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2019.12.27

【犯罪学CaféTalk】津島昌弘教授(本学社会学部 /犯罪学研究センター 研究部門長/ 「犯罪社会学」・「意識調査」ユニット長)

犯罪学研究センター(CrimRC)の研究活動に携わる研究者について、気軽に知っていただくコーナー「犯罪学CaféTalk」。研究の世界に馴染みのない方も、これから研究者を目指す学生の皆さんにも、是非読んでほしい内容です。
今回は、津島昌弘教授(本学社会学部 /犯罪学研究センター 研究部門長/ 「犯罪社会学」・「意識調査」ユニット長)に尋ねました。
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Q1. 津島先生の行っている研究について教えてください。


「私の専門は犯罪社会学・社会統計学です。さらに厳密に言うと、『計量犯罪学』と呼ばれるもので、犯罪現象を数字から分析します。犯罪原因の解明や政策の効果などを数字で立証するという分野になります。ただ、日本ではこれまであまり熱心に研究されてきませんでした。なぜなら、法務省や警察庁など国の関連機関が膨大なデータを保有しており、学術的に使えるデータに限りがあるからです」  

「私の研究方法として、当初は国の公式統計、『業務統計』と言われる行政機関が業務上処理した記録から作成されるデータを基に分析していました。警察の認知件数、検挙件数や検挙率といった統計も『業務統計』に該当します。そうしたデータを使い、マクロな視点から犯罪や非行現象の社会経済的な要因を調べています。ただし、警察統計は警察活動という系統誤差の影響を受けやすい弱点があり、『暗数』(被害者が通報しなかったなどの理由で警察が認知していない犯罪の件数)が存在します」
「その後、浜井浩一教授(本学法学部・犯罪学研究センター国際部門長)からアドバイスを受けながら、アンケートによる大規模国際比較調査プロジェクトに参加しました。直近では、私がユニット長を務めている犯罪社会学ユニット、意識調査ユニットで、『国際自己申告非行調査(International Self-Report Delinquency Study: ISRD)』*1を実施しています」
>>【犯罪学研究センター】「ISRD-JAPANプロジェクト」

Q2. 以前、浜井先生とともに、女性に対する暴力に関する調査を日本で実施されました。調査の結果、海外と比較して見えた日本の傾向、特徴は何ですか?
「女性に対する暴力に関する調査(アンケートを用いた標本調査)では、日本は女性が被害に遭ったとしても、加害者が恋人や配偶者の場合、通報しないという傾向が浮かび上がりました。なぜかというと、身内に恥をかかすことになりかねないという意識が内面にあるからです。また、刑事司法に対する信頼調査(同じくアンケートを用いた標本調査)では、警察に対する信頼と警察への協力とのつながりにおいて国際的な常識と違う結果になりました。欧米では、『警察を信頼することができるか』という設問に対して『信頼できる(=警察は頑張っている、能力が高い)』と高く評価する人は、事件に関する目撃情報を提供をしたり、何か起きた場合はすぐに通報したりするなど、警察に協力する傾向にあります。さらに、そういった人は違反行為を行わない傾向にあります。この考え方は『Procedural Justice Model=手続き的公正』と呼ばれています」
「しかし、日本の場合は、『警察を信頼することができる』と回答しても、必ずしも警察に通報するということにならないんです。どうしてかというと、日本はそもそも犯罪が少ないですから、警察と接触する機会はほとんどなく、警察は身近な存在ではありません。事件を目撃しても警察に通報することは、警察の能力を評価し、警察を信頼している多くの人にとっても、ハードルが高いように思われます。警察への協力には、警察に対する信頼とは別に、なにか他の要因が働いていると思われます」
「日本の犯罪が少ない理由に、警察はあまり関係していないのかもしれません。なぜなら、日本の犯罪は、警察の存在より、人に見られているという意識『相互監視』の部分で抑制されているからです。何か悪いことをすると周囲からとんでもない罰を課せられるという意識が、私達自身の小さい頃からの経験や教えを通じて内面化されているんです。村八分になるのではないか、社会から排除されて孤立化するのではないかという恐怖です。個人がやったことの影響は、家族や親族にも波及しますからね。その地域やその社会では生きていられなくなるかもしれません。だから、警察に対する信頼と犯罪抑止のつながりを説明する欧米の理論があまり当てはまらないのが(もちろん、全然関係ないとは思いませんが)日本の特徴ですね。そういうことを、日本で独自に調査を行い、国際比較すると見えてきました」
>>【犯罪学研究センター】研究部門長インタビュー「女性に対する暴力に関する調査で見えたこと」


