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2022.03.07

「2021年度第2回 龍谷大学法情報研究会」実施レポート・後半【犯罪学研究センター】

位置情報取得捜査の最前線:リバース・ロケーション令状

2022年2月10日(木)、犯罪学研究センター「2021年度第2回龍谷大学法情報研究会 公開研究会」をオンラインで開催し、約35名が参加しました。

法情報研究会は、犯罪学研究センターの「法教育・法情報ユニット」メンバーが開催しているもので、法情報の研究(法令・判例・文献等の情報データベースの開発・評価)と、法学教育における法情報の活用と教育効果に関する研究を行なっています。

今回は3名の研究メンバーを迎え、前半は「法教育」について、後半は「位置情報取得捜査の最前線」について報告いただきました。今回は、後半のレポートを紹介します。
【>>EVENT概要】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-9826.html
【>>前半のレポート】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-10109.html
【>>これまでのレポート一覧】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-9218.html

 

■報告3:「位置情報取得捜査の最前線:リバース・ロケーション令状」
指宿 信 氏(成城大学 法学部・教授)

 指宿教授の報告では、アメリカでのジオフェンス令状に関する多くの事例紹介を通じ、さまざまな問題点が指摘されました。
 はじめに、ジオフェンス技術(特定地域・特定時間に滞留した携帯端末のアカウントを特定する技術)を用いたジオフェンス令状(リバース・ロケーション令状)について、昨年1月の米国連邦議会議事堂乱入事件の捜査経緯をもとに解説がありました。この事件は、襲撃者が投稿したSNS写真の情報から、FBIがGoogle社に対し位置を把握するジオフェンス令状を出し、得られたアカウント情報からユーザー情報の提出命令がFBIから出され、そこから氏名が判明、Facebookの顔写真から被疑者を特定し6月に起訴されたものです。
 このように、ジオフェンス令状は、民間で活用されているジオフェンス技術を用いて、位置情報サーバーに記録されたアカウント情報を提出させ、その後アカウント情報を絞り込み、個人の詳細なユーザー情報を開示させるものです。
 Google社のレポートによると、2018年からジオフェンス令状は開始され、2020年には1万件(毎週200件)以上が発付され、95%が州警察によるものでした。
2021年に日本で実施された民間調査によると、位置情報を知られたくない人は約50%いますが、地図情報のアプリとしてGoogle Mapを利用している人は83%にのぼります。実際は多くの人が自ら位置情報をGoogleに提供し、Google社のプライバシーポリシーによると、さまざまなユーザー情報を多岐にわたって収集されてしまっていると指宿氏は指摘しました。
 次に、ジオフェンス令状に関する米国法の動向について、令状却下の例と令状発付の例があり、判決はまだないものの係争中の事件があること、立法状況は、ニューヨーク州議会で2020年4月に「いかなる裁判所もリバース・ロケーション令状を出してはいけない」とする禁止法案が提出され、立法理由として思想信条の自由への侵害が述べられていること、論文は少ないもののいずれの著者も立法必要説に立っていることが紹介されました。
Google社を取り巻く状況をみると、Google社は、ユーザーは位置情報を管理できるとしていますが、2021年4月のオーストラリアでの消費者訴訟では敗訴し、2021年5月にアリゾナ州当局から、2022年1月にワシントンDC、テキサス、インディアナ、ワシントン州から消費者保護法違反で提訴されています。
 ジオフェンス令状の日本での適用例はまだないものの、個人情報保護法のガイドライン26条の規定から、ジオフェンス技術を用いた位置情報は「基地局に係る位置情報と比べ、高いプライバシー性を有する」こと、2021年8月に改正されたストーカー行為等の規制等に関する法律*1では位置情報無承諾取得が禁止されている(2条3項)こと、2017年GPS捜査最高裁判決*2の射程は及ばないだろうとの見解が示されました。
また、新しいデータ収集方法として、アカウント情報とキーワード検索情報を紐づけた「キーワード令状」について紹介がありました。Googleは詳細を明らかにしておらず、今後、大量のユーザー情報を集めているGAFA(Google, Amazon, Facebook(現Meta), Apple)等のプラットフォーマーが、捜査のエージェント化するのではないかとの指摘がされました。
 最後に、刑事訴訟法学では、データ駆動型の捜査手法は事前規制ではなく事後的に規制してはどうかとの議論があることが紹介され、日本の情報収集型捜査は規制がなく問題があるところ、さらにジオフェンス令状やキーワード令状が加わることへの懸念が示され、報告が終了しました。

 その後の質疑応答では、AI顔認識カメラや監視カメラの法的問題について意見が交わされました。以前はプライバシー侵害の観点からGPS情報収集の問題が議論されていましたが、いまは民間企業が膨大な個人情報を集めており、その情報を警察が入手できるかといった問題にシフトしていること、欧米では公共空間での顔認識技術の利用に対する事前規制や事後規制が行われ、欧州では民間企業や警察に対して制裁金が課せられているが、日本では公共空間ですら法規制はなく、個人情報収集の告知もされず、取得された個人情報の提供は収集者の自由となっており、争いになった際の取り決めがないといった問題があげられました。次に、個人情報の提供に関する法教育に必要なアプローチについて質問があり、犯罪被害にあわないこと、スマートフォンのアプリ一つ一つの個人情報が少なくても、それを乗っ取られることで情報が丸裸になってしまうことへの危機感を持ってもらうとよいのではないかとのアドバイスが指宿教授からありました。最後に、位置情報と顔認識情報の規制アプローチの違いについて質問があり、関連する最高裁判例などの歴史的展開や情報収集プロセスの違いに配慮した規制の仕組みを構築することが必要だろうとの意見が指宿教授より示され、終了しました。


指宿 信 氏(成城大学 法学部・教授)による報告の様子

指宿 信 氏(成城大学 法学部・教授)による報告の様子


ディスカッションの様子

ディスカッションの様子

【参考文献】
指宿信「スマホ位置情報の『一網打尽』捜査 『ジオフェンス令状』の正体」『世界』2022年1月号52-61頁

【補注】
*1「ストーカー行為等の規制等に関する法律」
(つきまとい等又は位置情報無承諾取得等をして不安を覚えさせることの禁止)
第三条 何人も、つきまとい等又は位置情報無承諾取得等をして、その相手方に身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせてはならない。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=412AC0100000081
背景と改正の概要については、警察庁HPを参照のこと。
https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/stalker/R03kaisei/index.html

*2 GPS捜査の最高裁判断(2017年3月)
2017年3月15日、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は、窃盗事件の上告審判決で、裁判所の令状を取らず捜査対象者の車両に全地球測位システム(GPS)端末を取り付ける捜査について、「違法」とする初判断を示した。
本件にかかる最高裁判所判例:
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86600

参考1:時事通信【図解・社会】GPS捜査の最高裁判断(2017年3月)
https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_soc_police20170315j-03-w320
参考2:指宿信編著『GPS捜査とプライバシー保護 位置情報取得捜査に対する規制を考える』(現代人文社、2018)
http://www.genjin.jp/book/b357138.html


【関連記事】これまでの法情報研究会レポート:
https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-9218.html