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2023.12.25

「人質司法サバイバー国会」開催レポート【刑事司法・誤判研究センター】

永田町・参議院議員会館で開催

2023年11月10日、公益財団法人ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)一般財団法人イノセンス・プロジェクト・ジャパン(IPJ)の共同プロジェクトである「ひとごとじゃないよ!人質司法プロジェクト」の主催による日本初の「人質司法サバイバー国会」が永田町・参議院議員会館で開催され、およそ190名が参加しました。


 
 
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龍谷大学 刑事司法・誤判研究センター(RCWC)は、刑事弁護オアシスと共に開催に協力しました。

 
イベントは総合司会である土井香苗氏(HRW日本代表)と笹倉香奈氏(IPJ事務局長)からの挨拶の後、まずは土井氏により、人質司法とは何か、人質司法の問題、そして人質司法サバイバー国会の趣旨について簡単な説明が行われました。


左から、総合司会の土井香苗氏、笹倉香奈氏

左から、総合司会の土井香苗氏、笹倉香奈氏


川﨑拓也弁護士(IPJ理事)

川﨑拓也弁護士(IPJ理事)

 
続いて川﨑拓也弁護士(IPJ理事)より、人質司法を打破することは、より良い刑事司法制度の実現に不可欠であるとの開会挨拶がありました。

その後の基調トークには、引き続き川﨑拓也弁護士をモデレーターとして、村木厚子氏及び山岸忍氏が登壇しました。
両氏からは、長期間に渡る勾留の中で、外部からの情報を得られなかったことの苦痛が語られました。また、村木氏の無罪判決後に設置された「検察の在り方検討会議」、そして「検察の理念」の公表から10年を経ても、いまだ取調べの実態は変わっていないことがそれぞれの体験談から明らかになりました。現状を変えるためには制度改革が不可欠であることが伝わる基調トークでした。


左から、村木厚子氏、山岸忍氏

左から、村木厚子氏、山岸忍氏


 
続いて、人質司法サバイバーからのリレー・スピーチが行われました。人質司法を体験した当事者及び関係者、合計19名が事件の概要、当時の思い、人質司法解消の必要性を語りました。

赤阪氏は、5ヶ月間勾留されました。黙秘すると宣言してもおかまいなしに毎日朝から晩まで取調べが行われたことや、家族との仲を切り裂こうとするような捜査が行われたこと、起訴後も拘置所に入れられ、家族と会えない状況が2年以上続き苦しんだことなどを語り、「同じような状況になる人が出ないことを願っています」と結びました。


赤阪友昭氏

赤阪友昭氏


青木惠子氏

青木惠子氏

2016年に再審無罪判決が確定した青木氏からは、自白した場合には優しく接してくる一方で、否認するとまともに医療を受けさせないという捜査機関のあからさまな態度の違いが語られました。さらに「密室の中では、警察の言うことが全て本当に聞こえてしまった」とも述べた上で、「他の人にこんな体験をして欲しくない」という思いを強く伝えました。

A氏は、人質司法の問題点について、①勾留中の先が見えないことによる不安、②仕事ができないことによる経済的な不安、③身体拘束を受けることによる防御の準備の難しさの3点を挙げました。まるで兵糧攻めにあっているようなもので、虚偽自白をしたくなるのも無理もないと感じたとのことです。そして求刑された2年のうち半分以上にあたる1年2ヶ月の勾留が裁判までになされてしまうことの矛盾を指摘しました。



菅家かずみ氏

菅家かずみ氏

菅家氏は、エアコンのきかない蒸し暑い部屋での取調べ、人間の尊厳を剥ぎ取られるような扱い、「子どもを返したら今度こそ殺される」「お前は異常」といった捜査官の罵詈雑言などを挙げました。そして息子と引き離された状態での取調べは、自分自身だけでなく我が子を人質に取られたようであったとも語り、「もう誰もこれ以上こんな体験をしない世の中になって欲しいです」と結びました。

