2025.09.22
生物多様性が生態系を支える力を解明 ― 台湾のダム湖での9年間の観測から ―【生物多様性科学研究センター/先端理工学部】
9年におよぶ水域微生物群集の長期観測データから、生物多様性はすべての時間スケールで生態系の働きを支え続けていることを実証し、国際科学雑誌に発表。
国立台湾大学漁業科学研究所(龍谷大学 生物多様性科学研究センター客員研究員)の 鄭 琬萱博士と本学先端理工学部の三木 健教授をはじめとした共同研究チームは、台湾のダム湖の長期観測により、降水量や水温などの環境条件が変動しても、水域微生物群集の多様性は一貫して生態系機能を促進することを実証し、同研究成果を国際科学雑誌「Ecology Letters」(Wiley社)において公表しました。
英文タイトル:Biodiversity consistently promotes ecosystem multifunctionality across multiple temporal scales in an aquatic microbial community
タイトル和訳:生物多様性は時間スケールの大小を問わず生態系の多機能性を促進する:水域微生物群集における実例
著者:Wan-Hsuan Cheng(鄭琬萱 博士)1 3, Takeshi Miki(三木健 教授)2 3, Chao-Chen Lai(賴昭成 助理教授)4, Fuh-Kwo Shiah(夏復國 研究員)5, Chia-Ying Ko(柯佳吟 教授) 1, Chih-hao Hsieh(謝志豪 特聘教授)6, Chun-Wei Chang(張俊偉 助理教授)1
所属:1 国立台湾大学漁業科学研究所, 2 龍谷大学先端理工学部, 3 龍谷大学 生物多様性科学研究センター, 4 国立台北教育大学自然科学教育学系, 5 中央研究院環境変遷研究中心, 6 国立台湾大学海洋研究所
掲載誌:Ecology Letters(Wiley社)
DOI:https://doi.org/10.1111/ele.70185 ※2025年8月18日オンライン公開
研究助成:国立台湾大学、中央研究院、国家科学及技術委員会(NSTC 114-2621-M-002-004)、台湾教育部 (NTU-114V1034-3)、日本学術振興会科学研究費(23H00538)、龍谷大学研究員制度
私たちが暮らす環境では、台風や季節の変化、さらには気候変動など、さまざまな要因が生態系に影響を与えています。しかし、これまでは短期間の調査研究が中心で、環境変動と生物多様性の関係を長期的に調べた例は限られていました。
今回の研究では、台湾のダム湖の微生物群集に注目し、2014年から2023年まで隔週で観測されたデータを分析しました。その結果、降水量や水温、栄養塩(リンなど)の影響は特定の時間スケールでしか見られない一方で、生物多様性は短期・季節・長期のすべてにわたって生態系の多機能性(ecosystem multifunctionality, EMF)を高めることがわかりました。
たとえば、湖の水質改善によってリン濃度が下がると、微生物の多様性が高まり、その効果によって水質改善がさらに進み、生態系の働きがより安定することも示されました。(図1)
この研究成果は、生物多様性が「環境変動に強い生態系をつくるカギ」であることを示唆。つまり、人間の活動によって複雑な環境変化が進む中、生物多様性を守ることが、私たちの生活を支える自然環境を維持するために欠かせないことを教えてくれます。また、生態系の長期モニタリングの重要性を示すとともに、生物多様性保全活動の実践において強い説得力を持つ信頼性の高いエビデンスを提供しています。
研究チームは、今後もこの観測プロジェクトを継続し、生物多様性と生態系の関係をさらに深く解き明かすことをめざしています。

図1 本研究結果の概念図。台湾・翡翠ダムで観測した水域微生物群集では、生物多様性が一貫して生態系の多機能性(EMF)を高めていたのに対し、降水量・水温・リン(リン酸塩)量といった環境要因の効果は特定の時間スケールに限られていた。特に、生物多様性は複数の環境要因の影響を統合する“調整役”として機能し、あらゆる時間スケールでEMFを維持していたことが示された。
→詳細は《プレスリリース(2025年9月18日配信)》を参照してください。
今回の研究成果に関して、三木 健教授(本学先端理工学部/生物多様性科学研究センター兼任研究員)のコメントを紹介します。

三木 健教授(本学先端理工学部/生物多様性科学研究センター兼任研究員)
専門:定量生態学・理論生態学
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