Q3. 自身の学生時代を振り返りながら、社会学の面白さやその醍醐味を教えてください。
「大学時代、私は法学部に所属していました。そのため、刑事司法の教科書を読む機会がありました。教科書の最初には、犯罪の原因論が書かれていました。歴史的なところから始まり、生物学や社会的要因など様々な視点から犯罪の原因が示されていたのです。その時に『面白い!こんな学問があるんだ!』と思いました。だけど、どの教科書もそうでしたが、中盤ぐらいになってくると、内容が『固く』なってくるんです。犯罪の原因ではなくて、犯罪や非行をどう予防するかという制度、言い換えると人の管理の話になってしまいます。そうなると、途端につまらなく感じてしまいました。『人はなぜ犯罪をおかすのか』『自分と犯罪者はどこが違うのか(違わないのか)』について勉強したいけど、どうしようかなと。やがて、犯罪の原因を調べるというのは、行動科学の分野だと気付きました。いわゆる、心理学、教育学、社会学などで、当時は社会学がリードしていました。社会学のなかでも、犯罪社会学の犯罪と逸脱という分野を発見し『じゃあ、社会学が良いな』と(笑)それで、大学院では社会学を専攻し、研究の道へ進むようになりました」
「現在、社会学部の生徒を指導している中で『社会学は、掴みどころがない学問で分かりづらい』と言われることがあります。ゼミ生からは、就活で『社会学って何してきたの?』と尋ねられたときにうまく答えられないという相談をよく受けます。4年間も勉強して答えられないのは良くないんですけどね…。社会学が掴みどころのない学問だと言われるのは、いくつか理由があります。その一つは、社会学は学際的な学問であるということです。犯罪学もそうですが、社会学は複雑な社会問題を幅広く扱います。社会学、特に黎明期の社会学の最終的な目標は、政策につなげて、社会問題を無くすことです。ただ、研究者のなかには『そうじゃないだろう』という意見も挙がってくると思います(笑)研究の目的だけでも色んな見方があるんです。調査もそうです。特にアンケート調査は、社会学のお家芸ですが、他にもインタビュー調査やフィールドワーク調査、文献調査など多様な調査があります。そういう幅広さが、社会学のイメージを曖昧にさせているんだと思います」


「やはり、私が思う社会学の一番の面白さは複眼的な視点を持つということです。常識的な視点だけでなく、立場の違う人から見るとどうなるかということです。そこで社会学で出てくるのは、ジェンダーであったり、マイノリティであったり、いわゆる社会的弱者の人ですよね。社会学の研究では、常識的な考え方ではない多様な視点が大事なんです。社会の裏側から見るとどうなるかということも含めてです。犯罪学もそれに近いものがありますよね。犯罪者も社会的に見るとマイノリティですから。そうした異なる立場から何が見えるのか。視点を変えてみないと、犯罪の原因などは、なかなか分からないでしょうね。突き詰めて言うと『なぜ、一般的にも道徳的にも、良くないことをするんだろう』ということになりますから。きっと当事者の立場にならないと分からない、理解できないことがある、そのために色んな視点で考える。それが社会学の醍醐味です」

Q4.犯罪学研究センター研究部門長として、犯罪学研究センターで実施している各ユニットの研究について、どう思われていますか?
「2019年3月の『犯罪学研究センター 中間報告会』の開催を通じて、非常に学際的で幅広い領域のテーマを扱っているということを改めて実感しました。これは、とても重要なことなんです。研究の幅広さもさることながら、それぞれの学問には独自の見方がありますよね。発想自体が全然違います。同じ一つの犯罪現象をとってみても、各ユニットが同じところを見ているようで、実は見ていない。一通り報告を聴いてみると、とても新鮮で、自分が知らなかった取り組みがたくさんあることを思い知らされました。もちろん、分野が違うので、知らないこともありましたが、知らないで済ませてしまうのは良くありません。それは、私個人だけでなくユニット全体にも言えることです。ですから、今はお互いの研究がバラバラかもしれませんが、少しずつ感化し合って、今後より総合的、体系的にフィードバックできるようになれば良いなと考えています」
「たとえば、発達障害の分野は、社会学領域では限界があるんです。社会のなかで発達障害の人たちにどのように対応すると良いのかということは、社会学だけでは手が及ばない部分が多く、そうした部分には精神医学はもちろん、教育学や社会福祉学の視点が必要です。それぞれの知見が嚙み合わないと解決できないのではないでしょうか。その点、犯罪学研究センターは各ユニット同士で相乗効果が生まれやすい体制になっています。それが、研究部門長として考えている当センターの大きな強みです」

Q5. 最後に、津島先生にとって「研究」とは?



『挑戦と“果実”』です。研究って、社会学の特徴と似ていて複雑なんです。研究は、自分が楽しいからやる、いわゆる遊びの側面があります。振り返ると院生のときは、楽しいという想いが自分の中を大きく占めていましたね。ただ、職に就くと定期的に論文を書いて成果を生み出さないといけません。依頼原稿の場合、与えられたテーマは必ずしも自分がやりたいものとは限りませんし、締切もあります。そうなると、楽しさよりも苦しさが生まれてきます。でも、苦しみながらも、そこを抜けると、新たな楽しさを発見します。これは、一人旅みたいなものなんです。一人旅は大変ですよね。一人旅も研究もリスクを伴いますが、リスクを負わないと何も得ることはできないのは同じです。これを私は『挑戦と“果実”』と呼んでいます。旅は挑戦とも言えます。たとえ、挑戦して得たものが甘くても、苦くても、『人生の宿題』だと思いながら研究を続けていきたいです」


津島 昌弘(つしま まさひろ)
本学社会学部 /犯罪学研究センター 研究部門長/ 「犯罪社会学」・「意識調査」ユニット長)
<プロフィール>
本学社会学部 。専門は犯罪社会学、社会統計学。矯正・保護課程委員会の委員長を務めた経験を持つ。統計を用いた調査力には定評があり、現在は犯罪被害調査などを中心に研究を進めている。

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【補注】
*1「国際自己申告非行調査(International Self-Report Delinquency Study: ISRD)」:
統一した質問紙(アンケート)による調査を世界各国の中学生に対して実施し、その結果を比較・共有しようとする国際プロジェクトで、非行・被害の特徴やその背景の解明、学問的な理論検証に強みを持つと言われている。さらに、国際比較によって、国家間の類似点や相違点を引き出すこともできる。これまで日本はこのISRDに参加してこなかったが、犯罪学研究センターの設立を機に、若手研究スタッフを中心に2017年にISRD-JAPANが設立された。
>>【犯罪学研究センター】「ISRD-JAPANプロジェクト」