まず大川原氏は、中小企業にとって最もつらいことは会社の存続であり、だからこそ捜査に全面的に協力したと述べました。それにも関わらず調書が捜査官の作文となっていたこと、その内容の杜撰さ・不正確さについて指摘しました。次に島田氏は、捜査の過ちを全く認めないどころか、反省も謝罪もしない捜査機関の不遜な態度への憤り、仲間を失った無念さを吐露しました。そして相嶋氏は、刑事被告人は病気になっても治療を受けることができないという理不尽さや拘置所の医療レベルの低さ、また成果を上げるために暴走する捜査機関をしっかり統制することができる刑事司法制度の必要性について、亡くなった相嶋静夫さんの遺影を掲げながら訴えました。


左より、大川原正明氏、島田順司氏、相嶋一登氏

左より、大川原正明氏、島田順司氏、相嶋一登氏


横尾宣政氏

横尾宣政氏

横尾氏は、900日を超える勾留中の制約の大きさ、会社を失ったことのつらさを語った上で、捜査機関による証拠の捏造や改ざんの多さと証拠の杜撰な取扱いが出鱈目な裁判につながったと強く批判しました。そして、「人質司法が何のために行われているかを見直して欲しい」と呼びかけました。

西山氏は、やってもいないことについての罪を認めたところ、取調べにあたっていた捜査官の態度が一変したことを語り、現在争っている国賠訴訟においてその捜査官がどのような証言をするのかに注目したいと述べました。そして、自身の再審に協力してくれた人々への感謝を伝えました。


西山美香氏

西山美香氏


江口大和氏

江口大和氏

江口氏は、人質司法を成り立たせている要素として、①否認や黙秘をすると保釈を認めないという実務、②取調べや劣悪な処遇による尊厳の剥奪、そして③閉鎖的で鬱屈とした環境の3点を挙げてそれらが相互に補強しあっていると指摘しました。その上で、取調べ受忍義務を課す捜査実務が国益を損なうまでに至っていると批判しました。

190日間の勾留を経験した細野氏は、事件から15年以上たって起こした再審請求の結果が出るまでには、更に長い月日がかかるだろうと述べました。それでも続けていく理由は、人質司法の実態を社会に知ってほしいから、このひどい現状をすこしでも変えたいからだとして、社会に現実を伝えることの必要性を訴えました。


細野祐二氏

細野祐二氏


高津光希氏(仮名)

高津光希氏(仮名)

高津氏は、一貫して疑いを否定したにも関わらず何一つ捜査機関が聞こうとしなかったためにえん罪が生まれたこと、人間として扱われなかったことを率直に語りました。そして、そのような捜査機関の間違いや嫌がらせから一向に保釈が認められなかったことで家族がバラバラになったとして、今でも心の中には暗い影が落ちており昔のようには戻れないと述べました。そして、「俺たちは土俵に上げたら負けたことがない」と述べた検察官や捜査官は、無罪判決が確定した今どのような気持ちでいるのかと悔しさを滲ませました。

中村一三氏は癌による痛みを勾留中に何度も訴え、主治医も強く治療の必要性を示したにもかかわらず、治療を受けることができませんでした。夫が転移した癌に苦しみながら「悔しい」と言って亡くなっていったことを語ったよし子氏は、生きる権利を奪うという司法制度の非人道性を訴えました。


中村よし子氏

中村よし子氏


マーカス・カバゾス氏

マーカス・カバゾス氏

カバゾス氏は、180日間勾留されました。裁判で無罪を勝ち取ることができたものの、その後もPTSDを含む様々な症状に苦しめられていると語りました。人質司法のあり方を防ぐためにできることは沢山あり、特に国際的に日本の人質司法の実態を発信することが有効であろうと述べました。

