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2022.04.18

犯罪学研究センター公開研究会「鑑定人に対する損害賠償請求(民事)事件」を開催【犯罪学研究センター】

和歌山カレー毒物混入事件 〜裁判官は、科学者の不正を見抜くことができるのか?

2022年4月4日18:00より龍谷大学犯罪学研究センターは、公開研究会をオンラインにて開催しました。本研究会には、90名が参加しました。
【イベント情報:https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-10239.html
【記録映像:https://youtu.be/o1W0D71qTJs

和歌山カレー毒物混入事件(以下、和歌山カレー事件)は、1998年7月、和歌山県の自治体主催の夏祭りでカレーを食べた住民のうち4名が死亡、63名が重症、後遺症が残った方もいた事件です。本件で被告人となった林真須美さんは確定審で死刑判決を受け、再審請求審は最高裁に係属しています。


本研究会は、林さんが提起した鑑定人らに対する損害賠償請求(民事)事件に関する勉強会です。民事裁判の概要については、岩井信弁護士(第二東京弁護士会)が報告し、原告側の証人となった河合潤教授(京都大学大学院工学研究科)がコメントを行いました。ナビゲーターは石塚伸一教授(龍谷大学法学部、犯罪学研究センター長)がつとめました。

民事裁判の概要報告:岩井信弁護士(第二東京弁護士会)
本民事裁判の被告は、和歌山カレー事件の鑑定人です。岩井弁護士は原告弁護団の一員で、損害賠償請求の内容を、鑑定人らの①虚偽の鑑定書の提出・虚偽の証言が不法行為、②起訴前の私的記者会見での発言が名誉棄損行為であると説明しました。岩井弁護士は被告らが、刑事裁判の起訴前に、裁判所の外で開催し、「和歌山カレー事件で使われた亜ヒ酸と林さんの関係する亜ヒ酸と完全に一致する」と述べた私的な記者会見について名誉棄損であると指摘しました。本民事裁判では和歌山カレー事件の再審請求における弁護側の鑑定人の河合潤教授の証人尋問、検察側の鑑定人であった被告らにまず主尋問が行われ、別の日にそれぞれの反対尋問が行われましたが、2022年3月11日、大阪地裁は「原告の請求はいずれも棄却する」として訴えを認めませんでした。しかし、岩井弁護士は、判決の内容については今後の再審請求につながる点があった、と指摘しました。通常の不法行為責任は故意・過失で責任が生じるにもかかわらず、裁判所は被告らが鑑定および証言について「害意」があったとは言えないという判断をして請求を棄却する一方で、その判断過程で、鑑定の内容に踏み込んでいる点に注目しました。そして、裁判所が「鑑定の信用性(証拠価値)」に問題があることは(一部)認めていることを指摘しました。また、名誉棄損行為については「被告らの記者会見により、原告の社会的評価を低下させるもの」として認められましたが、記者会見から3年を経過しているため、訴えの権利は時効により消滅していると判断されたと説明しました。岩井弁護士は、裁判所が付言として、被告らの起訴前の私的な記者会見は、訴訟に関する書類を公判開始前に公にしてはならない等とする刑事訴訟法に「反しうるもの」だと判断していることに注目し、裁判所は被告らの行為に不快感を示していることを指摘しました。


岩井信弁護士(第二東京弁護士会)の報告資料より

岩井信弁護士(第二東京弁護士会)の報告資料より


コメント:河合潤教授(京都大学大学院工学研究科)
河合教授は、2022年3月11日大阪地裁民事裁判の判決で示された和歌山カレー事件における化学鑑定に関する裁判所の判断の意味について解説しました。河合教授は、本民事裁判で原告側証人として証言を行いました。判決文を読んだ河合教授は、鑑定人であった被告らが林さん関連の亜ヒ酸とカレー鍋のそばでみつかった亜ヒ酸を同一だと結論づけた鑑定は、亜ヒ酸資料について事前に受けた説明によって変わりうるものであったと裁判所が判断していると説明しました。一方で裁判所は、本件鑑定が学術論文に比べて精度が低く、劣った鑑定であったことを容認しているような判断を行っていることを指摘しました。さらに、本件鑑定で用いられた一部の手法について「どの程度確立しているかについて不明な点も残る」と裁判所が判断していることを指摘し、当時の鑑定人らの結論が一部正確でないことを認めた判決であると説明しました。今回の判決について河合教授は「いろいろな点で中途半端ではあるが、すごいことを認めている判決だと思う」と評価しました。


河合潤教授(京都大学大学院工学研究科)の報告資料より

河合潤教授(京都大学大学院工学研究科)の報告資料より


報告後、弁護団のメンバーの一人は、「裁判所が和歌山カレー事件の鑑定についてここまで踏み込んで、『信用できない』などと判断したことには驚いた」と述べました。石塚教授も本民事裁判の判決の意味について説明し、名誉棄損については認めながらも時効であるとして棄却したことについては「個人の名誉は一度、侵害されてしまうと取り返しのつかないものであることは周知の事実だと思う」と指摘しました。一方で鑑定に関する裁判所の判断は、「今日お二人にお話いただいたことが判決の中に現れているというのは、きわめて大きなことだと思う」と述べました。


写真左:河合潤教授/右:石塚伸一教授/下:岩井信弁護士

写真左:河合潤教授/右:石塚伸一教授/下:岩井信弁護士

※ 本研究会の記録動画は、当センターのYouTubeチャンネルで公開しています。ぜひあわせてご覧ください。


※ 和歌山カレー事件における科学鑑定に関する企画として、2021年9月に河合潤教授の「鑑定不正」研究会を実施しました。研究会のレポート・記録動画は下記URLをご参照ください。
https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-9357.html