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2022.11.09

犯罪を行った高齢者の居場所と出番をテーマに、再犯防止に関わる支援者が集いえんたく会議を実施【ATA-net研究センター/犯罪学研究センター】

ATA-netが考案した討議スキーム課題共有型“えんたく”を活用

【ポイント】
● 龍谷大学は、2020年3月23日に京都府と「犯罪のない安心・安全なまちづくりに関する協定」を締結し、2020年度より事業を開始。
● 2020年度には、犯罪学研究センターの学術的知見をもとに、犯罪や非行をした人たちの実情や立ち直り支援の活動を伝えるハンドブックを発行。
● 2021年度から、オール京都で再犯防止を推進するための新たな基盤づくりを目標に、ATA-netが考案した討議スキーム課題共有型“えんたくを活用した研修の3回目を開催。今回は、ハンドブックで取り上げた高齢犯罪について共に検討。

2016年の『再犯防止推進法』制定によって、地方自治体においても再犯防止事業に関する法令の整備および事業計画の策定が求められたことから、犯罪学者の協力が求められる機会が増えています。犯罪学研究センターにも複数の自治体から要請があり、研究メンバーが専門家として関与し、研究から得たエビデンス等の社会実装に努めています。
これらの活動を踏まえ、2019年度に京都府と「犯罪のない安心・安全なまちづくりに関する協定」*1を締結し、2020年度には石塚伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長・ATA-net研究センター長)が監修者となり『 “つまずき”からの“立ち直り”を支援するためのハンドブック』を発行しました。
2021年度から「京都府再犯防止の推進に関する研修会」と題し、このハンドブックで取り扱った内容やハンドブックから着想を得て、研修会を開催してきました。今回は、3回目の研修会となりました。
【>>関連News】
・第1回研修会 https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-9350.html
・第2回研修会 https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-10180.html


2022年10月19日(水)、龍谷大学深草キャンパス至心館1階、矯正・保護総合センター内のフリースペースにて、ハンドブックで取り上げた事例をモデルに「犯罪を行った高齢者の居場所と出番」について課題共有を行いました。府庁内および京都府下の自治体の関係部局担当者をはじめ、矯正施設職員、保護観察官、保護司を含むボランティアなど、受刑者の社会復帰に携わる多様な関係者を含む約40名が参加しました。組織上の立場だけではなく、個人の知見を元にご発言いただき、理解を深めることを目的としました。

研修の司会は、山口裕貴氏(ATA-net研究センター・嘱託研究員)が担当し、ATA-netの研究活動で培ってきた討議スキーム・課題共有型円卓会議“えんたく”*2を用いて実施しました。ここで共有された話題は、ファシリテーショングラフィックとして暮井真絵子氏(本学法学部・非常勤講師)がインターネットを利用してメモ共有サイトにまとめました。


山口裕貴氏(ATA-net研究センター 嘱託研究員)

山口裕貴氏(ATA-net研究センター 嘱託研究員)


暮井真絵子氏(本学法学部・非常勤講師)

暮井真絵子氏(本学法学部・非常勤講師)

はじめに、暮井氏がハンドブック掲載の「窃盗を繰り返す高齢者」に関する事例を紹介し話題提供を行いました。次に、これまで受刑者や出所者に多方面から関与してきたステークホルダーの代表者4名(研究者、更生保護施設長、刑事施設職員、保護観察官)がそれぞれの経験から得られた知見やエピソードを紹介しました。そこでは、刑罰や刑事施設運営のコストなどの受刑者や出所者全般に共通する課題から、特に高齢者、女性に特有の課題まで多岐にわたり課題が共有されました。


