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2023.07.19

シンポジウム「人質司法を考える」を大阪梅田キャンパスで開催【刑事司法・誤判救済研究センター】

ひとごとじゃないよ!人質司法

2023年6月30日、公益財団法人「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」及び一般財団法人「イノセンス・プロジェクト・ジャパン(IPJ)」による刑事司法に関する共同キャンペーン第1回シンポジウム「人質司法を考える」が、龍谷大学大阪梅田キャンパスで開催され、約150名(対面50名、オンライン約100名)が参加しました。



龍谷大学刑事司法・誤判救済研究センターは、プレサンス元社長冤罪事件弁護団、IPJ学生ボランティア、KONANプレミア・プロジェクト「他分野の力を集結して「えん罪救済」に取り組むプロジェクト」と共に、当シンポジウムの開催に協力しました。
>>龍谷大学 刑事司法・誤判救済研究センター
>>EVENT情報】 【>>プレスリリース


斎藤司教授(IPJメンバー/刑事司法・誤判救済研究センター長)の司会により進行されたシンポジウムは、はじめに石塚章夫IPJ理事長(弁護士)開会のあいさつが行われ、その後、土井香苗(HRW日本代表)により、「日本の人質司法」報告書の概要について説明が行われました。

「日本の人質司法」報告書は、HRWのシニア・カウンセルであるサループ・イジャズ弁護士の調査に基づいて執筆されたものであり、調査は2020年1月から2023年2月まで、8都道府県において、否認・黙秘した元被疑者30名に加えて元被疑者の家族や弁護士、研究者、ジャーナリストなど26名に対する対面及びオンラインインタビューを通じて日本の刑事司法の実体を調べた内容となります。さらに日本の現状が国際基準と比べた結果、日本の現状と国際基準のギャップを埋めるための政策提言も含まれています。
>>日本の人質司法


渕野貴生教授(IPJ理事/立命館大学)による「人質司法」の問題点についての発表は、「人質司法」の実際上の問題として、被疑者の逃亡の防止、罪証隠滅の防止という身体拘束の本来の目的ではなく、刑事訴訟法では認められていない取調べを目的とした身体拘束が、黙秘権侵害になることを指摘しました。

また、日本の身体拘束制度は、諸外国の制度と質的に異なるわけではないが、身体拘束制度の運用によって身体拘束制度が取調べや自白追及と結びつくことになること、起訴前は23日間に及ぶ身体拘束期間中に自白を追及する連日・長時間の取調べが行われ、起訴後も被告人の否認は罪証隠滅の危険があると評価され、容易に保釈が認められないために、「人質司法」は身体解放のために虚偽の自白をするという冤罪の直接的な原因になると指摘しました。
そして、「人質司法」の法的問題として、起訴後の保釈が容易に認められないことは被告人の防御権行使の侵害を超え、被告人を国家権力に屈服させる行為、すなわち人間の尊厳を損害すること、「人質司法」は身体不拘束の原則と結びついて無罪推定原則に対する侵害であると指摘しました。


 
笹倉香奈教授(IPJ事務局長/甲南大学)によりHRWとIPJの共同プロジェクトについての報告が行われました。

HRWとIPJは、えん罪事件の背景には「人質司法」があり、「人質司法」はえん罪の原因となっている現状を改革すべく、シンポジウム開催日である2023年6月30日から、共同プロジェクトを立ち上げることにしました。
共同プロジェクトの名称である「ひとごとじゃないよ!人質司法」は、すべての人が人質司法の被害者になり得る、この想いで制度・運用を改革しないといけないために誕生しました。これからは「人質司法」の問題について、さらなる実態調査及び一般市民、司法、立法府に向けての発信、人権を保障し、えん罪のない社会を実現する刑事司法制度の改革を目指します。
>>ひとごとじゃないよ!人質司法ウェブサイト


亀石倫子弁護士(IPJメンバー)の司会で、山岸忍氏(プレサンスコーポレーション元代表取締役)及びプレサンス元社長えん罪事件弁護団の秋田真志弁護士(IPJメンバー)、中村和洋弁護士(元検察官)、西愛礼弁護士(元裁判官)に「人質司法」の実体験に基づくプレサンスコーポレーション事件の話を聞きました。


