2020.09.16
六字のうちにすむ 六連島のおかる
重荷せおうて 山坂すれど
ご恩おもえば 苦にならず
ああ うれしみのりの風に身をまかせ
いつもやよいの ここちこそすれ
鮎は瀬に住む 小鳥は森に
わたしゃ六字の うちにすむ
妙好人 六連島のおかる
『妙好人のことば』梯實圓 著 (※1)
●重荷せおうて 山坂すれど (人生は苦なり)
お釈迦さまは
「人生は苦なり」
と言い切ってくださいました。
でも、こう聞くと
「たしかに、人生は苦しいときもあるだろうけど、楽しいことだってあるんじゃないの?
人生=苦 って言い切るのはお釈迦さまもちょっと極端なんじゃない…?」
と思いませんか?
実はお釈迦さまが仰る「人生は苦なり」の「苦」というのは、
「思い通りにならない」
という意味なのだそうです。
「人生は苦なり」と聞くと、ちょっと受け入れ難くても、「人生って、なんでもかんでも思い通りにはならないよね」と言われたら、「ああ、たしかにそうだな~」とうなずけるのではないでしょうか。
もちろん、思い通りになることだってたくさんあります。
努力をして解決できることだってあるでしょう。
でも、やっぱりどうしても思い通りにならないことってありますよね。
みんな、いつまでも若くいたいし、健康でいたいし、楽しく長生きしたい。
でも、老いたくなくても老いていくし、健康でいたくても病気になるし、死にたくなくても、いつか必ず死なないといけない日がきます。
人生、完全には思い通りにはなりません…
他にも、
大切な人とお別れしたり、
反対に嫌いな人と会わないといけなかったり、
欲しいものが得られなかったり、
生まれつきのことでコンプレックスを持っていたり、
人は
「こうだったら良いのになあ…」
といろいろな理想を持っているけど、やっぱり理想通りにはいかないことが多いんですよね。
みんなそれぞれに思い通りにならないことを沢山背負って、上ったり下ったりしながら歩いていくのが人生というものなのかもしれません。
●ご恩おもえば 苦にならず ああ うれしみのりの風に身をまかせ いつもやよいの ここちこそすれ
すみません。
何やらすごくネガティブなスタートでした…
でも、たとえ思い通りにならないことであっても、捉え方によっては「苦」にならないことだってあるんです。
例えば、同じように山道を歩くにしても、一人で歩くときと、一緒に連れ添う仲間が居るときとは随分と違うでしょう。
重い荷物を一緒に背負ってくれる人が居たらどうでしょう。
背負ってくれなくても、同じ重さを持っているんだなと苦しみをわかってくれる人が居たら、苦しくてもただの苦しみではなくなるのではないでしょうか。
一人で
「重いなあ…」
と歩く山道と
二人で
「重いねえ」
と言い合いながら歩く山道は、ずいぶんと気分が違うでしょう。
連れ添ってくれる人と一緒なら、歩んでいける。
本当にわかってくれる人が居るなら、苦しみだって受け入れられる。
それもまた人生なのかもしれません。
●鮎は瀬に住む 小鳥は森に わたしゃ六字の うちにすむ (あなたにもきっと居場所がある)
おかるさんのこの言葉の最後には
「鮎は瀬に住む
小鳥は森に
わたしゃ六字の
うちにすむ」
と
鮎や小鳥、そしておかるさん自身が生きていく居場所についての言葉があります。
鮎は川の中で、沢山の仲間たちと泳ぐ
小鳥たちもまた、森の中では沢山の仲間たちとさえずりあっています。
そして、人には家庭や学校や職場など、仲間がいる場所がありあます。
でも、そんな場所に居ても、
「私はひとりぼっちなんだ…」
と思ってしまうときだってありますよね…
実はおかるさんにはそんなときがありました。
おかるさんは今から200年ほど前、下関から西へ約4キロメートルにある六連島(むつれじま)という島に生まれ育った女性でした。
働き者の優しい夫と結婚し、子どもにも恵まれ、幸せな家庭を築いていたのですが、その夫の浮気により、おかるさんは深く深く傷ついたのだそうです。
最も信用していた愛する夫に裏切られた想いは、どれほどおかるさんを苦しめたのでしょうか。
きっと、この時、おかるさんは、自分が居ても良い場所が奪われたような、そんな寂しい気持ちであったことでしょう。
自分ですら自分を見捨ててしまうような気持ちにまで追い込まれてしまったのだそうです。
しかし、おかるさんはその苦しいご縁によって仏法と出あっていかれました。
「わたしゃ六字のうちにすむ」
の六字とは、南無阿弥陀仏の六字です。
誰が見捨てても、私自身ですら私を見捨てても、決して私を見捨ててくださらない仏さまが、南無阿弥陀仏という仏さま。
居場所がないと泣いていても、いつどんなところでも、仏さまは私を包み込んでくださっている。
その想いが、
わたしゃ六字のうちにすむ
なのでしょう。
仏さまに居場所をあたえられたおかるさんは、自分を苦しめる縁を作った夫にも仏教を勧め、再びおしどり夫婦になることが出来たのだそうです。
「苦しい」と言っても良い場所、
苦しみをわかってもらえる人が居る場所、
存在が認められる場所、
そんな場所があれば、人はそこからまた、重荷を背負った人生でも力強く歩み出すことが出来るのでしょう。
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★補足解説★
【妙好人ってなに?】
浄土真宗の教えをよろこび、お念仏に生きる人を妙好人(みょうこうにん)といいます。
浄土真宗で大切にする七高僧(しちこうそう)のお一人である善導大師(ぜんどうだいし)は、妙好人は千の花びらをもつ白い蓮の華のように素晴らしい人であると説かれました。 (※2)
【お釈迦さまが説かれた苦しみってどんなもの?】
仏教では八つの代表的な苦しみが説かれています。
①生=生まれる苦
②老=老いる苦
③病=病になる苦
④死=死ぬ苦
の四つと
⑤愛別離苦 愛するものと別れる苦
⑥怨憎会苦 憎むものと会う苦
⑦求不得苦 求めるものが得られない苦
⑧五陰盛苦 人間であるかぎり心身から溢れ出る苦
これらを
四苦八苦といいます。
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★注釈★
※1 『わかりやすい名言名句 ── 妙好人のことば』梯實圓 著 (1989/法蔵館)
※2 『観観無量寿経疏』散善義『註釈版聖典七祖編』499頁)
(解説・宗教部 保田正信)
画像素材 いらすとや
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