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2022.09.16

公開研究会・シリーズ「鴨志田祐美の弁護士放浪記」第3回レポート【犯罪学研究センター共催】

「非法律的スキル」~弁護団のマネージメント、マスコミ戦略~

龍谷大学 犯罪学研究センター(CrimRC)は、刑事司法・刑事弁護をテーマに、2022年8月22日、公開研究会・シリーズ「鴨志田祐美の弁護士放浪記」をオンラインで共催しました。本企画には約60名が参加しました。進行は、石塚伸一教授(法学部/犯罪学研究センター)がつとめました。
本企画は、大崎事件再審弁護団事務局長、日本弁護士連合会「再審法改正に関する特別部会」部会長をつとめる、鴨志田祐美弁護士(京都弁護士会)によるものです。
【イベント情報:https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-10860.html


鴨志田祐美弁護士(京都弁護士会)

鴨志田祐美弁護士(京都弁護士会)


はじめに
第3回のテーマは、「非法律的スキル」~弁護団のマネージメント、マスコミ戦略~です。はじめに石塚教授より「日本の再審弁護はこれまで、職人気質の人たちが全身全霊をかけて行ってきました。旧刑訴法で裁判が行われた死刑無罪4事件もそうです。こうした弁護を担ってきた世代が高齢になり、世代交代が必要でした。そして司法改革によって再審弁護、刑事弁護には現代化が必要になりました。今は裁判官だけでなく、一般の人たちにも理解してもらえる立証をするという課題もあります。その中で鴨志田先生の大崎事件におけるマネージメント能力、社会への訴求力は非常に高く評価されています。今回、現代型の再審裁判についてお話いただく良い機会になると思います」という企画趣旨が述べられ、講演が始まりました。

大崎事件における新しい証拠
前回は、1975年10月15日に鹿児島県大崎町で原口アヤ子さんの義弟(仮名:四郎)が、自宅横の牛小屋の堆肥の中から遺体で発見された「大崎事件」の概要と再審弁護についての報告でした(詳しくは前回のレポートをご参照ください)。今回は、大崎事件における「非法律的スキル」のお話です。
本件の第4次再審請求では、旧来型の弁護団ではできなかった新しいタイプの証拠をつくりました。まず周防正行監督の協力を得て、被害者の四郎さんが道路に寝そべっているところから、近隣のIさんとTさんがトラックの荷台に放り込んで家に帰るという実写再現動画をつくりました。つぎに四郎さんの当時の自宅は既に取り壊されているため、四郎さんが自宅に着いてから家に運び込まれる場面について、IさんとTさんの供述に基づいた3DCGを作成しました。これによって、IさんとTさんの供述がどれほど食い違っているのかをリアリティをもって再現することができました。これらの再現のための資金は、周防監督が呼びかけ人となって行ったクラウドファウンディングで調達しました。


大崎事件の人物関係図

大崎事件の人物関係図

刑事事件・再審事件における弁護団
一般に弁護団による活動が想定されるのは、刑事事件・再審事件、行政訴訟・国家賠償請求訴訟、消費者訴訟等の集団訴訟、医療訴訟・労働訴訟です。今回は刑事事件の再審事件における弁護団について考えていきます。1人で行っていた弁護を周りの人にサポートを求める形で集まって行く自然発生型もあれば、メンバーを選んで戦略的に形成する戦略的結成型など、弁護団の結成タイプはさまざまです。
弁護団には、弁護方針の決定、書面の起案、証拠の収集、調査・実験、文献・判例のリサーチ、証人や専門家の人選、意見書や鑑定の依頼、尋問やプレゼンの準備など、さまざまな活動があります。これらの活動をチームとして円滑・効率的に行うための弁護団運営を考える必要があります。
弁護団運営のためには、まず弁護団局長、事務局長を選びます。弁護団長は鷹揚な人物、事務局長はマネージメント能力のある人物が適任であるように思います。そして弁護団内でそれぞれの専門家への鑑定依頼のための班(大崎事件であれば「法医学班」「供述心理鑑定班」など)をつくります。弁護団では会議を行って意思決定をしていきますが、会議の頻度や調整、会議の方法、意思決定の方法、情報・議論の共有など、さまざまな調整が必要です。また運営の際には、さまざまなデジタルツール(情報共有用のクラウド、オンライン会議)を用います。その他、会計管理、弁護団名簿の管理なども必要です。
ここで弁護団事務局長の仕事をみていきます。事務局長は弁護団のマネージメントを行います。対内関係では、弁護団会議の企画、運営、議案・議事録の調整、スケジュール管理、会計・名簿の管理、記録の整理、管理などを行います。対外関係では、裁判所・検察庁、相手当事者との折衝、マスコミ対応、集会、イベント等の開催の調整、当事者、支援者等との良好な関係の構築が必要です。そしてマネージメントを行う上で必要なのは、法律的なスキルだけではありません。対内関係では発言しやすい雰囲気づくり、メールの返信は即時、事前の根回しや大事なことは電話、お礼と労いと軽口は忘れない、議論が対立した際は「弁護団の目的はひとつ」であることを思い出させる、ということを心がけています。対外関係としては、書記官、事務官には敬意をもって接する、対外窓口は一本化して得た情報は共有する、「弁護団の顔」であることを忘れないということを心がけています。

