そのときは考えなしのたんなるわがままにすぎませんでした。関係者に余計な手間をかけさせてしまったことを、いまさらながら反省しています。と同時に、きれいではあるけれども使い込まれた感じもするピアノを目にする日々のなかで、別の感慨を抱くようにもなりました。多くの学生たちの成長を支え、見届けてきたこのピアノは、龍短の歴史の証人として、あるいはさまざまな思い出のよすがとして届けられたギフトなのではないか、と。これからの龍谷大学を見守ってくれる大切な宝物なのではないか、と。

龍短ピアノのことを教えてくれたのは、自身も独学で練習しているという大学職員でした。彼が貸してくれた教本は、いまはまだ机の上に置いたままです。

うららかや一本指のピアノ音

足立悦子

まずは指一本ででもいいから、鍵盤に触れて音を踊らせてみよう。いつかきっと、下手は下手なりに一曲でも弾けるようになろう。そんなことを思いながら、龍短を心に刻む2026年の春です。

これまで龍短で学び、あるいは龍短を支えてくださった多くの方々に、改めて心より感謝申しあげます。そして、龍谷大学短期大学部のよき遺産を受け継いでいく龍谷大学の未来を、今後もぜひ温かく見守りつづけくださいますようお願い申しあげます。

2026年4月

龍谷大学・龍谷大学短期大学部

学長  安藤 徹