【左から、秋田真志弁護士、西愛礼弁護士、中村和洋弁護士、山岸忍氏、亀石倫子弁護士】

【左から、秋田真志弁護士、西愛礼弁護士、中村和洋弁護士、山岸忍氏、亀石倫子弁護士】


プレサンスコーポレーション事件とは、21億円の業務上横領が問題となった事件で、山岸忍氏が大阪地検特捜部に逮捕・起訴され、248日間にわたり勾留され、「人質司法」の被害者となった事件です。詳細は、山岸忍『負けへんで!東証一部上場企業社長vs地検特捜部』(文藝春秋、2023年)に書かれています。

山岸忍氏は、同時期に任意の取調べを受けた2名(その後、2名は逮捕され供述を強いられたとされる)の供述ではなく、捜査機関が描いたストーリーによって共犯とされたと説明します。山岸忍氏は、勾留中に独居房で過ごすことになり、一日中の話し相手は取調官以外にいないと言っても過言ではありませんでした。
山岸忍氏は、身体拘束される前から自分を担当した取調官は親切で、身体拘束された後も取調官が自分の味方だと思い、弁護人よりも取調官を信じるような心情になってしまった、と語りました。そして、黙秘権の行使、すなわち黙秘することについて、自分が悪いことをしたと認識しなかったため、黙秘する必要がないと思う一方で、検察官からも黙秘することは卑怯だと言われていました。
山岸忍氏が勾留されてから保釈されるまで8ヶ月間かかり、身体拘束中5回の保釈請求は抽象的な理由に基づいて却下され、6回目の請求で保釈が認められました。6回目の保釈請求は保釈のために15個の条件を付したものでありました。
秋田真志弁護士は、被疑者取調べの録音・録画制度が導入されてからもプレサンスコーポレーション事件のような不祥事が起きたことは、現行制度を変える必要があり、取調室に弁護人を立会わせるしかないと説明しました。


【郷原信郎弁護士】

【郷原信郎弁護士】

以上のディスカッションを受けて、郷原信郎弁護士(元検察官)から東京地検特捜部での「人質司法」を中心にコメントを頂きました。郷原信郎弁護士は「人質司法」で特に問題となるのは、捜査機関の判断で立件した、立件型事件であり、捜査機関の判断が間違えていないことを証明するために必死になることで、深刻な人権侵害が発生すると説明しました。

また、郷原信郎弁護士は裁判所も複雑な事件に関しては裁判が始まるまでは、誰よりも検察が事件の詳細を知り、検察の言う通りにしておくのが無難であるという考えから抜け出せないことに気付き、そのために検察官から嘘のような意見が述べられることの問題を指摘し、容易に保釈が認められる制度に変える必要性を述べました。


【イェスパー・コール(Jesper Koll)氏】

【イェスパー・コール(Jesper Koll)氏】

つづいて、行われたパネルディスカッション「国際社会からみた日本の刑事司法とビジネス」では、イェスパー・コール(Jesper Koll)氏(エコノミスト、マネックスグループ専門役員)から、外国人、特に外国のビジネスマン、投資家の立場から見ると日本で逮捕・勾留されることは、ブラックホールに吸い込まれることになり、逮捕・勾留後のプロセスの不透明性問題から、先進国である日本の刑事司法が諸外国のロールモデルになれるのか?という疑問を投げかけ、「人質司法」を経済的観点から語られました。

さいごに、川崎拓也弁護士(IPJ理事)による閉会のあいさつが行われました。
川崎拓也弁護士は、「ひとごとじゃないよ!」を考えるとき、最もひとごとじゃないと思う人が、最も人質司法の犠牲者に近い存在になっていると注意を喚起しました。

HRWとIPJの共同プロジェクトの次のイベントは、この秋に国会の議員会館で行う予定です。

【2023.06.30シンポジウム「人質司法を考える」・関連情報】
◎アーカイブ配信・全編はこちら(YouTube)から
◎イノセンス・プロジェクト・ジャパン 学生ボランティアスタッフによるレポート