再審事件とメディア戦略
大崎事件弁護団がメディア戦略を意識したのは、ひとつの契機がありました。第1次再審特別抗告審で最高裁判所調査官に対して、弁護団が「検察官に意見書提出の期限を伝えたか?」と質問したところ、調査官は「そんなことはしていません。重大事件ならともかく」と答えました。あまりにひどい発言です。裁判所に再審を認めさせるためには「重大事件」と思わせなければならないということを骨身にしみて実感しました。そしてマスコミと世論の認知が不可欠であると意識しました。しかし、刑事事件のメディア戦略は容易ではありません。通常事件は現在進行形で事実が判明するため初期報道にはリスクが伴います。一方、再審事件は有罪が確定しているため、無罪主張のリスクはありません。さらに再審請求手続きは非公開であるため、弁護人が唯一の情報源であるため、弁護人が発信しなければ情報は伝わりません。
大崎事件のメディア戦略は大きく分けて2つあります。1つ目は、地元メディアの論調を固めることです。これは伝えるべきこと、伝えてほしいことを正確に伝えてもらうことが最大の目標です。記者会見だけでなく、丁寧な記者レクを頻繁に開催したり、解説パワーポイントのPDFデータや仮名処理した書面など「手土産」を持たせたりなどの工夫をしました。2つ目は、全国のマスコミに波及させることです。他事件の記事で大崎事件を言及させるため、「再審格差」という概念を活用すること、事件記事→特集→コラム→雑誌→テレビ番組という報道の「雪崩現象」をめざすこと、新聞でまとめサイトをつくってもらうなど継続的な掲載をしてもらうこと、「週刊東洋経済」「女性自身」ネットメディアなど新たな購読者層へのリーチをすることを心がけました。
最後に、マスコミに「我が事」として考えてもらうための工夫を紹介します。報道内容に関しては、会見ではわかりやすい説明と言葉を使って具体例を示すこと、「見出し」を意識したキャッチコピーをつくること、公人は徹底的に実名表記、私人は関係者の意向を尊重すること、「その報道が依頼者にマイナスにならないか」を常に自問することを意識しています。メディアとの関係構築に関しては、幹事社を活用すること、朝刊・夕刊の原稿締切時刻、テレビのニュース番組の放映時刻を意識して記者会見を設定すること、約束事の確認と徹底、その上で守らなかったメディアには厳しい対応で臨むこと、情報の提供と時期は全社一斉を原則とすること、報じるのは「会社」ではなく「人」であることを意識することを心がけました。このように「よき伝え手」を育てて、彼らに「これを報じなければ」という切実な思いをもってもらうことが一番重要だと思います。

第4回のテーマは、「持続可能な予後のために ~少年事件の「付添人」~」です。
是非、ご参加ください。


【イベント情報:https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-11131.html

当日の記録映像をYouTubeにて公開しています。ぜひレポートとあわせてご覧ください。
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