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2023.05.24

寝屋川市において監視カメラの実態調査および罪認知件数減少に向けた施策提言を実施【犯罪学研究センター】

街歩き調査から見えてきた防犯施策をめぐる課題

龍谷大学 犯罪学研究センターは、2020(令和2)年度より寝屋川市「犯罪認知件数減少に向けた施策立案事業」にかかる研究を受託し、犯罪学の知見に基づく防犯施策の推進に寄与しています。*1


本受託研究では、犯罪認知件数の減少と市民のみなさんが安心して暮らすことができるまちづくりの推進を目的に、犯罪学研究センターと寝屋川市(危機管理室監察課)とが協働して、犯罪や非行に関するさまざまな実態を調査しながら課題を共有しています。意見交換の場では、さまざまなステークホルダーを嘱託研究員に擁する犯罪学研究センターの強みを活かし、寝屋川市に対して犯罪学に関する先行研究の紹介とエビデンスに基づいた政策提言を行っています。

2022(令和4)年度事業は、監視カメラ(Closed-Circuit Television: CCTV)に焦点をあて、寝屋川市域におけるCCTVの設置状況とCCTVの管理・運用の実態を把握するための調査研究を行いました。研究チームは、市が管理運用している約2,000基のCCTVのうち、警察からの照会依頼の記録簿をもとに平均10件以上と10件未満の設置場所を対象に調査を実施。過年度の研究成果を踏まえながら意見交換を重ね、今後の課題をまとめた最終報告書を寝屋川市に提出しました。


街歩き調査の様子。

CCTVの歴史は、情報通信技術や電子機器等の発達とともにあり、現在では、世界中のあらゆる都市にCCTVが配置されています。しかし技術の発達が新しい問題も引き起こしています。「顔認識カメラを使って、刑務所からの出所者と仮出所者の一部を駅構内などで検知する防犯対策を実施している」と読売新聞が報じた記事*3は、大きな話題になりました。
CCTV は、「犯罪を起こしやすい状況を改善し、犯罪を起こしにくい状態に変えていく防犯対策 (Crime Prevention Through Environmental Design; CPTED)」のひとつとして活用さています。(環境)犯罪学理論でよく引用されるのは、フェルソンとコーエンによる「日常活動理論:routine activity theory」や、クラークによる「状況的犯罪予防論:situational crime prevention」です*4。しかしいずれの理論も、CCTV単体での運用の効用については留保をつけているか否定的であることに注意を要します。監視カメラの犯罪抑止効果に関する研究は英米を中心として40年もの蓄積があります。その手法は、条件を整えた一つ以上の「無作為比較対象実験(randomized control trial :RCT)」に加え、類似の調査研究を精査し、メタ分析の手法を用いた「系統的レビュー(systematic review)」を作成するというものです。系統的レビューによると、CCTVによる監視は暴力犯罪の抑止には効果的ではないが、他の防犯手段と併用すれば、駐車場における乗物盗に対しては一定の効果があると結論されています*5。

研究チームは寝屋川市と意見交換を重ね、①CCTVの運用に改善の余地があること、②地域住民の犯罪不安を和らげるために、縦断的調査や実験的研究によって、犯罪不安と社会的要因との因果に関する調査を実施する必要があることを確認しました。

研究チームが寝屋川市に対しておこなった提言は次の5つになります。

【提言1】 監視カメラの適正な配置と管理
2022年度調査で明らかになった「監視カメラ(CCTV)」に対する2つ視点、すなわち、市民の視点(「安全カメラ・安心カメラ」)と、法執行機関の視点(「捜査カメラ」)について、それぞれの機能と目的に応じて、適正かつ効果的な配置を検討する。また、市域内のCCTV について、①利用状況、②使用頻度、③周辺環境の変化などを、定期的に点検する体制を整備すべきである。
【提言2】 「市民アンケート」の継続
住民の市政に対する関心と満足度、犯罪に対する安全と安心など関する意識調査は、その変化を系時的に把握するため、継続的アンケート調査を実施すべきである。
【提言3】 社会的信頼に関する実験的・実証的調査
これまでの調査研究によって、犯罪不安や犯罪対策に対する満足度は、生活環境に関する満足度と、一定の相関関係にあることがほぼ明らかになった。 政策立案のためには、質問事項を構造化した、社会的信頼に関す実験的調査が有効である。
【提言4】 市民の防犯活動へ参加意識の醸成
これまでの調査研究によって、治安に関する安心・安全の意識は、地域や 行政への信頼と関わっていることが明らかになった。市政が信頼を獲得するために最も重要な要因は、市民の参加意識である。市民参加型の防犯活動や 再犯防止活動を推進すべきである。
【提言5】 市政への信頼と透明性の高い市政
市政に対する市民の関心を高めるためには、適切な情報の提供と透明性の高い運営が求められる。そのためには、広報活動や情報公開について、より一層の工夫が求められる。

