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2019.02.09

第6回「CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会」を開催【犯罪学研究センター】

多様な視点からアプローチする「龍谷・犯罪学」

2019年1月29日、龍谷大学 犯罪学研究センターは第6回「CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会」を、本学深草キャンパス 至心館1階で開催し、約10名の方が参加しました。
【イベント概要>>】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-2980.html

今回の研究会では、石塚伸一(本学法学部教授・犯罪学研究センター センター長・「治療法学」ユニット長)、古川原明子(本学法学部准教授・犯罪学研究センター「科学鑑定」ユニット長)、の2名による発表が行われました。

研究会前半では、石塚伸一教授による発表が行われました。治療法学ユニットでは、これまで社会技術研究開発センター(RISTEX)と共同して、「アディクションからの回復」をテーマに研究を進めてきました。


石塚伸一(本学法学部教授・犯罪学研究センター センター長・「治療法学」ユニット長)

石塚伸一(本学法学部教授・犯罪学研究センター センター長・「治療法学」ユニット長)


アディクションとは、嗜癖あるいは嗜虐行動のことです。具体例として、アルコール依存、薬物依存、DV、性暴力、ギャンブル依存、万引き、摂食障害、インターネット依存を指します。石塚教授は、アディクションの問題の背景に「孤立」を挙げました。石塚教授は、人が「孤立」に陥る流れを、つぎのように説明しました。子どもが成長過程において、自身を尊重される経験が乏しいまま親から虐待的行為を受けてしまう。虐待的行為からの束の間の解放感あるいは統制を望み、やがて物や行為に依存してしまう。そして、周りの人々からの信頼や評価を失い、「孤立」してしまうのです。

そこで、治療法学ユニットでは、「孤立」を背景としたアディクションからの回復を支援する『ATAnet』(多様化する嗜癖・嗜虐行動からの回復を支援するネットワークの構築)と連携をとりながら、日本の薬物問題の状況に適合するテーラーメイドの「新たな薬物政策」を構築し、類似した社会的・文化的環境にある東アジア地域においてこれを普及・展開することを目的としています。

『ATAnet』では、「アディクション円卓会議(“えんたく”)」を設けて、アディクションからの回復を支援しています。“えんたく”は、依存問題の解決に際してどのような問題や課題があるかの共有を目的としています。具体的には、Aグループ(Addict=当事者)、Bグループ(Bonds=親、支援者)、Cグループ(Collaboration=回復支援に共同する人たち)という3つの円卓を設けます。はじめに、グループのメンバー間で話し合い、理解を深めます。つぎに、各グループが同じ目線や立場で問題を共有できるように、垣根を越えて話し合うのです。
石塚教授は「アディクションからの回復において我々に必要なプロセスは、知る(当事者のことを理解する)、分かる(自分の中で腑に落ちるようにする)、支える(当事者を理解し、自分の中で腑に落ちたうえで、行動として支える)ことである」と述べました。


参照:http://www.jst.go.jp/ristex/pp/project/h28_1.html

参照:http://www.jst.go.jp/ristex/pp/project/h28_1.html


つづいて、研究会後半では、古川原明子准教授がこれまでの科学鑑定ユニットの研究成果を報告しました。科学鑑定ユニットは、犯罪と科学との関係を扱うユニットです。DNA鑑定や画像解析鑑定など裁判で使われる科学的証拠はたくさんありますが、これらの信頼性を問い直し、国内外の科学者の知見を踏まえて、信頼できる鑑定を刑事裁判で用いるための基準の提言を目指しています。 


古川原明子(本学法学部准教授・犯罪学研究センター「科学鑑定」ユニット長)

古川原明子(本学法学部准教授・犯罪学研究センター「科学鑑定」ユニット長)


現在、科学鑑定ユニットでは、揺さぶられっ子症候群(SBS)*1を中心に研究を行っています。2018年2月10日に龍谷大学・響都ホールで開催された国際シンポジウム「揺さぶられる司法科学-揺さぶられっ子症候群仮説の信頼性を問う」は、国内外から大きな注目を浴びました。
【関連記事>>】2018年 国際シンポジウム「揺さぶられる司法科学 揺さぶられっ子症候群仮説の信頼性を問う」開催レポート


古川原准教授は「研究成果が最近少しずつ表れている」と報告しました。揺さぶられっ子症候群に関する刑事裁判で不起訴・無罪判決が見られるようになってきたのです。その過程で、法医学や小児脳神経学を専門とする医師らとの議論の場が醸成されつつあります。

そして、古川原准教授は「昨年2月の国際シンポジウムでは、問題意識の共有がなされた。さらに、海外の議論状況を踏まえながら、医学・法律・福祉といった複数の観点からの検討を進めていく予定である」と述べました。

科学鑑定ユニットは、新たな研究報告の場として、2019年2月14日、岐阜・朝日大学で、国際シンポジウム「SBS/AHT~わかっていること、わかってないこと~」【>>詳細】、2月16日東京・弁護士会館で「国際シンポジウム揺さぶられっ子症候群(SBS)を知っていますか」【>>詳細】を開催します。

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「CrimRC(犯罪学研究センター)公開研究会」は、犯罪学研究センターに関わる研究者間の情報共有はもとより、その最新の研究活動について、学内の研究員・学生などさまざまな方に知っていただく機会として、公開スタイルで開催しています。

今後もおおよそ月1回のペースで開催し、「龍谷・犯罪学」に関する活発な情報交換の場を設けていきます。
次回は2/12(火)に開催予定【詳細>>】です。ぜひふるってご参加ください。

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【補注】
*1「揺さぶられっ子症候群(SBS)」
The Shaken Baby Syndromeの略で、1970年代にアメリカの小児科医が提唱。網膜出血・脳浮腫・硬膜下血腫の三徴候は、激しく子どもを揺さぶることで生じるという仮説。医師の間にはこの三つの症状(これは三徴候とよばれる)があれば虐待があったとしてよいという考え方があり、これを警察官や検察官、そして裁判官が信じていることから、三徴候の存在を理由に虐待があったとして逮捕・起訴される例が少なくない。

【参照サイト】
「SBS(揺さぶられっ子症候群)を考える」
https://shakenbaby-review.com/wp/