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2023.12.15

オヌル・エザータ弁護士「ドイツにおける制度的レイシズムとNSU事件」開催レポート【社会的孤立支援研究センター(SIRC)/犯罪学研究センター(CrimRC)】

ホームランドをレイシズムから考える

 2023年11月25日(土)、本学社会的孤立回復支援研究センター(SIRC)ならびに犯罪学研究センター(CrimRC)は、科学研究費基盤研究(A)「トランスナショナル時代の人間と『祖国』の関係性をめぐる人文学的、領域横断的研究」(研究代表:岡真理早稲田大学教授)との共催で、Onur Özata(オヌル・エザータ)弁護士連続講演会「<ホームランド>をレイシズムから考える」第1回目の講演として、「ドイツにおける制度的レイシズムとNSU事件」を京都大学北部キャンパス益川ホール(京都府京都市左京区吉田本町)にて開催し、約20名が参加しました。
 >>イベント実施概要

 はじめに、岡 真理教授が開会の挨拶を行いました。岡教授は、「ホームランドとは何か、人々はホームランドをどのように生きているのかを考えるために様々な講演会等を実施してきた。今回は、オヌル・エザータ氏を招き、ドイツにおけるレイシズムについて伺いたい」と述べました。


岡 真理教授(早稲田大学)

岡 真理教授(早稲田大学)


金 尚均教授(龍谷大学)

金 尚均教授(龍谷大学)

講演に先立ち、金 尚均教授(龍谷大学法学部/社会的孤立研究回復支援研究センター・ヘイトクライムユニット長)がNSU事件1の概要を解説しました。

 次に、移民被害者遺族の代理人をつとめる弁護士オヌル・エザータ(Onur Özata)氏が講演を行いました。通訳は、金尚均教授と鈴木克己教授(東京慈恵会医科大学)がつとめました。
 オヌル・エザータ氏による講演の概要は、次の通りです。

「2000〜2011年にドイツにおいて、ネオナチ・テロリストグループ『国家社会主義地下組織(NSU)』がトルコ系移民、ギリシャ系移民、警察官10名を殺害した事件が発生した。この事件の重要なポイントは、純粋なドイツ人でない人が殺人の標的にされたこと、そして、当初の捜査機関には、極右組織による犯行であるとの認識が全くなかっただけでなく、犯罪の嫌疑がむしろ被害者に向けられたことにある。捜査機関の失策が明るみに出たことで、ジャーナリストらから批判が寄せられた。
このNSUを巡る裁判は、戦後ドイツで最も長期化した裁判である。NSUによる事件は、ドイツにおけるこれまでの人種差別克服の努力をなし崩しにした。
2012年、当時の首相であるアンゲラ・メルケル(Angela Dorothea Merkel)は、関与した者を全員検挙して、原因究明を行うと宣言した。これを受けて、連邦および各州による15の事件究明委員会が設立された。そこでは、捜査が偏見なく行われたわけではなく、重大な欠陥があったこと、ネオナチを危険視していなかったこと、NSUは全土に支援ネットワークを有していること、憲法擁護庁(公安)は機能不全に陥っていたこと等が認定された2
NSU事件からは、捜査機関は可能な限り、ヘイトクライムの存在を認識しなければならないこと、国家と社会は人種差別に向き合わなければならず、日常的な差別や制度的差別をタブー化せず、問題を矮小化しないこと、移民の人々の背景や多様性を考慮しなければならないことが教訓として得られが、未だに全容は解明されていない。」


オヌール・エザータ氏(弁護士)

オヌール・エザータ氏(弁護士)


 次に、中村一成氏(ジャーナリスト)が講演を受けてコメントをしました。

「NSU事件では、ドイツ市民として暮らしてきた人たちが、移民だからという理由で、ギャングや密売人と疑われ、被疑者扱いされた。被害者がユダヤ人であれば、捜査当局の見立てや捜査のスピードが異なっていたのではないか。捜査当局と市民の間には、ヘイトクライムに対する認識の差があるのではないか。
日本においても、ヘイトクライムが頻発している。1997年に愛知県で起きた「エルクラノ事件」では日系ブラジル人少年が襲われ死亡し、2021年に京都府で起きた「宇治ウトロ地区放火事件」では在日コリアンが暮らすウトロ地区で放火による大規模な火災が発生した。被害者らは、社会的排除を受け、それが差別に繋がったケースである。日本は、ヘイトクライムの根絶宣言を行うべきである。そして、ヘイトクライムに対しては、量刑のガイドラインを作成し、適切に対処するべきである。」


中村一成氏(ジャーナリスト)

中村一成氏(ジャーナリスト)


 その後、オヌル・エザータ氏、中村一成氏に加え、岡真理教授、金尚均教授、鈴木克己教授を交えて、会場参加者からの質疑応答を含めたディスカッションを行いました。
 そこでは、NSU事件の背景にあるドイツにおける近年のレイシズムの勃興、日本におけるヘイトクライムに対する認識の変化等、日本・ドイツ両国のヘイトクライムに関する話題等、幅広く議論が交わされました。


会場の様子

会場の様子


【補注】
1  詳細は、本学犯罪学研究センターが2018年8月20日に開催した講演会「ドイツにおけるネオナチ組織による連続殺人事件裁判とヘイトクライムの克服」のレポートをご覧ください<https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-2314.html>。
2  ドイツ連邦議会のNSU事件究明委員会による最終報告書の詳細は、金尚均「日本におけるヘイトクライム」立命館法学405・406号(2022年)138頁をご覧ください。