津島昌弘教授(本学社会学部、犯罪学研究センター長)は、本受託研究の意義について最終報告書で次のように述べました。

「今回、寝屋川市が防犯施策の推進に際して、龍谷大学犯罪学研究センターに研究の依頼がなされたことは、市当局の本気度が伝わってくるとともに、日本の犯罪学の専門知が試されている、と受け止めさせていただいた。私たちは、できるだけそれに応える形で調査研究に取り組んできた。本報告書の内容をもとに、市の防犯施策等が科学的エビデンスに裏付けられた合理的なものになっていくことを期待している。本報告書の内容が市民のみなさんに、わかりやすく伝わることを願っている。そして、それが寝屋川市の市民の安心と地域の防犯への理解と参加につながれば幸いである。」

当センターは、今年度も引き続き寝屋川市より本事業を受託することになりました。過年度の調査研究で明らかになった諸課題に取組むほか、大阪重点犯罪のうち自転車盗に焦点をあてた調査を行う予定です。これからも犯罪学研究センターは研究成果を地域社会へ実装・還元するための活動に、積極的に取り組んでいきます。

【補注】
*1(参考)
寝屋川市「犯罪認知件数減少に向けた施策立案事業」に協力【犯罪学研究センター】
市民の体感治安向上のため、犯罪学の知見をまちづくりに活かす (2021.05.06)
寝屋川市と協働で「治安に関するアンケート調査」を実施【犯罪学研究センター】
どのような人が犯罪不安を抱えやすいのかを専門家チームで調査 (2022.06.01)

*2本報告書の作成にあたっては、下記メンバーの体制で行った(肩書は2023年3月当時)。
石塚 伸一 (龍谷大学・法学部・教授、)
上田 光明(日本大学・国際関係学部・国際総合政策学科・教授)
竹中 祐二(北陸学院大学・人間総合学部社会学科・准教授)
津島 昌弘(龍谷大学・社会学部・教授、犯罪学研究センター長)
David Brewster(金沢美術工芸大学・美術工芸学部・一般教育等・講師)
西本 成文(龍谷大学 犯罪学研究センター・リサーチアシスタント)
丸山 泰弘(立正大学・法学部・教授)
森  丈弓(甲南女子大学・人間科学部・心理学科・教授)

*3・【独自】駅の防犯対策、顔認識カメラで登録者を検知…出所者の一部も対象に(読売新聞2021/09/21)
 ・駅で出所者の「顔」検知、JR東が取りやめ…「社会の合意不十分」と方針転換(読売新聞2021/09/22)
*4 Cohen,L.E. and Felson,M., 1979,“Social Change and Crime Rate : A Routine Activity Aproach”,in American Sociological Review,44(4):588-608.
Cornish,D.B. and Clarke,R.V. , 2003,“A Reply to Wortley's Criticize of Situational Crime Prevention” Smith,M.J. and Cornish,D.B(eds.) Crime Prevention Studies,16:41-96.

*5(参考)
Eric L. Piza, Brandon C. Welsh, David P. Farrington, Amanda L. Thomas,2019, “CCTV surveillance for crime prevention A 40 year systematic review with meta- analysis”, Criminology & Public Policy. ;18:135–159.
なお、犯罪学研究センターHPでも、キャンベル共同計画がまとめた系統的レビューを翻訳し、公開している。
防犯カメラの監視:犯罪抑止効果(犯罪学研究センター・キャンベル共同計画)