課題共有型円卓会議“えんたく”のようす

課題共有型円卓会議“えんたく”のようす


つづいて設けられたシェアタイムでは、オーディエンスを含めたフロアの参加者全員が3人1組のグループに分かれて話し合いを行い、課題を共有しました。ここで話し合われた課題は、グループごとにメモ共有サイトに書き込み、フロア全体でその内容を共有しました。各グループでは、「寂しさや孤独」、「地域住民との繋がりの欠如」、「軽微な犯罪を繰り返す高齢者へ科す刑罰の意義」、「支援の限界」などが話題に挙がったことがわかりました。ここでも、社会復帰支援に関する総論的な課題から、高齢者、女性高齢者への各論的な支援の在り方等、幅広く話し合われました。
会の後半では、ステークホルダーの代表者4名がそれぞれコメントを行い、約3時間におよぶ“えんたく”が終了しました。


シェアタイムで挙がったキーワード

シェアタイムで挙がったキーワード


シェアタイムの様子

シェアタイムの様子

“えんたく”終了後には、石塚伸一教授(本学法学部・ATA-net研究センター長)が今回の研修会を振り返り、次のように述べました。
「再犯防止には、『支援をしたい人』と『支援を受けたい人や受けなければいけない人』がいる。しかし、それがうまくマッチングしない場合がある。切れ目のない支援が必要ではあるが、必ずしも“繋ぐ=シームレス”である必要はない。出所後に新しい人生を生きていく人たちの支援ができるように『編み目のような連携』を行うことが重要である。


石塚伸一教授(本学法学部・ATA-net研究センター長)

石塚伸一教授(本学法学部・ATA-net研究センター長)

特に高齢の出所者は、スマートフォンを持ったとしても、連絡できる相手がほとんどいなかったりする。そうなれば、より孤独、孤立を感じるであろう。社会生活のツールとして使い方を教えるだけでなく、例えば、SNSで繋がって、出所者に日常生活を投稿してもらったり、それに支援者側がリアクションをするのはどうだろうか。ポストコロナのなかで、新しいコミュニケーションの在り方を模索することも必要であろう。」と提案し、今回の“えんたく”を締めくくりました。

研修会終了後には参加者の皆様に、会場である矯正・保護総合センター内の模擬刑事司法システム実験スペース(法廷)や接見室、審判廷、取調室を見学していただきました。

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補注:
*1 犯罪のない安心・安全なまちづくりに関する協定

2016年12月に成立、施行された「再犯の防止等の推進に関する法律(再犯防止推進法)」においては、再犯の防止等に関する施策を実施等する責務が、国だけでなく地方公共団体にもあること(第4条)が明記されるとともに、都道府県及び市町村に対して、国の再犯防止推進計画を勘案し、地方再犯防止推進計画を策定する努力義務(第8条第1項)が課されました。この法律は、犯罪や非行をした人たちの社会復帰を支援するための初めての法律です。京都府では、2020年3月23日に龍谷大学と協定を締結し、庁内のすべての関連部局が連携し、再犯防止施策を推進していくこととしています。
参照:京都府HP https://www.pref.kyoto.jp/anshin/news/kyotei.html

*2 課題共有型円卓会議“えんたく”
アディクション(嗜癖・嗜虐行動)からの回復には、当事者の主体性を尊重し、その当事者の回復を支えうるさまざまな状況にある人々が集まり、課題を共有し、解決に繋げるための、ゆるやかなネットワークを構築していく話し合いの場が必要です。石塚教授が代表をつとめる研究プロジェクト「ATA-net(Addiction Trans-Advocacy network)」では、この「課題共有型(課題解決指向型)円卓会議」を“えんたく“”と名づけ、さまざまなアディクションからの回復支援に役立てることをめざしています。
地域円卓会議と呼ばれる討議スキームは、その目的によって、問題解決型と課題共有型に分かれます。また、参加主体によって、当事者(Addicts)中心のAタイプ、当事者と関係者が参加するBタイプ(Bonds)、そして、協働者も加わったCタイプ(Collaborators)の3つに区分され、、今回は府庁内および京都府下の自治体の関係部局担当者をはじめ、矯正施設職員、保護観察官、保護司を含むボランティアなど、受刑者の社会復帰に携わる多様な関係者を交えて、課題共有型・Cタイプ(Collaborators)の“えんたく”を行いました。