現在、大阪拘置所で勾留中の今西氏は手紙を通じてその思いを語りました。言われなき罪を着せられ何の前触れもなく人生にえん罪が横滑りした結果、全てが奪われ、極悪人という印象が植え付けられてしまったとする今西氏。勾留されてからまもなく5年目になるその手紙の最後は、「日差しの匂いや色を感じ、顔を見て笑い合う社会に戻るためには、やっていない事をやったと言わないといけないのですか」という問いかけで結ばれていました。


今西氏の手紙代読・茗ケ原久也氏

今西氏の手紙代読・茗ケ原久也氏


佐戸康高氏

佐戸康高氏

佐戸氏は、公判前整理手続きが終わるまでの1年2ヶ月に及ぶ勾留を耐えられたのは、信じて支援してくれる人たちのおかげであったと述べました。その上で、接見禁止や資料へのアクセスが制限されるなど、人質司法により裁判に備える環境が奪われてしまうこと、その結果として公平な裁判を受けられなくなることが最も重大な問題であると指摘しました。

B氏は勾留中、痔による大量出血が起きたものの、ただちに投薬や治療を受けることはできませんでした。衰弱し切った末にようやく入院となった時には、医師が驚くほどの危険な状態であったといいます。偽りの自白をしようと何度も思うような過酷な人質司法によって殺される一歩手前であったと述べ、さらにその影響は量刑や行刑にも及ぶと指摘しました。



八田隆氏

八田隆氏

八田氏は、捜査権力が絶対に間違いを犯さないという無謬性が人質司法の大前提として存在していると指摘しました。そして、公判廷における被告人の供述よりも検察官が作成した調書が有力な証拠となる調書主義こそが、捜査機関が人質司法を必要とする理由であるとして、この実態を変えるためには法改正が不可欠であると締め括りました。

藤井氏は、市長という立場でえん罪に巻き込まれた経験から、個人に対する追い込みのみならず、周りの人々を巻き込み、さらに社会的制裁と引き換えに自白を迫る捜査機関のあり方を批判しました。そして、より多くの国民に人質司法の問題を伝えることの必要性、特にメディアが捜査機関からの一方的な情報を発信することなく事件についてしっかり見極めることが重要であると指摘しました。最後に、「人質司法をなくすために尽力したい」と述べた上で、会場に「頑張りましょう!」と力強く訴えました。


藤井浩人氏

藤井浩人氏

当日はサバイバーに加えて、国会議員からのスピーチがありました。伊藤孝江議員(公明党)、福島瑞穗議員(社民党)、齊藤健一郎議員(NHKから国民を守る党)、打越さく良議員(立憲民主党)、浜田聡議員(NHKから国民を守る党)、中谷一馬議員(立憲民主党)が登壇し、人質司法問題の深刻さを踏まえて問題解決のために尽力したいとのスピーチがなされました。その他、窪田哲也議員(公明党)、里見隆治議員(公明党)の来場を得た上、森まさこ議員(自民党)、三宅伸吾議員(自民党)、友納理緒議員(自民党)、音喜多駿議員(日本維新の会)からはプロジェクトへの応援メッセージが届けられました。



石塚章夫氏

石塚章夫氏

最後に、IPJの理事長である石塚章夫氏から閉会の挨拶が行われました。
石塚氏は、40年前から虚偽自白や人質司法が重大な課題であったにもかかわらず、今もそれが克服されていないことが残念であるとしながらも、立法が動き出していることによって、今度こそ人質司法がなくなることを期待し、皆で力を合わせましょうと高らかに呼びかけてイベントを締めくくりました。

当日は、HRWとIPJのスタッフの他、多くの学生ボランティアが参加しました。龍谷大学 刑事司法・誤判研究センター(RCWC)からは、副センター長の古川原明子(法学部教授)が参加し、会場設営や学生ボランティアの統括など運営を支えました。

イベントは、以下の動画でご覧いただだけます。
→「人質司法サバイバー国会」のYouTube動画