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2021.04.02

「みんなで話そう京都コングレス2021〜龍谷コングレスに向けて〜」第1部開催レポート【犯罪学研究センター】

現在の日本の刑事司法・刑事政策は「市民の、市民による、市民のためのもの」になっているだろうか?

2021年3月12日、犯罪学研究センター主催のシンポジウム「みんなで話そう京都コングレス2021〜龍谷コングレスに向けて〜」をオンライン上で開催し、約60名が参加しました。
【>>イベント概要】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/event/entry-7969.html
【>>第2部開催レポート】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-8180.html
【>>第3部開催レポート】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-8181.html


1970年8月、京都において国連犯罪防止刑事司法会議(コングレス)が開かれてから半世紀。2021年3月7日〜12日に、ふたたび京都において「第14回 国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)」が開催されました。
これまで犯罪学研究センターは、この京都コングレスを意識しながら、「人にやさしい犯罪学」をモットーに、対人支援を基軸とした科学的証拠に基づいた犯罪学を構築し、日本国内だけでなく、広く世界にアピールすることを目的に研究活動を展開してきました。
 本シンポジウムは、「刑事政策の過去・現在・未来」をテーマに、京都コングレス・サイドイベントに参加した研究者やユースフォーラム参加学生をゲストに迎え、市民の視点で捉える京都コングレスの開催意義をはじめとした、当センターの目指す新時代の刑事政策構想について、参加者の皆さまと一緒に考えることを目的に企画しました。


当日のプログラム/司会進行:古川原 明子准教授(本学法学部、犯罪学研究センター「科学鑑定」ユニット長)

当日のプログラム/司会進行:古川原 明子准教授(本学法学部、犯罪学研究センター「科学鑑定」ユニット長)

開会に先立ち、津島 昌弘教授(本学社会学部、犯罪学研究センター研究部門長)による挨拶が行われました。津島教授は「なぜ龍谷コングレスなのか」という点が、今回のシンポジウムのポイントになると主張。「市民の、市民による、市民のための龍谷独自の刑事政策構造の構築に向けて」というフレーズ、またノルウェーの犯罪学者 ニルス・クリスティ氏*1のアイディアを用いて、現在の日本の刑事司法・刑事政策は「市民の、市民による、市民のためのもの」になっているかを参加者に問いかけました。


津島 昌弘教授(本学社会学部、犯罪学研究センター研究部門長)

津島 昌弘教授(本学社会学部、犯罪学研究センター研究部門長)

クリスティ氏は犯罪に対する姿勢について、昔は被害者と加害者に加えて地域の皆で話し合いをしたうえで妥協点を見出し解決に至っていたのに対し、近代社会では法に則り法の専門家によって解決が図られるようになったことに問題があると考えました。犯罪に対する法律の専門家による独占的な介入こそが当事者の対話、つまり問題となっている事実について、お互いの考えを理解する試みや合意に至るプロセスを考える機会を奪うことに繋がっているのではないか?と主張したのです。この考えを基に、津島教授は「京都コングレスはいわば専門家のイベントである。クリスティ氏の唱える“対話”という市民の共有財産を、専門家の手から市民の手に取り戻すこと。本日のシンポジウムの狙いはそこにあると私は考えている」と述べ、さらに「この龍谷コングレスでの話し合いを通して、刑事政策のあるべき姿の組み立てに繋げるためにも、皆様の活発なご発言を期待している」と参加者に呼びかけました。
 

第1部では、はじめに京都コングレス・ユースフォーラム参加学生から報告がありました。京都コングレス・ユースフォーラムは、世界の若者たちがコングレスの議題に関連したテーマについて2日間にわたって議論を行うものでユースフォーラムにおける議論の結果は「勧告」として採択され、本会議(コングレス)に提出されます。議論全体のテーマは「安心・安全な社会の実現へ ~SDGsの達成に向けた私たちの取組~」であり、個別テーマとして「青少年犯罪の予防・罪を犯した青少年の社会復帰における若者の役割」「法遵守の文化を醸成するための若者の責任」「安全なネット社会に向けた若者の責任」の3つに分かれており、龍谷大学からは4名が会場参加して世界各国の若者と熱い議論を交わしました。

参加した学生たちは、議論や経験を通して新たに学んだことや今後の展望、さらにこれからの新入生に向けて伝えたいことを各自報告しました。
【>>関連NEWS】ユースフォーラム参加学生による報告内容はこちら


ユースフォーラム参加学生による報告のようす1

ユースフォーラム参加学生による報告のようす1


ユースフォーラム参加学生による報告のようす2

ユースフォーラム参加学生による報告のようす2

つぎに、宮澤 節生教授(神戸大学名誉教授, アジア犯罪学会会長)、平山 真理教授(白鴎大学・法学部)から「京都コングレス・ サイドイベントを主催して」をテーマに報告がありました。宮澤教授と平山教授は、サイドイベントではACS(アジア犯罪学会)スポンサーセッションとして、「性犯罪」「刑事司法システムにおける被害者の観点と視点」「刑事裁判における一般市民の参加」「日本の映画やテレビドラマ、小説における刑事司法のイメージ」の4つのセッションを共に担当しました。
新型コロナウイルスの影響もあり、「京都コングレス」は当初の予定から大幅に延期して行われました。宮澤教授は、延期に伴う参加登録手続きの困難、情報の混乱があったこと、また現地参加(京都国際会館)と海外からのオンライン参加のハイブリッド形式で行われたことによる通信トラブルや画面表示に関する問題点など、懸念すべき点があったことを報告しました。
宮澤教授は「手続き等、多少不便な所はあったが、わずかでも私たちの報告内容を聞いてくれた人、とりわけ海外の人たちがいたと思うと参加して良かったと思える。また法務省が大きな力を発揮して、財政力を使った場面もある。私たちが2021年6月に行うアジア犯罪学会 第12回年次大会(ACS2020)にとっても参考になる部分がある」と、参加した感想を反省や経験を踏まえて報告。つづけて平山教授は「ネット環境が不安定だったため、当日も不安に感じていた。またオンラインで視聴している人はスライドの画面表示が小さく見えづらかったのではないかと思う。しかし、各セッションのサポートスタッフが親切だったこと、後日セッションの様子が視聴できるといった点は良かった」と述べ、「オンライン視聴者からチャットに、リアルタイムに質問やコメントが入るのを見て、報告内容に関して多くの人に関心を持ってもらえたと実感した。コロナ禍で他国と積極的な交流を図ることは難しくなってしまったが、日本における刑事司法の課題を様々な観点から比較法的に論じることができたので、参加して良かったと思う」とオンライン機能の利点に触れながら実際の状況をまとめ、報告を終えました。


宮澤 節生教授(神戸大学名誉教授, アジア犯罪学会会長)

宮澤 節生教授(神戸大学名誉教授, アジア犯罪学会会長)


平山 真理教授(白鴎大学・法学部)

平山 真理教授(白鴎大学・法学部)

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【補注】
*1 ニルス・クリスティ(Nils Christie)
1928年–2015年5月27日。ノルウェー出身。社会学、犯罪学者。オスロ大学教授であり、コペンハーゲン大学名誉学位を取得。北欧犯罪学をリードし、人間を大切にする刑事政策の実現に多くの成果をあげてきた。